カレントアウェアネス
No.272 2002.06.20
CA1462
最近の情報環境とNCCの動向について
NCCは”North American Coordinating Council on Japanese Library Resources”の略で,「北米日本研究図書館資料調整協議会」と訳されている。NCCは,1991年12月に設立された。その背景には米国における日本研究プログラムの増加,日本研究コレクションの増加・増大などによる日本研究図書館・蔵書環境の変化がある。そうした変化に対応し,将来の指針計画を図るため,1991年11月,スタンフォード大学フーバー研究所でフーバー会議(Hoover Conference on National Planning for Japanese Libraries)が持たれた。この会議の結果組織されたナショナル・プラニング・チームの報告・勧告に基き,NCCが設立された。
NCCは名称の通り,北米における日本研究をより効果的に支援するために,個々の図書館レベルでは不可能な,またはそのレベルを超えた日本研究資料,それをとりまく環境全体の調整を図ることを主要な目的とする。
NCCの運営のため日米友好基金および国際交流基金の2つの団体から資金が拠出されているが,事業の推進のために必要であれば資金の調達も行う。組織としては議長(図書館員)がおり,その下で取締役が実務を担当する。理事会は図書館員(3人),教員(2人)による理事と,日本リエゾン,米国議会図書館,東亜図書館協会(Council on East Asian Libraries: CEAL),研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL),アジア学会北東アジア協議会(Association for Asian Studies Northeast Asia Council: AAS NEAC)の5団体の代表など12〜19人により構成され,年2回会議を持つ。
NCCは必要に応じ委員会,タスクフォースを組織・召集し,現在までに種々のプロジェクトと委員会を設置してきた。「多巻セットプロジェクト(Multi-Volume Set Project)」,「日本美術展覧会カタログ収集プロジェクト(Japan Art Catalog Project)」,「国際交流基金図書館支援プログラム援助委員会(Japan Foundation Library Support Program Advisory Committee)」,「AAU(注)/ARL/NCC Japan Journal Access Project (CA1350参照)」などがある。最近はデジタル時代の要請に呼応し,関連の委員会,図書館員および利用者のトレーニングにも活動の範囲を広げている。
「Japan Journal Access Project」は種々の段階を経てきたが,ここ数年は日米間図書館相互貸借(ILL)およびドキュメント・デリバリーのプロジェクトを行ってきた。ひとつはOCLCのILLシステムを介して早稲田大学と行っているもので,これにより,北米の参加図書館は通常のILL業務の流れのなかで複写のみならず図書の貸借も行うことができるようになった。もうひとつは国立大学図書館協議会と共同で行っているプロジェクトで,ここでは国立情報学研究所とOCLCのILLシステム間のリンクという日米間ILLに画期的な進歩をもたらすことができた。
コンソーシアル・ライセンシング・タスクフォースは北米の日本研究に必要とされる高価なデータベースの購読をコンソーシア契約により容易にするために組織された。特に印刷体出版の停止以来,不可欠となった「雑誌記事索引」のオンラインデータベースの購読を業者との間で調整してきた。
しかし,本年秋に同索引が国立国会図書館からWebにより無料公開される予定であるため,一旦様子をみることになった。一方で電子資料の購読については,オンラインデータベースのライセンス契約だけではなく,各種CD-ROM,DVD,電子ジャーナルの購読なども含めて,新たな問題や環境に直面している。テクノロジーもからみ,ライセンス契約の法的拘束など複雑な要因が満載である。そのためこの問題全体を常時扱う必要が認識され,前述のタスクフォースを解散・改組し,電子資料委員会(Digital Resources Committee)を新たに発足させた。
北米の主要学術図書館におけるコレクションの最近の特徴は電子化で,印刷体との混成コレクションを構築する方向にある。図書館が電子ジャーナルへのアクセスを提供し始めた1990年代以降,購読量は増大を続け,資料購入予算を圧迫する傾向にあった。昨今の景気の下降は,図書館の予算にも反映し,今まで電子・印刷両版で雑誌を購読していた図書館も電子のみを購読し,対応する印刷体をキャンセルする傾向が増大しつつある。だが電子ジャーナルの購読による,既蔵の印刷体の廃棄には至っていない。一方,電子ジャーナルへのアクセスが可能になったことにより,印刷体の利用も増大した,また電子ジャーナルが使用できるようになってから,所蔵していなかった印刷体がしばしば利用されるようになった,という報告もある。v日本語電子ジャーナルの日本研究に寄せる波はまだ小さいが,オンラインデータベース同様,この問題にNCCが対処しなければならなくなるのも時間の問題だろう。独自に日本と交渉するのか,NERL (North East Research Libraries Consortium)やCIC (Committee on Institutional Cooperation)などの大きなコンソーシアの中でたくさんの交渉項目のひとつとして扱ってもらうか,は適切な判断と交渉の機会を必要とする。
またこのような電子情報の効果的な利用のために,言語を含む電子環境について利用者はもとより図書館員の教育・訓練も重要な課題で,NCCは若手図書館員のためのセミナーを8月に予定している。一方で,利用者教育の委員会を最近発足させてこれに対処している。
情報の世界は日々拡大しサービスも種々派生する。しかし,図書館の第一の使命は将来の使用のためにコレクションを維持することにもあり,注意深くことを運ばなければなるまい。
NCC議長,ピッツバーグ大学東アジア図書館:野口 幸生(のぐちさちえ)
(注)AAU(米国大学協会: Association of American Universities)は研究機能をもつ50余のアメリカの大学組織
Ref: Brody, F.E. Planning for the balance between print and electronic journals in the hybrid digital library: Lessons learned from large ARL libraries. Unpublished dissertation (Ph.D.). University of Pittsburgh, 2001. (UMI no. 30-132240)
NCC Bylaws. [http://purl.oclc.org/NET/ncc/index.htm] (last access 2002.5.21)
野口幸生. 最近の情報環境とNCCの動向について. カレントアウェアネス. 2002, (272), p.7-9.
http://current.ndl.go.jp/ca1462