カレントアウェアネス-E
No.338 2017.12.07
E1979
環太平洋研究図書館連合(PRRLA)2017年総会<報告>
2017年10月17日から20日まで,環太平洋研究図書館連合(Pacific Rim Research Libraries Alliance:PRRLA)の2017年総会が中国・浙江大学で開催された。12の国・地域の34の大学図書館から62人が出席し,日本からは植木俊哉東北大学附属図書館長と筆者の2人が参加した。
PRRLAは1997年に環太平洋デジタル図書館連合(Pacific Rim Digital Library Alliance:PRDLA)として発足した。環太平洋地域の40機関が加盟し,学術研究資料へのアクセス向上のための共同事業の推進を目的としている。具体的な事業としては「情報資源のデジタル化」「電子および冊子情報資源へのアクセス共有」「専門的知見の共有」「人材交流」「専門的能力の開発と研究」の各分野において,加盟機関間の協働や助成といった支援を行っている。2015年に現在の名称へ改称し,2016年には環太平洋大学協会(APRU)の関連組織となっている。東北大学は2016年にPRRLAへ加盟しており,今回は2度目の総会参加となった。
2017年の総会では“Challenges and Opportunities: PRRLA Libraries as Strategic Assets for Research”のテーマのもと,7つのセッションにおいて口頭発表16件とポスター発表2件が行われた。複数機関が参加する大規模な資料デジタル化プロジェクトや,各機関における研究支援の取り組みなど,内容は多岐にわたったが,ここでは「場としての図書館」にスポットを当てた発表2件について紹介したい。なお,今回の総会の発表資料は,PRRLAのウェブサイトにて公開されている。
中国・香港中文大学は,同大学図書館による研究支援プログラム“Digital Scholarship Service”についての発表を行った。同プログラムは図書館と教員が協働して,学内構成員の研究活動を,各種デジタルデバイスの利活用の側面からサポートすることを企図している。図書館内には研究支援のためのスペース“Digital Scholarship Lab”が設置され,大型ディスプレイや高性能PC,専門的なデータ解析に必要なソフトウェアなどのツールが自由に利用可能となっている。さらに専門家チームによる人的支援を受けることも可能で,一つの研究テーマへの着手から成果発表に至るまで,研究ライフサイクルの各段階において必要なサービスがパッケージ化されて提供されているとのことである。今後はより広く研究者のニーズを汲み取ることで,サービスのさらなる充実を図ることが課題となっているとのことであった。
韓国・高麗大学校は,2017年9月に図書館内に全面オープンしたばかりのCJ Creator Library(CCL)の紹介を行った。同大学校では,従来閲覧席のあった図書館の1フロアを全面改修し,騒ぐことも横に寝転がることも許される「奇妙だが理想的な図書館」を設置した。このCCLは映像の制作・編集に必要な各種装置を備えたスタジオ,学術講演やイベントが開催可能なホール,グループで利用可能な個室,ディスカッションや休憩も可能な学習スペースからなる。学内構成員であれば自由に利用でき,実際にここで制作された動画はYouTubeの公式チャンネル“KU CCL”にて全世界へ向けて発信されている。この知識の遊び場は,学内の様々なものを結びつける「ハブ」としての機能を目指している,とのことであった。
東北大学も,附属図書館が構築・運用する「和算資料データベース(旧:和算ポータル)」について口頭発表を行った。東北大学が所蔵する「和算」というユニークな分野の大規模コレクション約1万点がデジタル画像化・ウェブ公開されていること,同データベースが研究目的だけではなく学校教育や生涯学習の場でも活用されていることなどについて,参加者から多くの質問や感想が寄せられた。今回の発表は,同データベースが2010年第6回日本数学会出版賞を受賞した際,筆者が学内関係者向けに講演を行ったものの,その後学外への公表の機会を逸していた成果物を下敷きとしている。長年筆者のPC内で眠っていた内容を,国外へ出向いて英語で発表することで,多くの人々に知ってもらうことができたのは,とても刺激的な経験となった。筆者と同じように内輪の会で発表した後,お蔵入りとなっている成果物を持つ人(特に若い世代の図書館員)には,国外で開催される国際会議へ参加する機会を見つけて,英語等での発表に挑戦することを是非おすすめしたい。
2017年11月現在,日本からPRRLAへ加盟しているのは関西大学と東北大学の2機関のみである。今回の総会では,日本からのさらなる参加を期待する声が多く聞かれた。なお東北大学では,若手図書館職員の研鑽の目的も兼ねて,2018年以降も総会への継続的な参加を予定している。
2018年の総会は米国のカリフォルニア大学バークレー校にて開催予定である。
東北大学附属図書館・佐々木智穂
Ref:
http://pr-rla.org/
http://pr-rla.org/annual-meetings/2017-zhejiang
http://pr-rla.org/2017/10/2017-meeting-presentations/
http://lib.cuhk.edu.hk/en/research/digital-scholarship
https://library.korea.ac.kr/link/html/useCcl1
http://www.i-repository.net/il/meta_pub/G0000398wasan