E1735 – オープンサイエンスデータ推進ワークショップ<報告>

カレントアウェアネス-E

No.292 2015.11.12

 

 E1735

オープンサイエンスデータ推進ワークショップ<報告> 

 

1.趣旨

 「オープンサイエンスデータ推進ワークショップ」は,京都大学理学研究科附属地磁気世界資料解析センター主催のもと,大学および関連の研究機関が「オープンサイエンスデータ」を推進するため,(1)ポリシーから技術的問題に至るまで広く情報交換を行うこと,(2)推進に向けた学内外のネットワーク形成,を目的として,2015年9月17日,18日の2日間にわたって開催された。以下では,1日目,2日目ごとに参加報告を行う。 

2.Day 1

 1日目は,総勢10名による講演及び活発な議論が行われた。ここでは,ワークショップでどのような問題意識が共有されたかに絞って紹介したい。 

 まず,本ワークショップ参加者内での共通理解として「オープン化は絶対正義ではない」という点が確認されたことは明記しておく必要があろう。(1)データ利活用の「先取特権」の放棄,(2)(主に専門家以外による)適切でないデータ利活用への不安のみならず,(3)データ管理に対する研究分野ごとに異なる慣習や意識の隔たり,といった問題を解消することは相当に困難であり,それは当日最後に登壇した林和弘氏(科学技術動向研究センター)による「必要なところでしかオープンサイエンスは進まない」というコメントによっていみじくも言い表されている。しかしながら,内閣府や文科省による政策面での動きや,引原隆士氏(京都大学)が強調する「知的財産たる論文を保護するためのオープンアクセス」という観点にも配慮する必要があることは,対象が論文のみならずデータであっても変わらない。データを公開することのメリット・デメリットを整理した上で,分野の慣習,データの性質などに配慮し,オープンにすべきデータとクローズにすべきデータの線引きが早急に求められている,と言えよう。

 では,どのようにその合意を取り付けるのか。政策によって一律に合意を形成する=義務化する,という選択肢もないではないが,データは日本の知的財産である,という側面に鑑みれば,関係者による慎重な議論と共通理解を前提に決定されるべきであることは論を俟たない。しかしながら,研究分野の違いを抜きにしても,研究データ公開を求められる研究者,公開作業を担うキュレーターを中心に,公開の場や労力を提供しようとする出版社や図書館,公開を促進したい研究資金助成機関など,オープンサイエンスに関わる人々の立場は多様である。各々が異なる目的のもとに志向する「オープンサイエンス」実現のためには,北本朝展氏(国立情報学研究所)ほか諸氏が述べられたような,研究分野や立場にとらわれない幅広い関係者を包含するコミュニティの形成が課題と言える。 

3.Day 2

 主催者側は,オープンサイエンスデータへの取組み事例を集めるために,京都大学内の様々な部局に対して広く参加を募ったものの,2日目の全講演は,以前からオープンサイエンスデータに対して積極的な,地球物理学関係者による講演に偏った。地球環境学や超高層物理学などにおける,オープンサイエンスデータの流通を高めるためのメタデータの生成・管理・検索,さらには取得したデータの可視化・解析などの事例が次々に紹介された。京都大学防災研究所白浜観測所の発表では,海上に設置された海象観測所における,現地観測からデータ公開までのワークフローが紹介され,ごく少数の研究者と技術職員らによってその全てが行われていることが特徴的であった。今後,図書館側が上述のようなサイエンスデータの公開過程,例えば,データ管理や,メタデータ作成・整備に,どのように関わってくるのかが注目される。 

 締めくくりのオープンディスカッションにおいては,本ワークショップの第2回を12月に京都大学で開催することが主催者から発表された。これに関連し,下記の関連した会合の日程が確認された。 

    (1) 2015年10月2日~3日:「オープンサイエンス時代の社会協働に基づく地球環境研究を支援する情報サービスの実現」(京都)
    (2) 2015年10月21日:Sparc Japanセミナー「科学的研究プロセスと研究環境の新たなパラダイムに向けて ‐e-サイエンス,研究データ共有,そして研究データ基盤‐」(東京)
    (3) 2015年12月7日~8日:「第2回 オープンサイエンスデータ推進ワークショップ ‐研究データの保存と公開‐」(京都)
    (4) 2016年3月1日~3日:Research Data Alliance(RDA) Seventh Plenary Meeting(東京) 

 本ワークショップには,今後国内で開催される上記のようなオープンサイエンスに係るイベントには,共通した関係者や参加者が多数いる。地球物理学中心で展開された今回の議論は,地球環境学に伝播し,今後,図書館関係者中心の場に,そして本ワークショップの第2回目に,反映されていくと思われる。このように,異分野間での情報共有を繰り返し,日本国内におけるオープンサイエンスへの理解を深めた上で,2016年に東京で行われる研究データ同盟(RDA)の総会など多くのイベントで,海外の人々と情報,意見を交換し,「オープンサイエンスデータ」の流れを促進することが期待される。

新領域融合研究センター・小山幸伸
国立極地研究所情報図書室・南山泰之

Ref:
http://www.usss.kyoto-u.ac.jp/etc/150917-opensciencedata.html
https://japanlinkcenter.org/top/
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/opnscflwup/index.html
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/index.htm
http://www.nii.ac.jp/irp/event/2014/OA_summit/docs/0.pdf
http://www.chikyu.ac.jp/publicity/events/etc/2015/1002-03.html
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2015/20151021.html
https://rd-alliance.org/plenary-meetings/rda-seventh-plenary-meeting.html