カレントアウェアネス-E
No.359 2018.12.06
E2085
第15回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2018)<報告>
2018年9月24日から27日までの4日間にわたり,第15回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2018;E1863ほか参照)が,米国マサチューセッツ州のハーバード大学ジョセフ・B・マーティン会議場で開催された。2004年に始まったiPRESは,電子情報の保存に係る政策や具体的な事例の紹介,国際的な取組からNPO団体のような比較的小さな組織の活動まで,様々なトピックを幅広く扱っている。
参加者の属性は,図書館員やアーキビスト,IT技術者のほか,大学関係者や資料保存の専門家など,多岐にわたる。今回は450人以上が参加しており,国立国会図書館(NDL)からは筆者が参加し,日本からは他に2人が参加した。
今回はiPRES初の試みとして,ディスプレイを用いたデジタル形式でのポスター発表や,各5分の持ち時間でテーマや要点のみを次々に発表するライトニングトークセッション,電子情報の長期保存に関する取組をボードゲームやカードゲームとして体験できるコーナー(Digital Preservation Gameroom)などが設けられた。また,電子学術情報のアーカイブサービスであるPorticoから提供された,学生や初参加者への参加費助成も初の試みであった。
iPRES2018では,複数の発表やワークショップが同時並行で進められた。NDLからはポスターセッションにおいて,2017年度に行った有形の媒体に情報を固定した電子出版物(パッケージ系電子出版物)の長期利用保証に関する調査(E2058参照)について,筆者が発表した。光ディスク媒体の劣化や陳腐化への対策として,格納されているコンテンツを別の媒体に移行するマイグレーション手順の確立に向けた取組や課題を紹介した。CD等のマイグレーションに取組む他機関の参加者と,メタデータの取扱いや専門的なツールの利用,ワークフローの設計等について情報交換を行った。
他のセッションで事例報告のあった8インチフロッピーのマイグレーションの取組や,音楽映像資料の保存に関するセッションでのパネルディスカッションの内容に見られるように,喫緊の課題としてパッケージ系電子出版物の保存対策に個々の機関が取組んでいる。しかし,媒体やフォーマットの多様性のために,ベストプラクティスの選択や標準的な仕様の策定が難しく,今後も引き続き情報を発信し続けることで,それぞれの取組の認知度を向上させ,各機関の協力を促進することが重要である。
その他,筆者が参加したプログラムの中で印象に残った発表について報告する。
国立機関による大規模な取組では,デンマーク王立図書館のEld Zierau氏から,2館あった国立図書館の統合とデンマーク政府のIT戦略の大きな変更という2度にわたる危機に瀕していたデジタル文化遺産の救出に関する報告があった。今回のベストロングペーパーを勝ち取った本論文は,主にビットレベルでの電子情報の保存について,以下の3つの観点から整理されていた。1点目は,これまでの研究や取組から,電子情報の長期保存は技術的な問題にとどまらないより広範な活動であると説明できること,2点目は,様々な環境の変化や脅威を想定した,継続的なリスクアセスメントと対策の見直しの必要性,3点目は,保存対策を外部委託する際の手順や契約内容,という観点であった。
新しい技術の電子情報保存への応用として,英国国立公文書館(TNA)のグリーン(Alex Green)氏から,ブロックチェーン技術(E2012参照)を用いた信頼性の確保に関して報告があった。分散システムによる複製の持ち合いと,改変の防止という利点を備えたブロックチェーン技術を組合せ,デジタル形式の公文書の来歴と不変性を担保することを目指したアークエンジェルプロジェクトを進めている。公文書の信頼性を確保するとともに業務の透明性向上にもつながると述べていた。ブロックチェーン技術を用いることで,信頼性を担保するための第三者機関が不要となるため,より持続可能なシステムを目指して今後もプロジェクトを進めるとのことであった。
各セッションでの発表やワークショップを通じて,国際的な動向や各機関の取組を知り得たことは,NDLが電子情報の長期利用保証に関する取組をより一層進める上で,大変有意義であった。
第16回となるiPRES2019はオランダのアムステルダムで,2019年9月16日から9月20日まで開催される予定である。
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室・里見航
Ref:
http://www.ipres-conference.org/
https://ipres2018.org/
https://osf.io/6t85d/
https://osf.io/kefj8/
http://blockchain.surrey.ac.uk/projects/archangel.html
E1863
E2058
E2012