カレントアウェアネス-E
No.315 2016.11.24
E1862
第27回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>
2016年9月14日から17日にかけて,「日本資料図書館の国際協力」をテーマに,日本資料専門家欧州協会(European Association of Japanese Resource Specialists:EAJRS)第27回大会がルーマニアのブカレスト大学で行われた(E1734ほか参照)。全体で34本の発表が行われ,そのうち9本の発表で資料の組織化や目録の作成,デジタル化資料やデータベースの活用について取り上げられた。また今回は初めて東欧で開催されたこともあり,大会会場となったブカレスト大学の日本語学科教員によるルーマニア語での日本語教育教材の作成過程の発表,元外交官による日本-ルーマニア関係史の執筆作業における文献調査についての報告,ソフィア大学(ブルガリア),ヴィータウタス・マグヌス大学(リトアニア),マサリク大学(チェコ共和国)の日本語学科の概要や所蔵資料の説明など,東欧及び近隣国での日本研究の状況がうかがえる発表が大会プログラムに組み込まれていた。以下,筆者が行った発表や興味を持ったいくつかの発表を紹介する。
筆者は,「国立国会図書館デジタルコレクションを日本研究で活用する」(How to make good use of the NDL Digital Collections for Japanese Studies)と題して発表を行った。国立国会図書館(NDL)が提供するサービスのうち,海外からも使えるサービスとして「国立国会図書館デジタルコレクション(以下,デジタルコレクションという)」の概要を紹介し,収録資料の検索,利用方法,注意点等について説明した。収録資料のうち,著作権処理が完了したものはインターネット公開しており,海外からも利用できるが,インターネット公開していない資料については今のところデジタルでのアクセス手段がない。このため当館の遠隔複写サービスを利用して紙媒体の複写物を入手する方法,複写申込時に必要になる書誌データや複写箇所の特定にデジタルコレクションのメタデータが利用できることについても説明した。発表後の参加者との意見交換の場で,インターネット公開していない資料に対して海外からもアクセスできるよう,国内の図書館を対象に実施している「図書館向けデジタル化資料送信サービス」を海外の図書館に対しても拡大して欲しい等の要望が出された。
ミシガン大学グラデュエイト図書館の横田カーター啓子氏からは「HathiTrust Research Center入門」(HathiTrust Research Center 101)と題して,HathiTrust Research Center(HTRC)が紹介された。HTRCはHathiTrust Digital Libraryに含まれる資料の機械解析による研究利用を促進するための組織である。HathiTrust Digital Libraryには,1,400万点を超えるデジタル化資料が収録されている。そのうち約70%の資料については著作権の関係により外部に本文を公開することができない。しかし,HTRCは,文章を単語やフレーズに分割し,特定の単語やフレーズの出現頻度,相関関係などを分析するテキストマイニングのためのツールや研究スペースをクラウド上で提供し,その範囲に限っては著作権保護期間内の書籍も含め,OCRでテキスト化されたデータを2017年春以降扱うことができるようにする予定である。HathiTrust Digital Libraryには日本語の資料も多く含まれているが,非ローマン言語に対するOCRの精度が低く,テキスト分析結果に難があるとのことであった。HTRCのテキストマイニング機能は米国外の研究者も利用可能となる。また,テキスト分析ツールは,要望があるものから整備されていくため,日本研究者がHTRCを積極的に利用し,機能改善を訴えるよう呼びかけられた。
立命館大学文学研究科の川内有子氏からは,「1870年代の「忠臣蔵」の西洋読者」(The readership of 47 ronins among the westerners in the 1870s)と題し,19世紀に出版された「忠臣蔵」を英国に紹介したミットフォード(A. B. Mitford)の著書とディッキンズ(F. V. Dickins)の「忠臣蔵」の英訳書について,販売広告などを用いて,出版当時の書籍の発行形態やそこから想定される対象読者を調査した研究結果が報告された。当時の販売広告の入手手段として上記のHathiTrust Digital Libraryの他,ProQuest,英国図書館(BL)のThe British NEWSPAPER Archiveなどの海外のデジタル化資料やテキストデータベース及びその全文検索機能が活用されていた。
大会全体を通じ,海外の研究ではデジタル化資料が基本ツールになっていること,日本関係資料についてもインターネットを通じて検索,閲覧できる環境を整備することが求められており,MARC書誌の作成など様々な努力がなされていることがうかがわれた。次回大会はノルウェーのオスロで2017年9月13日から16日の日程で開催される。
関西館電子図書館課・森本佳恵
Ref:
http://eajrs.net/
http://dl.ndl.go.jp/
https://www.hathitrust.org/
E1734
E031
E1221
E1348
CA1463