カレントアウェアネス-E
No.292 2015.11.12
E1734
第26回日本資料専門家欧州協会(EAJRS)年次大会<報告>
2015年9月16日から19日まで,日本資料専門家欧州協会(European Association of Japanese Resource Specialists:EAJRS;E031,E1348,CA1463参照)第26回年次大会“Breaking barriers-unlocking Japanese resources to the world”が,オランダのライデン大学で開催された。
EAJRSは欧州における日本分野の資料(図書館資料・情報資源)に関心をもつ専門家(司書,研究者等)によるグループであり,毎年9月頃に年次大会が開催されている。今年は欧州,日本を中心に,北米なども含め16か国から125名が参加し,近年では最大規模の大会となった。また,大会中は,ライデン大学図書館でレセプションが開かれ,日本博物館シーボルトハウスや,The Bibliotheca Thysiana,Hortus botanicus Leidenの見学も行われた。
大会発表は11のセッションに区分され,ライデン大学図書館での特別コレクション紹介も含めて35本の発表があり,日本におけるオープンアクセス(OA),デジタル・ヒューマニティーズ等の最新動向や,蘭書,外邦図等の資料研究,電子化資料のデータベース紹介など多岐にわたるものであった。以下,筆者の発表および,関心を持ったいくつかの発表について紹介する。
筆者は,日本の大学図書館を中心とする学術機関と,北米日本研究資料調整協議会(NCC),韓国教育学術情報院(KERIS;CA1296参照)との間で実施している国際ILL/DD(図書館間相互貸借/ドキュメントデリバリー)の取り組みであるGIF(Global ILL Framework)プロジェクトについて次のとおり発表を行った。
GIFプロジェクトは2002年以降,日本の国立情報学研究所(NII)によるNACSIS-ILLシステムと,北米のOCLC,韓国のKERISとにおいて,異なる書誌ユーティリティ間でISO ILLプロトコルによる相互接続(システム間リンク)によるILLの枠組みを構築し,国際ILL/DDを運用している。大学図書館等を中心に資料の電子化,研究成果のOA化が進む中でも,紙媒体の文献や図書資料への需要は依然としてある。現在,日本のGIFプロジェクトではプロトコルによるシステム間リンクではなく,専門家の人的対応による新たなフレームワークの構築を検討している。これにより欧州を含めた,よりグローバルな国際ILL/DDへと展開できることが期待される。
筆者の発表後の質疑応答の際をはじめ,大会の参加者からは,国立国会図書館(NDL)に所蔵がない日本資料を入手することの困難さ,NDL-OPACやCiNii Books,所蔵館独自の貴重資料画像データベースなど複数の所蔵データベースの統合検索の実現,IFLAバウチャーによるILL料金の簡便な支払方法の実現化など様々な感想・要望が寄せられた。現在,日本の学術機関からも欧州の学術機関へのILL依頼は行われており,北米のGIF参加館への依頼に比べると,依頼や料金支払の方法などについて,相手の所蔵館により異なる対応が必要となり,文献入手が難しいことがある。欧州のILL担当者同様,日本の担当者も新たなGIFの取り組みに期待するところが大きい。
NDLからは,2016年1月に実施される「海外日本研究司書研修」ではNDL関西館をはじめ,関西のいくつかの学術機関を会場とする研修が予定されていることのほか,海外の日本研究司書の会合へのNDL職員の講師派遣,インターネットで受講可能な「遠隔研修」など,海外日本研究司書への支援を継続して実施していくことが発表された。
ハワイ大学マノア校図書館と琉球大学附属図書館からは,マノア校図書館が所蔵する1400年代から1960年代までの琉球・沖縄関連の文献を集めた「坂巻・宝玲文庫」の電子化プロジェクトについて合同で発表が行われた。このプロジェクトは両者が国際協力事業として行っているもので,資料の電子化や解題作成および英訳作成などが,研究者と職員の協力体制のもとで進められている過程が報告された。資料所蔵機関と,電子化技術や資料研究者を有する機関との国際連携による本プロジェクトは,単独では成し得ない規模の事業を機関連携により実現している事例である。
大会を通して,機関リポジトリをはじめとする様々な電子化コレクション,データベース等の紹介があったが,参加者から度々,例えば“Europeana”のように一つのインターフェイスで横断検索が可能になれば,必要とする資料の情報やフルテキストが容易に入手できるのではないか,という発言があった。日本関係資料に限ったことではないが,資料の電子化事業を進める上で,情報へのアクセシビリティも考慮すべき課題と思われる。
最終日の総会で,来年の大会の開催地をルーマニアのブカレストに決定し,今大会は終了した。
京都大学附属図書館・原竹留美
Ref:
http://eajrs.net/
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/gif/index.html
http://www.ndl.go.jp/jp/library/training/guide/1211059_1485.html
http://www.hawaii.edu/asiaref/okinawa/digital_archives/sakamaki_hawley.html
http://manwe.lib.u-ryukyu.ac.jp/d-archive/sakamaki-hawley.htm
E031
E1348
CA1463
CA1296