カレントアウェアネス-E
No.296 2016.01.21
E1759
NDL,技術文書「OAI-PMHの要点」を公開
国立国会図書館(NDL)は,統合的な検索サービスである国立国会図書館サーチ(NDLサーチ;CA1762参照)の本格稼働 を2012年1月に開始し,その後,連携先を少しずつ増やしてきた。NDLサーチは,今後もシステム連携を進めることで,日本におけるメタデータ提供の「プラットフォーム」(E1557参照)として,より広く利活用されることを目指している。その目標に向けて,連携先拡張を円滑に進めて行くために,NDLは,「国立国会図書館サーチ連携拡張に係る実施計画」を2015年4月に公開した。これは,NDLサーチが連携対象とする機関・システム,5年間を目途に実現を目指す連携拡張の規模と長期的な目標,効率的な連携拡張の方式,の3点をまとめたものである。
分野横断的なメタデータ提供のプラットフォーム実現のためには効率的なシステム連携の仕組みが欠かせない。NDLサーチでは,開発版公開時からNDL内外のシステムとの主要な連携手段としてメタデータ交換用のプロトコルであるOAI-PMH(CA1513参照)を採用しており,「国立国会図書館サーチ連携拡張に係る実施計画」の中でもOAI-PMHでの連携を推進することとしている。
そこでNDLは,2015年10月にOAI-PMHについての技術文書「OAI-PMHの要点」を公開した。NDLでは,これまでもNDLサーチとのOAI-PMHによる連携を希望する機関に向けて参考となる情報を順次公開・提供してきた。しかしながら,データ提供側のシステムで,連携に必須の機能を補うため,一度実装したOAI-PMHの機能をさらに改修するケースが多く見られた。また,機関によってシステムに実装するOAI-PMHの機能が異なるために,NDLサーチ側でも,相手方のシステムに合わせた機能改修を必要とするケースが多かった。
特に数万件以上のデータを保有する機関のシステムとの連携を円滑に実現するには,データ授受を行う双方のシステムにおけるOAI-PMHの機能実装や収集性能(収集結果の正確性と収集速度)によるところが大きい。本文書によって,それらの改善,向上に資することが出来れば,NDLサーチは理想的な「プラットフォーム」により近づくであろう。
さらに,本文書を公開した目的は,NDLサーチへのデータ提供機能に留まらない,より汎用性の高いOAI-PMH機能の実装を支援することにある。大学図書館のシステムにおいて、主に国立情報学研究所の働きかけにより、OAI-PMHがすでに普及しているのとは異なり,公共図書館あるいは美術館,公文書館には,数年前まで,それを実装するシステムはほとんど存在しなかった。しかしいまや,都道府県立および政令指定都市立の図書館システムにおいては,OAI-PMHが本格的に普及しつつある。ただその際,既述のように,機関によって機能が異なるといった問題が生じていた。そのような状況の中で,本文書で紹介した実用的なリポジトリ実装のための要点が,各機関のシステムやシステムパッケージそのものに組み込まれることで,日本全国に標準的なOAI-PMHの機能実装が広がる意義は大きい。それは,例えば都道府県域内の総合的な目録を構築するケースや,目録とデジタルアーカイブをまとめて検索・利用できる統合検索サービスを作成するケース等,NDLサーチを介さない機関同士のメタデータ連携の促進にも繋がるだろう。
「OAI-PMHの要点」は,図書館職員やデジタルアーカイブ運用担当者に向けOAI-PMHの概要と位置づけを説明した「OAI-PMHの概観」,要件定義担当者や開発者がリポジトリの設計や実装を行う上での注意点と図書館システムを想定した実践的なリポジトリの設計について述べた「実用的なリポジトリの実装」からなっている。
前半の「OAI-PMHの概観」では,OAI-PMHの特徴やその機能について,以下の5つの観点から説明している。
- 検索サービスシステムの連携方式
- OAI-PMHの特徴とリクエスト・ListRecordsによるデータ取得とフロー制御
- Setの概要と設計
- 正確性と速度
後半の「実用的なリポジトリの実装」においては,OAI-PMHの収集性能を高めるための主なポイント5点を,具体的に説明している。
- 最終更新日の持ち方と,レコードの整列
- 削除レコードのデータの持ち方と管理
- 返戻結果の完全性の担保
- Setに基づく対象レコードの抽出
- 出力するXMLデータの生成タイミング
こうした技術文書の提供の他にも,NDLは,公共図書館やデジタルアーカイブの担当者,またはシステムベンダ等に向けて,OAI-PMHを含むWebAPIの実装の働きかけや,情報提供・技術支援を行っている。
分野横断的なプラットフォームの実現は知の還流と新たな知識の創造を促進する。NDLサーチとの連携や技術支援を通して,日本の価値ある情報資源の発見,入手,利活用の輪を広げていくことを目指していきたい。
電子情報部電子情報サービス課・髙橋美知子,安藤大輝,菊地祐子
Ref:
http://iss.ndl.go.jp/information/2015/10/02_announce_1/
http://www.dlib.org/dlib/january03/smith/01smith.html
http://dspace.org/
https://community.repo.nii.ac.jp/
https://support.nii.ac.jp/ja/news/cinii/20151028
http://iss.ndl.go.jp/information/link/
http://iss.ndl.go.jp/information/renkei/
http://drf.lib.hokudai.ac.jp/drf/index.php?plugin=attach&pcmd=open&file=DRFmonthly_72.pdf&refer=%E6%9C%88%E5%88%8ADRF
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CA1762
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