CA1815 – 図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における東日本大震災関連資料収集の現状と課題-震災の経験を活かすために- / 永井伸

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カレントアウェアネス
No.319 2014年3月20日

 

CA1815

動向レビュー

 

図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における
東日本大震災関連資料収集の現状と課題
-震災の経験を活かすために-

 

東北大学附属図書館:永井伸(ながい しん)

 

 

1.はじめに

 東日本大震災による津波は、広い範囲に渡って甚大な被害をもたらし、被災地は依然として復興からほど遠い状況である。また、福島第一原子力発電所の事故は、今なお予断を許さない状況で、引き続き深刻な影響を広範囲にもたらしている。 このような大災害に際し、関連資料を収集、保存し、公開することは、図書館が果たすことのできる大きな役割である。これにより、災害時に何があったかを記憶し、後世に伝えることはもちろん、これだけの大災害の経験をもとに、世の中のあり方を再考し、これからの日々の暮らしを新たに創っていこうという人々のために、参考となる資料を提供できるからである。

 本稿では、市販の図書や雑誌を始め、自治体の広報紙や学校で作成された文集、学協会で刊行した報告書、支援団体が発行したイベントのチラシなど、東日本大震災に関連する様々な印刷媒体の資料(以下、「震災資料」という)の収集・公開の取組みについて、被災地の図書館共同キャンペーンを中心に現状を報告する。また、今後、震災資料の収集・公開を有意義に進める上で、筆者が課題であると感じた点について述べる。

 なお、東日本大震災をテーマとしたデジタルアーカイブの取組みが複数あるが、紙数の関係上、ここでは取り扱わないこととする。

 

2.震災資料収集・公開の状況

(1)図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」

 東日本大震災後には、被災地にある図書館を中心に、震災資料の収集が自発的に始まった。これには、阪神・淡路大震災に際し、神戸大学附属図書館を始めとして行われた資料収集の取組み(1)が大きな影響を与えていると考えられる。特別に広報していない場合でも、館内に震災資料の特設コーナーを設置している、あるいは一時的にでも設置した例は相当な数に上るのではないかと予想される。

 そのような中、各図書館での震災資料の収集・公開の取組みについて、広くその重要性を知って頂くため、岩手県立図書館、宮城県図書館、福島県立図書館、仙台市民図書館、岩手大学情報メディアセンター図書館、福島大学附属図書館、神戸大学附属図書館および東北大学附属図書館の8館が呼びかけ団体となり、図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」を2012年3月から実施している。

 具体的には、ポスターの配布、雑誌への広告の掲載、ホームページの作成などを通して、震災資料の収集、公開の活動を広報するとともに、震災資料の寄贈を広く一般にお願いしている。

 キャンペーンの呼びかけ団体を中心としたもう一つの活動として、震災資料収集・公開に取り組む図書館等の担当者が集まり、情報交換会を開催していることが挙げられる。毎回、収集済み資料の数や、収集上の工夫、新たな取組みの内容など、11の項目(2)について各館の情報を交換し、課題について相談できる場になっている。

 

(2)キャンペーン呼びかけ団体の資料収集・公開状況

 上記の情報交換会での報告内容をもとに、「震災記録を図書館に」キャンペーン呼びかけ団体となっている各館の震災資料収集・公開状況を振り返ってみたい。 まず、震災発生から10ヶ月が経過した2012年1月12日に、仙台国際センターで開催した第1回の情報交換会の時点では、多いところでも図書が500~600冊程度といった収集状況で、チラシやパンフレットなどは、ほとんど収集が進んでいない館が多かった。 第3回(2012年8月30日開催)の時点では、1,000冊を超える図書を収集した図書館が多くなった。例えば岩手県立図書館では、震災関連資料を14のテーマ別に検索できるようにしたという報告もあり、各館で分類方法もある程度確定し、本格的な公開を迎える段階になった。

 第4回(2013年2月27日開催)の情報交換会では、国立国会図書館の担当者から、震災資料の横断検索システムである「ひなぎく(3)」へのデータ提供の依頼があった。各館の資料の横断検索の実現は一つの課題であったが、解決の糸口ができることとなった。さらに、書架を整備するだけでなく、企画展示や、ブックガイドの作成、ギャラリートークといった震災資料活用のための活動を実施する図書館も増えてきた。仙台市民図書館が開催する「としょかん・メディアテークフェスティバル(4)」の展示のために、各館の知恵を出し合うこともあった。

 第5回(2013年10月23日開催)では、複本も含め2,000冊以上の図書を備える図書館が多くなった。館によって差があるが、雑誌やチラシ・パンフレットといった資料についても、千点から数千点規模で収集している図書館も出てきた。まずは公開を目指して手探りで進んできたが、利用者の便宜を考えて、当初の分類方法の見直しを検討し始めた図書館も出てきた。

 震災から3年の節目を前にして、資料の収集・公開の流れは各館である程度確立されてきたと言える。今後は、資料をどのように活用するか、また、取組を継続するために、資料の収集範囲なども含め、震災資料の収集をどう位置付けるかが、各館の課題となっている。

表1 「震災記録を図書館に」呼びかけ団体の震災関連資料コーナー
 図書館名震災資料コーナーの名称備考
公共図書館岩手県立図書館震災関連資料コーナー定期的に展示会などを開催。
宮城県図書館東日本大震災文庫資料の電子化、オンライン公開を計画中。
仙台市民図書館3.11震災文庫「せんだいメディアテーク」とフェスティバルを実施。
福島県立図書館東日本大震災福島県復興ライブラリーブックガイドの作成や出張展示セットの貸出を実施。
大学図書館岩手大学情報メディアセンター図書館自然災害関連資料コーナー岩手県の自然災害一般に関する資料を扱う。学内組織と連携し資料収集。オンライン公開資料あり。
東北大学附属図書館震災ライブラリー学内組織と連携し資料収集。オンライン公開資料あり。
福島大学附属図書館震災関連資料コーナー学内組織と連携し資料収集。
神戸大学附属図書館震災文庫阪神・淡路大震災の関連資料が対象。オンライン公開資料あり。

ここで取り上げた図書館以外でも、例えば東北学院大学などで、特色のある取組みが行われている(5)

 

(3)震災資料の特徴

 震災資料の収集にあたっては、どのような資料がどのくらい刊行されているかを押さえておく必要がある。震災資料がどの程度刊行されているかを概観するために、国立情報学研究所が提供している大学図書館等の所蔵資料を検索するシステムであるCiNii Booksで、「東日本大震災」、「福島第一原子力発電所」をキーワードとして2011年以降に刊行された資料を検索すると、件数は表2のようになる。これらには重複もあるが、少なくとも2,000点以上の関連資料が刊行されていることがわかる。

 これは「阪神・淡路大震災」をキーワードとして検索したときの件数を現時点で既に超えている。復興への道のりは未だ道半ばであり、また原発事故の影響は半永久的に継続することから、震災資料は今後長期にわたって刊行されることが予想される。一時的な収集体制では、これらの資料収集にはとても対応できないだろう。

表2 CiNii Booksに登録されている震災関連の資料数(2014.2.10現在)
キーワード検索件数
東日本大震災(2011年以降刊行分) 2,214件
福島第一原子力発電所(2011年以降刊行分)428件
阪神・淡路大震災 2,090件

 震災資料の内訳について、東北大学附属図書館の「震災ライブラリー」を例に、もう少し詳しく見てみたい。「震災ライブラリー」では、2013年12月現在、約3,200点の資料を整理して公開しているが、内訳は表3のようになっている。このほか、未整理のチラシやパンフレット類が2,000点ほどある。

 図書は、「震災ライブラリー」が設置されている東北大学附属図書館本館の通常資料と同様、国立国会図書館分類により分類している。表4に分類別の資料数を示した。EG77(災害・災害救助)が付与されている図書が多いのは当然であるが、その他の分類が付与されている資料もかなりの数存在している。今回の震災が、エネルギーやライフスタイルについて見直す契機となったり、地域の特色を活かしたまちづくりに取り組むきっかけとなるなど、防災・減災に限らない多方面に影響を与えていることが見て取れる。

 震災資料として収集したチラシやパンフレットなどの刊行物を見ても、子どもに遊び場を提供する団体や放射線の自主測定を行うグループが発行したものから、震災をテーマとした映画上映会のお知らせまで、日常生活の様々な場面に震災が絡んできていることが窺える。

表3 東北大学附属図書館「震災ライブラリー」の公開資料内訳(2013年12月2日現在)
資料種別資料数
図書2,370冊
雑誌659冊
ポスター118枚
CD、DVD71点

 

表4 東北大学附属図書館「震災ライブラリー」配架図書の分類別資料数(2013年12月2日現在)
分類冊数
A(政治・法律・行政)110
D(経済・産業)463
E(社会・労働)922
F(教育)127
G(歴史・地理)86
H(哲学・宗教)37
K(芸術・言語・文学)193
M(科学技術)120
N(科学技術:原子力工学など)92
P(科学技術:化学・化学工業など)3
R(科学技術:農林水産学など)38
S(科学技術:医学など)119
U(学術一般・ジャーナリズム・図書館・書誌)60

 

3.震災資料をより活用していくために -日常とつなぐ-

 以上、図書館における震災資料の収集・公開の活動について述べた。「このたびの震災の教訓を活かす」ことが世間で盛んに言われているが、そのために震災資料の収集・公開の取組みをどのように位置付けたら良いのか、東北大学附属図書館で震災資料を担当するものの一人として、筆者の考えを述べたい。

 

(1)利用の日常化

 震災資料は、前述の通り幅広い分野の内容を含んでおり、防災や減災はもちろん、これから世の中をどうしていくのか、どう生きていくのかを考えるといった目的にも、日常的に利用できるものである。

 そのような幅広い利用を促進するには、震災資料をメモリアル的な存在の、特別コレクションとして扱うだけでなく、各図書館の蔵書検索システムで、通常資料と同様に検索できるようにしておくことが必要である。

 また、「震災資料コーナー」を日常的に活用してもらうための工夫も必要だろう。大学図書館で震災資料が、アクティブラーニングに利用されているという指摘がある(6)。筆者自身、震災の教訓を日々の生活に十分活かせているとは言えない状況だと感じているが、当館の「震災ライブラリー」に行き、資料を手にとってみると、このままでいいのだろうかという思いがふつふつと涌いてくる。多忙な日常の中にあっても、震災資料に囲まれて、震災であった出来事に心を向け、そこから学ぶことのできる場を、日常の授業の中で活用できるよう、教員や学生と取り組むことができると考えている

 

(2)業務の日常化

 当館では、震災資料の購入のために特別な予算はなく、資料の寄贈依頼や整理に新たな人員が配属されているわけでもない。そのような中、何とか資料を収集している状況である。資料の収集・公開を永く継続していくには、業務面においても、日常業務にいかにつなげるかが課題だと痛感している。

 前述の通り、震災資料は膨大な数に上っている。網羅的な収集が必要だという考えや、まず集められるだけ資料を集め、あとで必要なものだけ残せばよい、という考え方もあるだろう。しかし、業務として続けていくには、自分の図書館にどの資料が必要なのか、利用者が何を求めているのかを判断し、「必要な資料」を収集する力が求められる。

 震災の影響は各分野に及んでおり、例えば当館でも、震災に関係する資料は「震災ライブラリー」だけでなく、学生用図書のコーナーや書庫など、通常資料の配架場所にも存在している。震災資料についても通常の選書と同じ位置付けで、職員一人一人が、この資料には価値があるか、利用者の姿が想像できるかといったことを判断しながら資料収集を行うことで、継続した取組みができると考えている。そういった姿勢は、魅力的なコレクションの構築にもつながるはずである。

おわりに

 2012年9月2日に開催された「いま仙台で学ぶことの意義~ほんとうの生きがいとは~」と題された仙台学長会議主催のシンポジウム(7)に参加したことがあった。パネリストからは、主に学生ボランティアの活動報告がなされたが、参加者から「ボランティアではなく、学生の本務である勉強の状況はどうなのか」という質問があった。ボランティアももちろん重要だが、「大学の研究や学習は、震災を経てどう変わったのか」という指摘であると感じた。

 震災をきっかけとして、大学だけでなく、それぞれが所属するコミュニティをどのようにしていくのか、根本的に考える時が来ている。それを考えるための手助けとなる資料を図書館は提供していく必要がある。このたびの震災をどのように捉え、どのような資料を収集するのかは、被災地の図書館に限らず、全ての図書館が挑戦する課題である。

 

(1) 稲葉洋子. 阪神・淡路大震災と図書館活動 : 神戸大学「震災文庫」の挑戦. 人と情報を結ぶWEプロデュース, 2005, 91 p.

(2) 次の11項目である。収集済み資料の種類・数、収集範囲の特徴、市販資料以外の収集方法、収集体制、収集上工夫している点、収集上の課題、一般公開の有無、デジタル化の実施計画、震災関連資料のデータベース化の際の使用項目、震災関連資料の分類方法、前回以降の特記事項

(3) 図書館や東松島市図書館,(参照2014-2-10).

(4) せんだいメディアテーク.“としょかん・メディアテークフェスティバル –対話の可能性-”.図書館情報発信サイト: 図+.
http://www.smt.jp/toplus/?p=941,(参照2014-2-10).

(5) 東北学院大学図書館では、学校法人東北学院(大学・中学・高校・幼稚園を含む)の活動記録を収集し、公開している。東松島市図書館では、震災資料の収集に加え、取材による体験談の収集も行っている。

(6) 米澤誠. ラーニング・コモンズの大いなる可能性 : 東北大学での事例をまじえ. IDE : 現代の高等教育. 2013. (556), p. 23-27.

(7)下記にシンポジウムの概要が掲載されている。
日本私立大学協会. “仙台学長会議主催「市民公開シンポジウム」いま仙台で学ぶことの意義~ほんとうの生きがいとは~”.教育学術オンライン. 2012,.(2498). 2012-10-03.
http://www.shidaikyo.or.jp/newspaper/online/2498/5_a.html,(参照 2014-2-10).

[受理:2014-02-14]

 


永井伸. 図書館共同キャンペーン「震災記録を図書館に」呼びかけ団体における東日本大震災関連資料収集の現状と課題-震災の経験を活かすために-. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1815, p. 11-13.
http://current.ndl.go.jp/ca1815

Nagai Shin.
Current Status and Challenges of the Great East Japan Earthquake Archive Activity by Libraries in the Tohoku Region: To Make Use of the Experience of the Disaster for the Future.