E1854 – 「銭湯×図書館」が生み出す新たな可能性

 

カレントアウェアネス-E

No.314 2016.11.10

 

 E1854

「銭湯×図書館」が生み出す新たな可能性

 

 近年,日本の文化とも言える銭湯が姿を消しつつある。20年前には1万軒以上あった銭湯も,今では2,500軒程度まで減少した。一般家庭への浴槽の普及,施設の老朽化,後継者不足など,その理由は様々である。この現状を受け,銭湯を活性化させるアイデアとして誕生したのが「銭湯ふろまちライブラリー」である。

 

◯銭湯と図書館のコラボレーションによる初のまちライブラリー。

 2016年3月にオープンした銭湯図書館「銭湯ふろまちライブラリー」は,株式会社バスクリンの公認部活動「バスクリン銭湯部」と,東京都世田谷区の祖師谷商店街にある銭湯「そしがや温泉21」の共同企画で誕生した,銭湯と図書館のコラボレーションによる初めてのまちライブラリー(CA1812参照)である。「バスクリン銭湯部」は日本のお風呂文化の原点である銭湯を活性化させるため,銭湯巡りを中心に,様々な取り組みを行っている。今回の「銭湯ふろまちライブラリー」は,銭湯と図書館の意外な“共通点”に気付いたことから始まった。

 

◯お風呂も本も,人とのつながりを生み出す力がある。

 もともと,銭湯は町のコミュニティーであり,子どもから高齢者まで,幅広い世代が顔を合わせる,人の会話や心のつながりが生まれる場所であった。しかし,近年の銭湯を見ると長年通う常連客が多く,調べていくと,新しい利用客にとってはある種の入りにくさを感じる場所になっていた。今では,家にもお風呂があり,スーパー銭湯もある,温泉旅行もすぐ行ける。町の銭湯が持つそれらにない一番の魅力は,人のつながりである。この魅力を再び高めていくことが,銭湯の活性化には必要なことだと銭湯部の活動を通じて感じていた。

 ちょうどその頃,筆者が以前より関心のあったマイクロライブラリーサミットに参加し,兵庫県神戸市の岡本商店街を見学した。商店街の各店舗で本棚を持ち合い,本を通じて人がつながっていく様子を見て,銭湯と図書館が似ていることに気付いた。この共通点の発見から,お風呂も本も人のつながりを生み出す力があり,この二つを掛け合わせることで,銭湯本来の魅力を取り戻せるのではないかという構想に辿りつき,銭湯図書館のオープンに至った。

 

◯蔵書数は,ゼロ冊からスタート。お風呂に入って,帰りに本を借りて。

 2016年3月13日のオープンイベントは,満員御礼であった。銭湯の待合スペースに本棚を設置し,蔵書はオープンイベントで寄贈してもらうことにしたところ,銭湯が好きな方,本が好きな方,地域活性化に関心がある方が集まった。イベントではまず,銭湯「そしがや温泉21」の福田亨輔社長が営業前の銭湯の内部を案内し,銭湯ファンの心をくすぐった。ちなみにこの福田社長は,大の本好きである。銭湯図書館の構想に協力してもらえたのは,この部分が大きい。つぎに,一冊ずつ持参してもらった本を通じて参加者同士で自己紹介をし,一人ひとりの想いが語られた。その後,メッセージカードをつけて植本(それぞれが持参した一冊を,本棚の好きな場所に置いてもらうことにした。こうすることで「自分ごと」の場所になってくれる)。最後は,銭湯にゆっくり浸かりながら,参加者同士で交流を深めた。本は閲覧だけではなく,貸出も行っており,銭湯でお風呂に入って,帰りに本を借りて,次に来る時に返すという新たな循環が生まれている。

 

◯貸出件数100件突破。銭湯で子どもたちが絵本に夢中。

 開館から7か月が経ち,銭湯図書館が徐々に地域に根付いてきている。本棚が置かれる以前は血圧計が設置されていたため,待合スペースには常連客が多かったが,今回の本棚の存在によって,子どもたちや読み聞かせをする母親など,新しい利用客も増えてきている。小説や絵本などが人気で,貸出件数も100件を突破した。子どもたちの元気がありすぎて,絵本を修理することも多いが,銭湯としては嬉しい悲鳴である。新しい利用客が本とつながり,そのつながりが利用客と銭湯をさらに結び付け,そこで人と人とがつながって,コミュニティーが築かれていく。

 

◯銭湯の持つ今までの良さを,より引き立たせる,銭湯の新しいカタチ。

 「ふだんの生活だけでは,子どもは家族や学校の先生といった決まった大人としか接しなくなってしまう。でも,銭湯に来ると,自然な交流が生まれたり,いろんな大人を見ることができたりするので,子どもの教育にも良いと感じているんです。」とは参加者の声である。やはり,銭湯の魅力は人のつながりやコミュニティーの形成にある。銭湯の持つ今までの良さをより引き立たせる役として,本や図書館がその力を発揮した。今後は,その町や銭湯の特徴に合わせて,様々な銭湯図書館が生まれていくことを展望として考えている。

 本や図書館には人をつなぐ力がある。その力が求められる場面は,銭湯だけに限らない。「銭湯×図書館」の取り組みを通じて,本や図書館の力が必要となる場面をほかにも引き出すことが出来るかもしれない。「銭湯ふろまちライブラリー」の活動は始まったばかり。新たな可能性を感じている。

銭湯ふろまちライブラリー・高橋正和

Ref:
https://twitter.com/sento_library
https://www.libraryfair.jp/poster/2016/5017
http://machi-library.org/where/detail/1359/
https://antenna.jp/news/detail/2831397/
https://www.facebook.com/events/1098464570175503/
http://tokyosento.com/special/9243/
E1468
CA1812