E1758 – 第12回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2015)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.296 2016.01.21

 

 E1758

第12回電子情報保存に関する国際会議(iPRES2015)<報告>

 

 2015年11月2日から6日までの5日間にわたり,第12回電子情報保存に関する国際会議(12th International Conference on Digital Preservation:iPRES2015;E990E1109E1354E1628参照)が,米国ノースカロライナ州のノースカロライナ大学チャペルヒル校で開催された。2004年に始まったiPRESは,電子情報の保存に係る政策や具体的な事例の紹介,国際的な取組からNPO団体のような比較的小さな組織の活動まで,様々なトピックを幅広く扱っている。

 今回は約300人が参加し,国立国会図書館(NDL)からは筆者が出席した。主催者側の発表によると,今回の参加者数は過去最大級であった。参加者は,図書館員やアーキビスト,IT技術者のほか,大学関係者や資料保存の専門家など多岐にわたる。iPRESでは期間中,複数の発表やワークショップが同時並行で進められた。本稿では,筆者が参加したプログラムの中で印象に残った発表を中心に報告する。

 ファイルフォーマットや再生環境が旧式化した資料のマイグレーション及び再生環境のエミュレーションは電子情報保存にとって重要な課題であるが,今回の会議においても米国及びドイツの参加者から具体的な取組事例が報告された。

 ハーバード大学図書館(米国)のゴーザルズ(Andrea Goethals)氏とハイネン(Joey Heinen)氏は,陳腐化したファイルフォーマットであるPhotoCDの画像データを,JPEG 2000へマイグレーションする事例について報告した。PhotoCDが使用している独自の色空間をそのまま使用できるファイルフォーマットがほとんどないことや,スキャン時に輝度とホワイトバランスを自動的に調整する独自のアルゴリズムを使用していることから,PhotoCDをJPEG 2000にマイグレーションする際に色情報等を正確に再現するためには,PhotoCDが持っている色空間やアルゴリズムの分析等を行う必要があったとのことである。

 エミュレーション関係では,フライブルク大学(ドイツ)からCD-ROM資料に関する取組について報告があった。フライブルク大学はドイツ国立図書館と共同で再生環境のエミュレーションに係る試行を行っている。CD-ROM資料とは,CD-ROMに何らかのデジタルデータが格納されており,検索・表示・印刷等ができる資料を指す。再生環境の旧式化によって最新のPC環境では利用に供することができない資料も少なくないが,エミュレーションによってその問題の解決に取り組んでいるとのことであった。エミュレーションの大きな課題は,動作環境,推奨環境,システム要件等の,再生環境についての技術的なメタデータがCD-ROM自体に記録されていないことや,それらの情報が資料のパッケージに記載されていてもハードウェアの陳腐化によって意味を持たなくなり,最適な再生環境を推定することが難しいことである。デジタルデータのフォーマット情報を登録したフォーマットレジストリであるPRONOMを使用して再生環境に関するメタデータを新たに作成したり,CD-ROMに格納された実行ファイル(EXEファイル)の作成日から最適な再生環境を検知したりすることにより,これまで手動で行う必要があったエミュレーションの実行環境の設定をシステム上で自動化できるのではないかという報告であった。

 NDLからはポスターセッションにおいて,光ディスク媒体の資料をはじめとするパッケージ系電子出版物(有形の媒体に情報を固定した電子出版物を指す)の長期利用保証について発表を行った。2011年度にNDL館内の利用者用端末のOSをWindows XPからWindows 7に更新した際に,再生環境がWindows 7に対応していなかったために使用できなくなったCD-ROM資料が数十点発見された。NDLではサンプル抽出したパッケージ系電子出版物(CD-ROM資料)について,Windowsの各世代のOSにおいて閲覧提供に必要なアプリケーションが実行できるかなどを調査し,その結果を発表した。また,同じような電子出版物を所蔵しているオランダ王立図書館,英国図書館,フランス国立図書館等からの参加者と個別に情報共有を行った。各図書館でも問題は認識しており対応を検討しているとのことである。

 他にも,各機関のデジタルアーカイブシステムやウェブアーカイブの取組について興味深い報告があった。NDLにおいても,長期にわたり電子出版物を含む電子情報を保存し,その利用を保証することは大きな課題となっている。発表やワークショップを通じて,国際的な動向や各機関の取組を知り得たことは,NDLが今後進むべき方向を検討する上で,大変有意義であった。

 第13回iPRESはスイスのベルンで,2016年10月3日から6日まで開催される予定である。

関西館電子図書館課・山本俊亮

Ref:
http://www.ipres-conference.org/
http://ipres2015.web.unc.edu/
http://www.ipres2016.ch/
http://www.nationalarchives.gov.uk/PRONOM/Default.aspx
E990
E1109
E1354
E1628