カレントアウェアネス-E
No.225 2012.10.25
E1355
学習支援での公共・学校図書館の連携を探る講演会<報告>
2012年10月1日,国立国会図書館(NDL)東京本館において,講演会「学習支援における公共図書館と学校図書館の連携を探る」が開催された。これは,2010~2011年度にかけて国際子ども図書館(ILCL)が実施した「学校図書館との連携による学習支援プロジェクト」の報告書「図書館による授業支援サービスの可能性:小中学校社会科での3つの実践研究」(『国際子ども図書館調査研究シリーズ』第2号)刊行に関連して開催されたものである。講演会では,プロジェクト成果報告および,慶應義塾大学教授の糸賀雅児氏とプロジェクト主査である帝京大学准教授の鎌田和宏氏による対談が行われ,学校図書館や公共図書館関係者のほか,出版関係者,研究者など54名が参加した。
初めにILCLの橋詰秋子企画推進係長がプロジェクトについて説明し,教員に応じて支援内容をカスタマイズする必要性や,公共図書館と学校図書館による協働選書の効果などを報告した。プロジェクトの報告書はILCLホームページに全文が掲載されているので,詳細はそちらを参照されたい。
続く糸賀氏と鎌田氏との対談は,プロジェクトの報告で示された論点に沿って行われた。まず公共図書館による学校図書館支援の可能性について,糸賀氏からは,学校図書館支援に対する公共図書館員の意識はとても高いこと,近年の公共図書館は課題解決型サービスを指向しているため学校図書館との連携も地域課題解決の手段の一つとして捉えられることが示された。鎌田氏からは,元小学校教員の立場から,学校には学校図書館を活用した授業実践をする教員はいるが,学校経営の中軸に置く学校はまだ稀であるとの状況が示された。これは,読書や図書館は余暇のためのものというイメージを持つ教員が多いためであるという。対談の中では,教員養成の課程で図書館活用に関する科目が必修でないことも一因ではないかという両氏からの指摘があった。
次に,効果的な学習支援の在り方についても意見が交わされた。まず,教員(授業者)を支援する「授業支援」と児童・生徒(学習者)を直接支援する「学習支援」を区別する必要性が指摘された。そして,図書館を活用した授業実践をしている教員は各学校内で孤立している場合が多いため,図書館員(公共図書館員,学校図書館専門職)が授業支援を展開し学校内に浸透させる上で,始めは,学校組織という “面”ではなく,教員個人という “点”を意識したサービスが有効であることが示された。
今後の連携に向けた議論では,学校図書館の活用や公共図書館の学校図書館支援の実践を積み重ね,それを広く公表していく重要性が指摘された。成果の公表により,点としての活動が学校全体や地域全体での取り組みに繋がり,学校長や教育委員会などの理解によってさらに組織的な活動になるという見解が示された。また,そういった事例や成果を公表する場においては,公共図書館員や学校図書館専門職のプレゼンテーション能力も重要なポイントであるとの指摘もあった。さらに将来的には,学校の属する学校教育行政と図書館の属する社会教育行政を束ねる,地域におけるガバナンスが求められるとの見解が示された。
最後に,学校図書館を活用した教育について,鎌田氏は,様々な子どもの成長のきっかけを作るものであり,あらゆる子どもの学ぶ権利を保障するという面があると語り,今回の報告書をひとつのたたき台として使い支援の輪を広げてほしいと述べた。糸賀氏も,子どもの興味や能力,各自のペースに応じて学習できること,さまざまな子どもたちが勉強の楽しさを実感できることが学校図書館の良さであるとし,公共図書館と学校図書館の連携により,お互いの持つ力以上のものを生み出せる付加価値のある連携を考えていきたいと述べた。
なお,本講演会の要旨は,国立国会図書館月報2013年1月号に掲載される予定である。
(国際子ども図書館児童サービス課)
Ref:
http://www.kodomo.go.jp/promote/school/project-lecture.html
http://www.kodomo.go.jp/promote/school/project.html
http://www.kodomo.go.jp/info/series/index.html#anchor2