E2817 – 国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)2025年春期会合<報告>

カレントアウェアネス-E

No.507 2025.08.21

 

 E2817

国際図書館コンソーシアム連合(ICOLC)2025年春期会合<報告>

横浜市立大学・石井直美(いしいなおみ)、一橋大学・江沢美保(えざわみほ)

 

  国際図書館コンソーシアム連合(International Coalition of Library Consortia:ICOLC)は、世界中の約240の図書館コンソーシアムが参加する組織で、スタッフ・ディベロップメントや、情報・知識の共有、参加機関の相互ベンチマーク等を行っている。ICOLCの会合は、年2回、春季に米州(The Americas)、秋季に欧州・中東・アフリカ(Europe, the Middle East and Africa:EMEA)で開催されており、2025年春季会合は2025年5月4日から7日の4日間にわたって、米国のシカゴで開催された。大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)からは筆者2人が参加し、海外のコンソーシアムとの情報交換を行った。

  春季会合は例年北米からの参加者の割合が多いが、今回は特にトランプ大統領再選後の政治的情勢の影響もあり、ほとんどが米国からの参加者であった。米国・カナダ以外からの参加者は、チェコから1人、日本から我々2人のみであった。

  基調講演では、米国図書館協会(ALA)から、図書館に対する圧力や予算削減にどう立ち向かうかについての話題提起があった。特に米国内における検閲の動向が大きく取り上げられ、LGBTQや部族図書館のような図書館が攻撃の対象になっているという内容が紹介された。このような動きに対し、インディアナ州では検閲行為に係るコストを具体的に算出して世間の反発を味方につけ検閲を中止させ、アイオワ州では図書館協会への資金提供を禁じる法案をロビー活動で阻止した、といった成功例が提示された。また、博物館・図書館サービス機構(IMLS)の機能縮小に関する大統領令に対してALAが訴訟を起こし、一時差し止め命令が発令されたことなどが紹介された。

  こうした情勢を受け、恐怖や孤独を感じたり、疲弊したりしている図書館員に対しての支援が必要であるとの言及があった。「Show Up for Our Libraries」や「Unite Against Book Bans」(CA2029参照)といった、ALAが行っているキャンペーンやイニシアチブに参加する団体が紹介され、図書館員同士がつながりを持ち、情報を共有し、サポートを提供しあうことで、学ぶ権利や情報にアクセスする自由を守っていかなければならない、という強いメッセージが述べられた。

  オープンアクセス(OA)に関するセッションでは、公益法人Open Source Initiative(OSI)の職員と、元研究者というバックグラウンドを持つ研究データライブラリアンが登壇し、米国におけるOA政策について、また研究者・図書館員の視点から双方にとってメリットのある状況を実現するための方策について、議論がなされた。

  OA推進政策の方向性としては、グリーンOAの手段の確保、論文の権利保持、分散型リポジトリへの注力、永続的識別子(PID)システムが非独占的かつオープンであることの保証が挙げられた。研究者の視点からは、図書館リソースや国の資金政策についての研究者への教育が不足している点、既存インフラが研究コミュニティのニーズに追いついていない点、研究者の著作権についての理解が不十分である点が問題と指摘された。

  登壇者からは、研究者を対象として実施する研修にOAについての講習を組み込むことや、研究コミュニティの側からスキームを提示することなどが提案され、会場からは、機関内で図書館の役割を明確にすることの重要性が提示された。そして、データ共有におけるコミュニティ主導のアプローチを促進するため、米国連邦政府の政策が重要な役割を果たすと述べられた。

  その他、図書館におけるAIの利用や、リソースシェアリングに関するセッション、各コンソーシアムからの報告、小グループに分かれた分科会等、多岐にわたるセッションが行われた。また、クラリベイト社から発表されている電子書籍のサブスクリプションモデルへの移行について、同社の担当者による状況説明と、それについての質疑応答を行うセッションも設けられた。

  EMEA開催となるICOLC2025年秋季会合はフランス・ニースで2025年9月29日から30日まで、次回の米州開催となるICOLC2026年春季会合は米国・フロリダで2026年3月15日から18日までの日程で開催される予定である。

Ref:
ICOLC.
https://icolc.net/
“Show Up for Our Libraries”. ALA.
https://www.ala.org/advocacy/show-up-for-our-libraries
Unite Against Book Bans.
https://uniteagainstbookbans.org/
Open Source Initiative.
https://opensource.org/
小南理恵. 米国の図書館における検閲に関する動向. カレントアウェアネス. 2022, (354), CA2029, p. 2-5.
https://doi.org/10.11501/12394666

 

 

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