E2377 – コロナ禍における熊本市立図書館の取組み

カレントアウェアネス-E

No.412 2021.05.13

 

 E2377

コロナ禍における熊本市立図書館の取組み

熊本市立図書館・原田武(はらだたける)

 

   新型コロナウイルス感染症対策として新しい生活様式の実践や不要不急の外出自粛などが求められ,図書館へ来館することを控える人も多い中,コロナ禍あるいはポストコロナの時代に対応した図書館サービスを考え実践していくことは多くの図書館の課題となっていることだろう。今回は,コロナ禍における熊本市立図書館の取組みとして,電子図書館,長期間帰省中の大学生等への図書館カード発行,熊本県立図書館資料の貸出返却の3点について,概要や背景,今後の展望等を報告する。

●電子図書館

   当市では2019年10月の図書管理システム更新に伴う新しいサービスとして同年11月から電子図書館サービスを開始した。若い世代の読書離れが叫ばれる中,インターネットを通じていつでもどこでも読書に親しむことのできる電子図書館が,読書に興味を持つきっかけになればとの思いから導入を決めた。徐々にコンテンツを充実させ利用を伸ばしていこうとしていたところ,新型コロナウイルス感染症対策として2020年2月末に図書館の休館が決まった。多くの図書館サービスが十分に提供できない状況でも,非来館型サービスである電子図書館は継続してサービスを提供することができた。

   多くの人に電子図書館を利用してもらうため,2020年4月からは電子図書館の利用に必要な図書館カードの新規申込みを従来の来館しての申請ではなく郵送で受付けた。また,同年5月には休校中の市内の小中学生に電子図書館を利用してもらおうと,学校図書館用カードで電子図書館を利用できるようサービスを拡充した。これにより,小中学生は図書館に利用登録しなくとも自宅で電子図書館を利用して読書することができるようになった。当市では小中学生に1人1台タブレット端末を導入する計画が進んでいたこともあり,多くの子どもが電子図書館を利用しやすい環境にあったことも幸いした。

   このような取組みの結果,電子図書館の利用は急速に伸びた。電子書籍の貸出数は休館前の2020年2月と比べ同年5月は約11.6倍となった。これは主に小中学生やその保護者世代の利用が増えたことによるものであり,貸出ランキングの上位には子ども向けの小説や絵本が並んだ。小中学校からの要望にも応え,授業で役に立つようなコンテンツも導入した。また,子ども向け以外にも幅広い年代の様々なニーズに応えられるようコンテンツを充実させ,2021年3月末時点でのタイトル数は約2万冊と,全国の電子図書館の中でも規模が大きなものとなっている。今後も継続してコンテンツを増やし,サービスを提供し続けていくことが重要であると考えている。

●長期間帰省中の大学生等への図書館カード発行

   コロナ禍で地元に帰省し,オンラインで授業を受ける大学生等に対し,市内に住民票がなくとも図書館カードを発行できるというサービスを2020年8月から開始した。通常,図書館カードの発行には,市内に居住または通勤,通学していることを証明する書類が必要になるが,コロナ禍における特例として,身分証明書のほか同居親族からの居住証明書を提出してもらうことでこれを可能とした。

   このサービスを始めるきっかけになったのは,大学生から送られた1通のメールである。そこには,地元に帰省したものの授業やレポート作成に必要な参考図書を図書館で借りることができず,十分に学問に取り組むことができないという切実な思いが綴られていた。図書館としてもこれを深刻にとらえ,コロナ禍でも学問に励む大学生等に協力したいとの思いから実施を決めた。大学等に通えない状況が続く中でも,図書館資料が授業やレポート作成の一助となれば幸いである。

●熊本県立図書館資料の貸出返却

   同じ熊本市内に所在する県立図書館資料を予約して借りるときの受取り場所として,当市の図書館・図書室等22か所を指定できるというサービスを2021年1月に開始した。貸出だけでなく返却についても市の窓口で受け付ける。県立図書館が同館のシステム改修を行うとともに,市の図書搬送ネットワークに県立図書館を組込むことによって実現させた。このサービスにより,県立図書館まで行かなくても市内の近くの図書館・図書室等で図書の貸出返却が可能となり,利用者の利便性向上のほか,移動距離の短縮による感染リスクの低減につながると期待している。

   開始して間もないサービスではあるが利用は着実に伸びている。市と県とでは蔵書構成が異なり,市では所蔵していないような高価な専門書等も県には多い。市にとっては蔵書数の拡大や多様化と同等の効果があり,県にとっては必要な人に必要な資料が届きやすくなることで貸出冊数の増加が見込まれる。このサービスを契機に図書館間の連携を深めサービスの充実に努めたい。

●おわりに

   以上,コロナ禍における熊本市立図書館の取組みについてまとめた。コロナ禍であるからこそ図書館が果たすべき役割は大きく,多くの人に必要な情報が届くような図書館運営が求められる。今後も当館の目標として掲げる「市民から信頼され,親しまれ,そして愛される図書館」を目指し,努力を続けていきたい。

Ref:
熊本市立図書館. 令和元年11月1日(金)午前9時熊本市立図書館のホームページに電子図書館が開館します.
https://www.library.city.kumamoto.jp/?action=common_download_main&upload_id=2310
“学校の図書利用カードで電子図書館が利用できます。”. 熊本市立図書館. 2020-04-24.
https://www.library.city.kumamoto.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=journal_view_main_detail&post_id=131&comment_flag=1&block_id=1400#_1400
“帰省中の大学生の図書館カード作成について”. 熊本市立図書館. 2020-08-06.
https://www.library.city.kumamoto.jp/index.php?action=pages_view_main&active_action=journal_view_main_detail&post_id=149&comment_flag=1&block_id=2331#_2331
“【報道資料】県市図書館連携サービスの開始について(県立図書館の本を市の図書館で貸し出します)”. 熊本市. 2020-12-03.
https://www.city.kumamoto.jp/hpKiji/pub/detail.aspx?c_id=5&id=31809&class_set_id=3&class_id=535