E1348 – 第23回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.224 2012.10.11

 

 E1348

第23回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>

 

 2012年9月19日から22日まで,日本資料専門家欧州協会(European Association of Japanese Resource Specialists:EAJRS)第23回年次大会“Bridging the Gap – Past and Present Japanese Resources in the Digital Age”が,ドイツのベルリン国立図書館(Staatsbibliothek zu Berlin)で開催された。

 EAJRSは欧州における日本分野の資料(図書館資料・情報資源)に関心をもつ専門家(司書,研究者等)によるグループである。その概要については,江上敏哲氏による昨年の年次大会報告(E1221参照)や同氏の著書に詳しいのでそちらを参照されたい。

 今年は,17か国100名の参加者,33本の発表があり,これまでで最大規模の大会となった。ドイツ国内から32名,日本からは国立国会図書館(NDL)や国立情報学研究所(NII)の職員を含む28名,また欧州だけでなく北米からも5名の参加があった。大会では,日本関係コレクションや電子化資料・画像データベースの紹介,資料研究等を中心に,多様な発表が行われた。以下,そのいくつかを紹介する。

 NDLからは歴史的音源等の国立国会図書館デジタル化資料や近代デジタルライブラリーについて,NIIからはCiNii Booksの最新機能と今後の展望について紹介がなされた。筆者の所属する国際日本文化研究センター(日文研)からは,所蔵するモンターヌス『東インド会社遣日使節紀行』(1669年刊)に挿入された図版の成立過程について,日文研所蔵稀本・資料データベースの紹介を交えながら発表を行った。

 日本の地域学の先駆である「長崎学(Nagasakigaku)」のセッションでは,長崎における日中・日欧交流史研究や各国のシーボルト関係文書の紹介等が行われた。

 ベルリン国立図書館からは,ドイツ国内において資料の分担収集を行う「特別コレクションシステム」で東アジア言語資料の収集を担当していることや,東アジア・東南アジア研究に有用な情報を集めたバーチャル図書館“CrossAsia”の紹介があった。

 電子化資料・画像データベースに留まらない試みとして,立命館大学アート・リサーチセンターからは,Web上で公開された古典籍を統合して検索可能にするポータルデータベースの開発について紹介があった。これは,データベースが数多く存在するようになった現状への対応のひとつとして多くの参加者の興味をひいていた。

 その他,北米日本研究図書館資料調整協議会(NCC;CA1462参照)による若手日本研究司書向け研修プログラム,そして国際文化会館およびNDLによる日本専門家ワークショップについて,その開催報告が行われた。また,NACSIS-CAT参加機関の参加者向けに,具体例をもとに書誌作成のポイントを解説するセッションも行われた。日本語データベース提供ベンダーによるワークショップもあり,具体的な検索方法や機能について,参加者との活発なやりとりが行われていた。

 大会中には,日本大使館でのレセプション,ベルリン・ダーレムのアジア美術博物館や森鴎外記念館の見学も行われた。

 最終日の総会では,北米日本古典籍所蔵機関ディレクトリの欧州版ともいえる「欧州における日本関係コレクションのディレクトリ作成ワーキンググループ」の発足が提案された。また次回の開催地をパリ,日程を2013年9月18日から21日と決定し,大会は終了した。

 大会を通じて,多くの機関で所蔵資料の電子化・公開が一般的になっており,それにより場所・時間を超えての研究が飛躍的に進展したことを実感した。次の段階として,電子化された資料のメタデータの充実,さらに,日本の機関には,Webサイトの英語版を準備することは当然ながら,英語によるアクセスポイントの付与等による検索機能の充実も求められている。

(国際日本文化研究センター・辰野直子)

Ref:
http://eajrs.net/2012conferenceprogramme
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I023639583-00
http://crossasia.org/
http://base1.nijl.ac.jp/~overseas/
http://www.ndl.go.jp/jp/library/training/guide/1191883_1485.html
CA1462
E1221