カレントアウェアネス-E
No.359 2018.12.06
E2086
環太平洋研究図書館連合(PRRLA)2018年総会<報告>
2018年9月16日から19日まで,環太平洋研究図書館連合(PRRLA;E1979参照)の2018年総会が米国・カリフォルニア大学バークレー校で開催された。12の国・地域の35の大学図書館から58人が出席し,日本からは筆者を含め東北大学附属図書館の職員2人が参加した。PRRLAの総会には通常図書館長と随行1人のみが参加できるが,今回は本学の館長及び副館長の都合が合わず,図書館職員2人での参加となった。他館においては複数年にわたり出席者が同一の場合もあり,職員同士の横のつながりが醸成されている様子がうかがえた。
2018年の総会では,“Access in a Networked World: Challenges, Opportunities, and Solutions for PRRLA Libraries.”のテーマのもと,5つのセッションにおいて口頭発表13件とポスター発表2件が行われ,館長自らの発表も数多く見られた。本稿では筆者による発表および,貴重資料のデジタル化やオープンアクセス(OA)をテーマにした発表4件について紹介する。この他に行われた各発表の資料はPRRLAのウェブサイトにて公開されているので,詳細はそちらを参照されたい。
本学からは,“Archives of dealing with earthquake disasters in Japan: Great East Japan Earthquake”と題して,東日本大震災を契機に設置した「震災ライブラリー」(CA1815参照)および国内関連事業について筆者が発表を行った。質疑応答では,想定している利用者,それぞれのアーカイブ間の連携,テキストデータや英語のコンテンツの有無,阪神・淡路大震災時の取り組みとの関係,ファイルの整理方法についてなど,様々な質問が出された。PRRLA参加館は環太平洋地域であるため震災や津波への関心も高く,災害アーカイブの構築・利用について具体的に興味を抱いてもらえたようである。質疑や他館の発表を通じて,画像をウェブで公開するだけではなく,テキストデータを付与し再利用できる形で整備することが求められていることを実感した。
会場校であるカリフォルニア大学バークレー校からはホストプレゼンテーション(同校図書館の紹介)および研究資源の拡大についての発表があった。同校の図書館は,年間300万点の画像作成を目標としており,画像作成のためにスキャン専門の技術者を雇っている。発見可能性およびアクセシビリティを重視しており,利用促進のために本文がテキスト化され,機械翻訳可能な状態で提供されている。同校の図書館では,“Connecting learning”,“Treasures”,“Quick information service”を3本柱としている。“Connecting learning”のもとにはデジタルリテラシー教育が実施されている。図書館がデータサイエンスやミュージックリテラシーを教えるサービス,学生が教え合う相談サービスもある。“Treasures”では,所蔵コレクションにいつでもどこでもアクセスできるようデジタル化が実施されている。特殊コレクションのデジタル化を優先しており,米国に入植した頃の記録(写真,日記等)のスキャンを行っている。“Quick information service”では,サービスの1つとしてデータサイエンスの支援を行っており,データセットのプラットフォームが整備されている。
ニュージーランドのオタゴ大学からは,手稿のデジタル化に関する発表があった。コレクションを単に閲覧するだけでなく研究ツールとして役立てるプラットフォームを開発しており,発見可能性向上のためにデジタル化した手稿の文字起こしを行い,全文検索に対応しているとのことである。
カリフォルニア大学マーセド校からは,OA推進のための活動に関する発表があった。ワークショップチュートリアル,オープンアクセスウィークでのプレゼンテーション,各部局へ15分ほどの短い説明会,個別相談などを行っているとのことであり,対面での説明に重点を置いた教員への手厚い支援を行っている。
カナダのビクトリア大学では,オープンで持続可能で効果的かつ革新的な学術コミュニケーションシステムを構想している。データ管理計画の策定を支援し,データリポジトリ用のプラットフォーム“Federated Research Data Repository(FRDR)”に参加している。
PRRLAは学術研究資料へのアクセス向上のための共同事業の推進を目的としており,加盟館のデジタルコレクションを統合的に検索できるアクセスポイントを設置している。2017年より第2フェーズに移行し,現在は登録コレクションを増やすことに重点を置いている。OAI-PMHでは記述方法に限界があることから,メタデータはResourceSyncで同期される(CA1845参照)。本学も本事業への参加を検討したが,国内ではResourceSyncが普及しておらず,外部サーバを利用している当館としてはシステムの対応が困難であるため保留となっている。
PRRLAの総会は,東アジア地域,北米地域,オセアニア地域で交互に開催しており,2019年の総会は,韓国の高麗大学校にて開催予定である。日本では2002年に東京(慶應義塾大学および早稲田大学)で実施して以来開催されていないことから,次々回以降,日本での開催を期待する声も上がった。本学では図書館職員の研鑽の目的も兼ねて,2019年以降も総会への継続的な参加を予定している。日本におけるPRRLAへの加盟館が現在は関西大学と本学のみであることから,今後は日本からも参加館を増やし,国際的な存在感を高めていくことも重要と思われる。
東北大学附属図書館・小林真理絵
Ref:
http://pr-rla.org/
http://pr-rla.org/annual-meetings/2018-berkeley/
http://pr-rla.org/2018/09/2018-annual-meeting-presentations/
http://www.i-repository.net/il/meta_pub/G0000398shinsai
http://www.library.tohoku.ac.jp/shinsaikiroku/
http://pr-rla.org/wp-content/uploads/Marie_Kobayashi.pdf
http://pr-rla.org/wp-content/uploads/Sharon_Dell.pptx
http://pr-rla.org/wp-content/uploads/Emily_Lin_Jerrold_Shiroma.pdf
http://pr-rla.org/wp-content/uploads/Jonathan_Bengtson.pdf
http://prl.library.ucla.edu/index
E1979
CA1815
CA1845