CA1132 – アメリカにおける日本語資料の相互援助−日本関係情報の現状(1)− / 牧野泰子

カレントアウェアネス
No.214 1997.06.20

 

CA1132

アメリカにおける日本語資料の相互援助
−海外の日本関係情報の現状(1)−

アメリカにおいて日本語資料を収集している図書館に協力の気運が生まれたのは,オイルショック以来の全米の大学に対する米政府資金の援助の急激な減少と円高ドル安により大打撃を受けた東アジア図書館に,日米友好基金が全米で10大学の日本語図書購入資金の援助をはじめた1978年以降のことである。資金援助を受ける代償として,東部4館は高価本購入の調整,地方史の分担収集,継続購読誌のリストを作成配布し,中西部2館は購入図書の調整と遠方から来る利用者に対する旅費補助,西部2館は日本全国を二分して地方史の収集分担をするかたわら,特殊コレクションの目録を刊行し,また他地域の大学に対して相互貸借の便をはかるなどのサービスを行った。1989年から仲間に加わった南カリフォルニアの2館は分野による収集分担を行った。

1990年に日米友好基金は基金自体の財政困難,援助を求める図書館の激増,日本における出版物の増加及び価格の急騰などを理由に,突然上記の図書館への収集資金援助を中止すると発表し,新しい長期方針を打ち出すために,1991年6月にワシントンで国際交流基金と合同で会議を開催した。出席者は主として学者,図書館長級のライブラリアンとコンピュータ関係の専門家で,現場の日本語資料担当者はほんの二・三人であったため議論の大きな進展は見られず,結局問題をさらに追求するために委員会を設置することのみが決定された。

このワシントン会議の結果を憂慮し,また,円高ドル安及び国庫補助のカットなど財政緊迫の一層の深刻化に対応するために,今度は現場の日本研究資料担当者を中心とし日米友好基金及び国際交流基金の代表をオブザーバーとするNational Planning for Japanese Librariesという会議が同年11月にフーバー研究所で開催された。その会議では,将来の日本研究コレクションの行くべき方向や現在抱えている問題などについて討議した結果,全国的な相互協力があらゆる分野で必要であることが再確認され,その場で問題ごとにタスクフォースが作られ,各タスクフォースは短時日の間に今後全国レベルですべきことを報告書にまとめ上げた。これらの報告及び勧告は,フーバー会議全体のまとめと共に,ワシントン会議の結果作られたばかりのNational Coordinating Committee on Japanese Resources(NCC)に手渡された。

NCCは米国内の日本語資料収集と利用のための資金調達を行うことなどを目的としていたが,活動は低調で,わずかに共同利用のための高価本購入に関する委員会のみが細々と活動を続けたに過ぎなかった。

今年になってAAU/ARL Japanese Journal Access Projectへの協力がNCCを通じて電子メールで募られ,30近い研究図書館が参加の意思を表明した。去る3月28日にはワシントンでこのプロジェクトの第1回の会議が開かれた。このプロジェクトもフーバー会議に端を発しており,その後ARLの依頼でCouncil on East Asian Libraries(CEAL)(用語解説T24参照)が米国内の日本語資料の実態調査などを行ったのが漸く実を結んだものである。アメリカ大学協会(AAU)内のAssociation for Research Libraries(ARL)とは学術情報交換の為の協力体制を整えることを主目的として作られた北米にある120の主要研究図書館の館長レベルで構成されている強力な団体で,現在相互貸借及びドキュメントデリバリーとグローバルリソースプログラムに力を入れており,このAAU/ARL Japanese Journal Access Projectも日本からの情報に対する需要の高さからグローバルリソースプログラムの一環として始められることになったものである。

このプロジェクトは『学術雑誌総合目録和文編』の米国版にあたるものを作ってWWW上に載せようというもので,雑誌ばかりでなく新聞の所蔵状況も含められることになっている。現在刊行中の雑誌ばかりでなく廃刊になったり米国内では現在は購読していないものも含められることに決まり,古い雑誌の米国内での所蔵状況がつかめない為日本まで相互貸借を依頼せざるを得ないのが悩みの日本語資料担当者がこれに寄せる期待は大きい。学術情報センターの学術雑誌総合目録を利用させて頂くような形が最も望ましいということも協議の結果意見が一致したので,いずれ学術情報センター及びその加入館にもアメリカ側からお願いが届くことかと思う。

さらに,各図書館が全国で自館にしか無いものや,購読を必要と考えるもの2タイトルを,責任を持って継続購読するということも決議された。各館から出されたタイトルはNCCで評議の上最終決定が下されることになっている。

長年待たれたハーバード大学燕京図書館の全蔵書の遡及入力も現在漸くその緒についたところなので,これで全米日本語雑誌所蔵目録が完成すれば日本研究者にとっては大いなる福音となろう。なお付け加えれば現在殆どの図書館で機械化がすすみ1983年あるいは1986年以後の所蔵情報はオンラインで探せるため,図書館間の相互貸借はますます盛んになったほかeastlibというリストサーブにより参考業務や情報伝達などの面でも相互協力は盛んに行われている。

コロンビア大学C.V.スター東アジア図書館:牧野 泰子(まきのやすこ)

(注)

平成9年2月17日から3月7日までの15日間,当館と国際交流基金の協力で,日本研究上級司書研修が行われました。これは,海外での日本研究・日本関係情報の提供と,関係機関の司書の人的ネットワーク作りを促進することを目的とするものです。参加者は,中国,オーストラリア,ブラジル,イタリア,英国,ドイツ,フランス,米国から11名。

本誌では,大学等の研究機関で日本関係資料を扱う司書として,各国でまた世界的に活躍している研修生の方々に,世界の日本関係情報の現状についてレポートしていただき,今回から随時掲載していきます。(編集委員会)