E1863 – 第13回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2016)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.315 2016.11.24

 

 E1863

第13回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2016)<報告>

 

 2016年10月3日から6日までの4日間にわたり,第13回電子情報保存に関する国際会議(13th International Conference on Digital Preservation:iPRES2016;E1758ほか参照)が,スイスのベルンにあるベルンエキスポで開催された。2004年に始まったiPRESは,電子情報の保存に係る政策や具体的な事例の紹介,国際的な取組からNPO団体のような比較的小さな組織の活動まで,様々なトピックを幅広く扱っている。

 今回は約300人が参加し,国立国会図書館(NDL)からは筆者が参加した。参加者は,図書館員やアーキビスト,IT技術者のほか,大学関係者や資料保存の専門家など多岐にわたる。iPRESでは期間中,複数の発表,ワークショップ,チュートリアルが同時並行で進められた。本稿では,筆者が参加したプログラムの中で印象に残った発表を中心に報告する。

 前年のプログラムと比較して,今年は研究成果の保存に関する発表が多い印象を持った。

 Portico,ジョンズ・ホプキンス大学(米国)及びIEEEは,分散して存在する研究成果をLinked Dataとして記述するためのRMapプロジェクトについて次のとおり発表を行った。研究資金の提供機関や出版社は,研究成果の再利用・評価・再現のために,研究者に研究データの保存や共有を求めるようになっている。しかし,研究成果は,論文のみではなく,データセット,ソフトウェア,ウェブページなどもあり,これらは同時に同一サイトで提供されず,保存方針にも統一性がない可能性がある。再利用・評価・再現を目的とした研究成果は,そのような分散型資源の構成や所在を関連付けたマッピング・データとして収集・保存する必要があり,RMapはそのためのプロトタイプを構築した2か年のプロジェクトであったとのことである。

 ドイツのハーゲン通信大学,英国のEPCC(Edinburgh Parallel Computing Centre),英国地質調査所(British Geological Survey:BGS),KCL(King’s College London)からは,研究データをどのように扱うかを詳細に記述した文書であるデータ管理計画(Data Management Plan:DMP)について次のとおり報告があった。研究成果の評価や再利用のために,研究資金提供機関が研究者にDMPの提出を義務付けるケースが増え始めているとのことであった。この文書の作成や管理は英国のDigital Curation Centreが提供するDMP Onlineや米国のカリフォルニア電子図書館(California Digital Library)が提供するDMPToolなどによって技術的にサポートされる。しかし,DMPには,研究が準拠すべき形式的な枠組に関する方針や,データ管理システム・レベルの管理パラメータや方針など,様々なレベルの方針が含まれ,研究期間中に資金提供機関や研究者に求められる要件も複雑であるため,DMPの管理サポートに関して様々な研究コミュニティで議論が行われている。研究データ同盟(Research Data Alliance)のActive DMP Interest Groupでは,DMPの継続的な適用と自動化のサポートに焦点を当てて議論を行っているとのことであった。

 NDLからはポスターセッションにおいて,筆者が国立国会図書館デジタルコレクションのOAIS参照モデル(CA1489参照)への準拠状況について発表を行った。NDLはデジタル化した図書のインターネットでの提供を2002年に開始した。以後,所蔵資料のデジタル化等を継続的に実施するとともに,2013年からはDRM(技術的制限手段)が付与されていない電子書籍・電子雑誌の収集も行っている。ポスターセッションでは,これら多種多様な資料の収集・保存・提供を担っている国立国会図書館デジタルコレクションの概要,OAIS参照モデルへの準拠状況,電子情報の長期保存の現状及び課題について説明した。

 他にも,ウェブアーカイブ,保存技術に関する調査などの取組について興味深い報告があった。NDLにおいても,長期にわたり電子出版物を含む電子情報を保存し,その利用を保証することは大きな課題となっている。発表,チュートリアルやワークショップを通じて,国際的な動向や各機関の取組を知り得たことは,NDLが今後進むべき方向を検討する上で,大変有意義であった。

 第14回iPRESは京都大学地域研究統合情報センターと人間文化研究機構の主催により京都で2017年9月25日から29日まで開催される予定である。第13回iPRESの閉会式では,引き継ぎイベントとして京都及び京都大学の紹介が行われた。

関西館・上綱秀治

Ref:
http://www.ipres-conference.org/
http://www.ipres2016.ch/
http://www.ipres2016.ch/frontend/index.php?folder_id=353
http://www.portico.org/digital-preservation/news-events/news/the-data-conservancy-ieee-and-portico-receive-alfred-p-sloan-foundation-grant-to-connect-publications-and-their-linked-data
http://rmap-project.info/
https://dmponline.dcc.ac.uk/
https://dmp.cdlib.org/
https://www.jstage.jst.go.jp/article/johokanri/58/9/58_683/_article/-char/ja/
E1758
CA1489