E2750 – カナダにおける図書利用者の動向調査(2023年)

カレントアウェアネス-E

No.491 2024.11.21

 

 E2750

カナダにおける図書利用者の動向調査(2023年)

利用者サービス部図書館資料整備課・外村廉(とのむられん)

 

  2024年5月、カナダの出版団体BookNet Canadaは、カナダにおける図書利用者に関する、2023年版の報告書“Canadian Book Consumer Study 2023”を公開した。図書利用者(book consumers)とは、図書の購入者と図書館の利用者を指す。報告書では、過去の調査との比較を通して、印刷物及び電子書籍の市場動向に関して考察し、図書の価格と消費者動向に関する現在の経済情勢を解説している。本稿では、報告書の概要を紹介する。

●調査手法

  今回の調査は、2023年の4月、6月、9月、12月の4回、オンラインで実施され、18歳以上の英語話者のカナダ人4,270人から回答を得た。

●調査結果

  • 全回答者4,270人のうち、ひと月に48%が図書を購入し、23%が図書館で借りたことが示されている。
  • また、図書の購入者のうち、ひと月に79%がオンライン書店に、70%が実店舗に訪れるなど、2022年からその割合は共に上昇している。
  • 図書の購入者のうち、55%がオンライン書店、45%が実店舗で購入している。コロナ禍以前は、オンライン書店と実店舗の割合は半々であったがその状態に戻りつつある。
  • 購入図書のうち、ペーパーバックが53%、ハードカバーが25%、電子書籍が14%、オーディオブックが4%であった。なお、全体として、ペーパーバックの購入数は前年と比較して増加したが、電子書籍は低調であった。
  • 1か月当たりの図書の購入費として、59%が1~49カナダドルの図書を購入したと回答している。前年の調査では64%であるため、その割合は減少している。なお、調査では、図書を購入するとき、88%はセールなどの安く購入できる方法を探すが、実際は、彼らのうち、61%は値引きなしで購入していることが判明している。
  • インフレの状況下にも関わらず、古本ではなく新刊図書を買った人のうち、値段と比較した際、49%が図書の内容が素晴らしい、38%が良い、12%が妥当、1%が見合わないと回答した。これらの割合は図書形態によって多少異なるが、電子書籍の場合、素晴らしいと回答した割合が59%に上ることは注目に値する。
  • 図書館の利用者に関しては、オンラインで図書館を利用する人の割合は、2020年の50%から2023年の86%に増加し、実際に図書館に足を運んだ割合も、同期間内で59%から73%へ増加している。
  • 貸し出された図書のうち、72%が紙媒体、18%が電子書籍、10%がオーディオブックであった。このうち、電子書籍のプラットフォーム、OverDriveから採取されたデータを分析したところ、オーディオブックの貸出数は、2019年と比較した際、97%増加している。
  • 図書館の利用について、73%は図書(各種形態を含む)を借りるだけである。一方で、9%がDVD、8%が雑誌、4%がインターネットやWi-Fiなども利用すると回答している。
  • 本を借りる理由として、55%が支出を抑えるため、43%がその本に対価を支払いたくないため、32%が読みたいが、保有はしたくない、または読んでいることを他人に知られたくないためという理由を挙げている。
  • また、図書館の利用者のうち、65%が自身のためにのみ図書を借りると回答しているが、彼らを除いたうち、14%が18歳以上の大人、10%が8~12歳、8%が13~17歳、同じく8%が4~7歳、そして2%が0~3歳の子どものためにも図書を借りると回答した。
  • 図書館の利用者が、借りる図書を知るきっかけは、「そのジャンルや対象の分野を見ていた」、「特にその本について調べていた」、「著者について見ていた」との回答がそれぞれ、42%、36%、26%と上位を占めている。また、図書館の利用者が頻繁に使用するソーシャルメディアとしてYouTubeが68%、Facebookが63%、Instagramが47%を占める一方で、38%が図書に特化したオンラインサイトを一度も使用したことがないと回答している。

●おわりに

  報告書をもとに、カナダにおける英語話者の、図書利用状況の動向について概観してきた。図書の購入者については、実店舗の利用割合がコロナ禍前の水準に戻りつつあり、前年と比べて、ペーパーバックの購入割合が高水準を維持する一方、電子書籍は減少した。また、図書館でも最も多く貸し出された図書形態は紙媒体であった。このことから、紙媒体の書籍への興味は未だ根強いと言える。また、図書の購入者、図書館の利用者共にオンライン、実店舗あるいは図書館に訪れた割合は過去と比べて上昇している。このため、全体として図書利用への興味が維持されていると言えよう。

  今回の報告書の公開後、BookNet Canadaから図書利用のより詳細な点に関する報告書がいくつか出されている。2024年6月には余暇における読書活動に焦点を当てた報告書、“Canadian Leisure & Reading Study 2023”が公開されている。また、同年9月には、“Turning Pages: Print Book Use in Canada 2023”が公開され、紙媒体の図書の購入者の読書習慣が明らかになっている。これらもあわせて参照されたい。

Ref:
“The Canadian Book Consumer Study 2023 is now available”. BookNet Canada. 2024-05-24.
https://www.booknetcanada.ca/blog/2024/5/24/the-canadian-book-consumer-study-2023-is-now-available
Canadian Book Consumer Study 2023. BookNet Canada, 2024, 39p.
https://www.booknetcanada.ca/s/CBC_2023.pdf
Canadian Leisure & Reading Study 2023. BookNet Canada, 2024, 42p.
https://www.booknetcanada.ca/s/Canadian-Leisure-and-Reading-Study-2023.pdf
Turning Pages: Print Book Use in Canada 2023. BookNet Canada, 2024, 39p.
https://www.booknetcanada.ca/s/Turning-Pages-2023PDF.pdf