E1354 – 電子情報保存に関する国際会議(iPRES2012とIIPC)<報告>

カレントアウェアネス-E

No.225 2012.10.25

 

 E1354

電子情報保存に関する国際会議(iPRES2012とIIPC)<報告>

 

 2012年10月1日から5日にわたり,第9回電子情報保存に関する国際学術会議(9th International Conference on Preservation of Digital Objects:iPRES2012;E990E1109参照)がカナダ・トロントで開催された。各国から電子情報の保存に関わる図書館や研究機関の実務者及び研究者約200名が集まり,国立国会図書館(NDL)からは筆者が参加した。iPRESは複数のワークショップ,セッションが同時並行で開催されるため,筆者が参加したものにつき記す。

 今回のiPRESは4件のワークショップの後にペーパー発表を中心とした本会議を行うという,これまでと順番が反対の構成であったが,ワークショップの内容が本会議の各種発表を理解する助けになった。

 10月1日に開催されたワークショップのひとつは「境界を結び付ける:連携を通じたデジタルキュレーション教育と研修の優良事例」と題して,電子情報の収集・保存・提供を管理・運用する活動であるデジタルキュレーションとそれを実施する人材の育成がテーマであった(E1330参照)。このワークショップは,デジタルキュレーションの普及・啓発,人材育成プログラム等を提供する英国のデジタルキュレーションセンター(DCC)が主催した。NDLでは資料デジタル化研修等を実施しているが,諸外国においても電子情報を取り扱う人材の育成は喫緊の課題である。そこでこのワークショップでは,米国議会図書館(LC)による電子情報関連の修士課程修了者を研究機関にインターンシップさせるプログラム(NDSR)や,英グラスゴー大学のデジタルキュレータに対する教育プロジェクト(DigiCurV)等の人材育成に係る事例が紹介された。多くのプロジェクトが,電子情報の保存の意義を定義した上で,研究成果や実際のデジタルキュレーションの取組を踏まえ時間をかけて作成した教育用カリキュラムによる研修を実施している。質疑応答では,英国・米国はDCCや博物館・図書館サービス機構(IMLS)といった研究・教育を支援する体制があり,英国・米国の教育・研究環境が特別に充実しているとの発言もあった。今回の優良事例はNDLも含め日本の人材育成体制の再考に資する内容であったいえる。

 本会議においても,ポルトガルのポルト大学や英国図書館(BL)等からデジタルキュレーションと人材育成の取組ついての発表がなされ,最後を締めくくるキーノートの一人もDCCのアシュレイ(Kevin Ashley)氏であった。アシュレイ氏は,DCCが2004年に英国の学術情報のデジタルキュレーションの改善のため,JISCの資金により設立された経緯からこれまでの活動を紹介した後,第三期(2010年3月~2013年2月)では,DCCの開発したキュレーションツールを用いた国内の高等教育機関に対する研修プログラムに注力していることを報告した。

 10月2日に開催されたワークショップのひとつは「PREMIS実装フェア」である。テーマは保存用メタデータ“PREMIS”(CA1561CA1690参照)であった。電子情報の長期利用を保証するためには,タイトル・著者等の記述メタデータに加えて,フォーマット情報や再生環境等を記録する保存メタデータが必要である。今回のワークショップでは,PREMISが保存メタデータの事実上の標準であることを理解するとともに,すでにいくつかのシステムで実際に利用されていることがわかった。例えばフランス国立図書館(BNF)では電子化資料と同様にウェブアーカイブ(CA1733参照)についてもPREMISにより保存メタデータを付して,独自開発した保存用システムSPARに投入している。本会議においても,電子ジャーナルアーカイビングのPortico等からPREMISに関連する発表がなされた。NDLのデジタルアーカイブシステムはまだ保存用メタデータを取り扱える仕組みを持っていないため,ここで発表された情報は将来のNDLの保存システム構築に向けて役立つものであった。

 iPRESと併せて開催されたIIPCワーキンググループ(CA1664E1295参照)でもウェブサイトに係るデジタルキュレーションについて情報交換を行い,2013年4月にスロベニアで開催されるIIPC総会のテーマの一つとすることに決定した。今回のiPRES及びIIPCワーキンググループを通じて,BnF等の先進事例のとおり,巨大なサイズのウェブアーカイブも図書・雑誌を電子化した資料等と同様に保存メタデータを付与して,デジタルキュレーションを行える時代に入ったことを実感した。

 次回の第10回iPRESは2013年9月2日から6日に,ダブリンコアとメタデータの応用に関する国際会議(DC-2013;E1344参照)と併せてポルトガルで開催される。

(関西館・柴田昌樹)

Ref:
https://ipres.ischool.utoronto.ca/
http://netpreserve.org/
http://www.dcc.ac.uk/events/external-events/pushing-the-boundaries-workshop
http://www.loc.gov/standards/premis/premis-implementation-fair2012.html
http://bibnum.bnf.fr/spar/index.html
http://www.digitalpreservation.gov/ndsr/
http://www.digcur-education.org/
CA1561
CA1664
CA1690
CA1733
E990
E1109
E1295
E1330
E1344