E2388 – 大学の図書館と博物館の協力関係構築のポイント:米国の事例

カレントアウェアネス-E

No.413 2021.05.27

 

 E2388

大学の図書館と博物館の協力関係構築のポイント:米国の事例

信州大学附属図書館・岩井雅史(いわいまさし)
信州大学大学史資料センター・坂元英恵(さかもとはなえ)

 

   2020年11月,米国の非営利団体Ithakaの調査部門Ithaka S+Rは,大学の図書館と博物館との連携促進に関する調査報告書“Structuring Collaborations:The Opportunities and Challenges of Building Relationships Between Academic Museums and Libraries”を公開した。この報告書では,米国の30の大学の図書館長と博物館長等に,大学内での両者の連携に関するインタビューを行い,その結果として連携促進に重要な側面をまとめるとともに,効果的な連携が見られた3つの事例を取り上げている。

●連携促進に重要な側面

  • 指揮系統
       図書館長と博物館長は,ともに学務担当の副学長の下に属することが多いが,4分の1のケースで,博物館長は人文・自然科学の学部長の下に属していた。指揮命令系統が異なることは,連携の障害となる可能性があり,両館(長)の間に非公式な関係を築いておくことが効果的である。
  • ガバナンス
       博物館と図書館に対するガバナンス体制には,大学の理事会や評議会等の他に,教員,学生,卒業生,寄付者などのステークホルダーが参加する補助的な委員会が設けられる場合がある。そうした存在は,財政面や戦略面で味方になりうるが,逆に障害となったり緊張を生んだりするケースもあるため,これらとの関係の構築が重要である。
  • 教員待遇
       3分の2のケースで図書館員には教員待遇が与えられていた一方,博物館長やチーフキュレーターには4分の1のケースでしか教員待遇は与えられていなかった。この待遇の差により両スタッフの間に緊張感があるという意見が出た。しかし,教員待遇が連携の障害となっているように見える場合,実際には,学内の風土の方に問題がある可能性が高い。
  • 予算と寄付
       博物館は財政を寄付に依存する割合が高く,図書館でも,新規事業の展開には,大学本部からの配分以外に,自主財源の確保に取り組む必要がある。だが,財務状況に関する情報が,大学本部から満足に得られないとの意見が多かった。各館側でも,寄付に関する担当者を置いて,必要な情報交換等の連携を行える体制を整えることが,コレクション管理の成功のために重要である。

●効果的な連携事例

  • アイオワ大学
       2008年にアイオワ川の氾濫で博物館が移転し、展示スペースが縮小したことを契機に,キャンパス内の様々なコレクション管理者が連合を組み,定期的に連絡を取り合う体制が作られている。

       博物館と図書館は,互いの近い分野で相互に協力を行っている。たとえば,ともにナポレオン戦争が背景となっている,図書館が所蔵する作家トルストイ『戦争と平和』と博物館が所蔵する画家ゴヤの版画『戦争の惨禍』の関連展示を開催したり,展示会“Dada Futures”での博物館資料の展示に,図書館の保存スタッフが協力したりといった活動がある。

  • プリンストン大学
       図書館が,博物館のコンテンツを含め,学内の資源を統合的に検索できるディスカバリーサービスを開発した。図書館ウェブサイト上での検索だけでなく,APIを通じて外部からデータを呼び出すこともできる。技術的には単純ながら,組織間の縄張り意識が障壁となっていたが,組織のトップが変わり意識が変化したことで実現した。
  • アトランタ大学センター
       アトランタ大学センターは,4つの歴史的黒人大学によるコンソーシアムであり,GLAM(Gallery, Library, Archives, Museum)センターを設立して,資料のデジタル化,教員研修や学生の研究への博物館資料の活用,デジタルプラットフォームの共有による可視性の向上などを,連携して行っている。教員研修は図書館・博物館のスタッフも受講でき,相手の資料を知る機会となって,それを自らのリテラシー教育や学生支援に生かす等の好影響が生まれている。

●結論

   博物館と図書館の連携を促進するために,図書館長と博物館長を同列の立場に置くなど,大学が組織上取りうる方法はさまざまある。しかし,これまでの成功事例のほとんどは,学内の組織間の関係をじっくりと構築したことから実現している。インタビューに応じた博物館長や図書館長は,互いの施設を含めて,学内の様々な場に顔を出し,関係を築くことが大切だと答えていた。館長たち・スタッフたちの強固な関係があって初めて,連携も生きてくると考えられる。

   以上,報告書の内容を説明した。日本でも,MLAやGLAMといった枠組みでの連携には注目が集まっているが(CA1749参照),大学内での事例については,まだ報告は少ない。今後取り組みを進めていくにあたって,この報告書が示す知見や事例は,参考になると思われる。

Ref:
L. Sweeney. Structuring Collaborations: The Opportunities and Challenges of Building Relationships Between Academic Museums and Libraries. Ithaka S+R, 2020, 24p.
https://doi.org/10.18665/sr.314348
“Goya’s “Disasters of War” and Tolstoy’s “War and Peace”: A Dialogue Between Art and Literature”. University of Iowa Stanley Museum of Art. 2019-05-11.
https://stanleymuseum.uiowa.edu/events/goyas-disasters-of-war-and-tolstoys-war-and-peace-a-dialogue-between-art-and-literature/
“Dada Futures: Circulating Replicants, Surrogates, and Participants”. University of Iowa Stanley Museum of Art. [2018?].
https://stanleymuseum.uiowa.edu/exhibitions/dada-futures-circulating-replicants-surrogates-and-participants/
“New integrated search enhances access to Library and Museum collections”. Princeton University Library.
https://library.princeton.edu/news/general/2019-10-16/new-integrated-search-enhances-access-library-and-museum-collections
GLAM Center for Collaborative Teaching and Learning – Atlanta University Center Robert W. Woodruff Library.
https://glam.auctr.edu/
安達匠. 人文系資料を対象とした大学図書館・大学博物館連携. アート・ドキュメンテーション研究. 2010, No. 17, p. 3-17.
三角太郎. 大学図書館の学内博物館,文書館との連携について : 東北大学の事例から. 大学図書館研究. 2019, 112, p. 2044.1-2044.11.
https://doi.org/10.20722/jcul.2044
水谷長志. MLA連携-アート・ドキュメンテーションからのアプローチ.カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1749, p. 20-26.
https://doi.org/10.11501/3192161