カレントアウェアネス-E
No.381 2019.12.05
E2204
環太平洋研究図書館連合(PRRLA)2019年総会<報告>
東北大学附属図書館・三角太郎(みすみたろう)
2019年9月1日から4日まで,環太平洋研究図書館連合(PRRLA;E1979,E2086参照)の2019年総会が韓国の高麗大学校で開催された。PRRLAには米国,カナダ,中国,韓国,シンガポール,インドネシア,オーストラリア等の太平洋をとりまく地域から43の大学等の図書館が加盟し,図書館の機能向上にむけた様々な活動を行っている。東北大学は例年総会に参加し,事例報告も一昨年の中国,昨年の米国での総会に続き三年連続で行っている。総会参加は通常は図書館長と随行1人であるが,2019年度は東北大学からは筆者を含む図書館職員2人での参加となった。
総会のテーマ「共同と連携を通した図書館の改革」(Transforming our libraries through partnership and collaboration)に沿って,図書館間連携(Among Libraries),キャンパス内連携(On-Campus),組織を超えた連携(Beyond Libraries and Universities),学習支援と人材育成のための連携(for Learning and Professional Development)の4つの視点から11の講演があり,学内外の諸部署,諸機関との連携をベースにした様々な取り組みが紹介された。
注目のトピックとして,米国のカリフォルニア大学におけるオープンアクセス(OA)への転換にむけた取り組み,特にElsevier社との転換契約(transformative agreements)にむけた取り組みについての報告があった。同大学はバークレー校など10校から構成される大規模研究大学で,一校一校が一つの大学に相当する規模である。報告では米国から発信される研究成果の10%は同大学の構成員から発信されたものとしており,OA推進でもリーダーシップをとってきた。現在,同大学の構成員からの論文のOA化と総コスト(購読費用,APC等)削減を目指してElsevier社との交渉を進めているが,それにむけた学内の合意形成,研究者への広報ツール整備,購読契約不成立時の論文入手の代替ツールの整備などに,学内10校が歩調をあわせて取り組んでいる状況の報告があった。
OA以外にも様々なテーマがとりあげられており,ロシア極東地区とハワイの50年にわたる図書館の交流,米国を中心とした保存にリスクのある様々な資料(物理的に脆いもの,イランや香港の政情的にセンシティブなもの等)のデジタルアーカイブ化による保存,カナダにおける様々なデジタルデータの保存に向けた連携,香港における学内諸部門と連携した学習支援サービス展開などがあった。プレゼンテーション資料は公開されているので詳細はそちらを参照いただきたいが,今回のキーワードを一つあげるとデジタルアーカイブである。今回,東北大学からは古典資料のデジタルアーカイブの構築戦略と,国文学研究資料館と東北大学を含む大学等との連携事業である「日本語の歴史的典籍の国際共同研究ネットワーク構築計画」(E1754参照)についての事例報告を行った。デジタルアーカイブへの関心は強く,国レベルでの連携の効果などについての質問があった。一方で,地域やエスニックグループの写真・動画や地方紙,チラシなど近現代のコンテンツを対象としたデジタルアーカイブの事例が幾つも報告された。失われがちな資料の保存ツールとしてデジタルアーカイブが期待されている様子がうかがえた。
全体テーマにもとづく講演以外では,PRRLAの事業報告,2018 Karl Lo Award(PRRLA参加館所属の図書館員を対象とする助成)受賞講演2件,ホスト機関である高麗大学校からの講演1件,ポスターセッションが3件あった。事業報告では運営委員紹介や会計報告,事業計画についての説明があり,参加機関間の職員の交流プログラムや,参加機関のコレクションの公開用のプラットフォームであるPacific Rim Library(PRL)の開発運用状況についての報告があった。2018 Karl Lo Award受賞講演では,カリフォルニア大学バークレー校C.V.スター東アジア図書館からのLinked Dataによる中国映画関連コレクションの組織化と,オーストラリア・シドニー大学図書館からの東アジア資料における著者情報識別とコントロールについての講演があった。
2019年現在,日本からPRRLAへ加盟している機関は東北大学のみである。日本における最新の取り組みの積極的な発信につとめているが,会期中に日本の状況について聞かれることが度々あった。PRRLAの総会は東アジア地域,北米地域,オセアニア地域の持ち回りで開催しており,次回総会は,米国のハワイ大学マノア校で2020年10月開催予定である。日本での開催は2002年東京が最後であることから,今後の日本での開催可否について聞かれることもあった。今後は日本からの参加館を増やし,国際的な存在感を高めていくことも重要と思われる。
Ref:
http://pr-rla.org/category/2019-meeting/
http://pr-rla.org/2019/09/04/2019-annual-meeting-presentations/
http://pr-rla.org/2019/07/24/2019-annual-meeting-poster-session/
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/kristin-antelman.pdf
https://osc.universityofcalifornia.edu/open-access-at-uc/publisher-negotiations/uc-and-elsevier/
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/patricia-polansky.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/amir-khisamutdinov.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/todd-grappone-su-chen.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/lisa-goddard.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/eunice-wong.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/victoria-caplan.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/yoshinao-kikuchi.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/business-meeting.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/haiqing-lin.pdf
http://pr-rla.org/pdfs/2019/presentations/chingmy-lam-and-michelle-jo.pdf
http://pr-rla.org/organization/karl-lo-award/
E1979
E2086
E1754