CA1159 – オーストラリアのコンピュータと日本語情報へのアクセス−日本関係情報の現状(6)− / 坂口英子

コンピュータで日本語を読んだり書いたりするという日本では当たり前のことが,外国にいると大変難しい問題となる。海外日本研究図書館の場合,日本語コンピュータ環境を整えるためには,まずデジタル日本語情報への需要があることが第一であり,次に最も適切な機器ソフトの選択,購入…

カレントアウェアネス
No.219 1997.11.20

 

CA1159

オーストラリアのコンピュータと日本語情報へのアクセス
−日本関係情報の現状 (6)−

コンピュータで日本語を読んだり書いたりするという日本では当たり前のことが,外国にいると大変難しい問題となる。海外日本研究図書館の場合,日本語コンピュータ環境を整えるためには,まずデジタル日本語情報への需要があることが第一であり,次に最も適切な機器ソフトの選択,購入のための予算準備,技術的サポート(現地コンピュータシステムに詳しい技術者と日本のコンピュータに関する知識)などが必要となる。オーストラリア・メルボルン近郊にあるモナシュ図書館では,利用者もWindows3.1環境下,日本語でインターネットにアクセスでき,私のコンピュータでは,日本語で検索,入力,電子メールの送受信などの機能も利用できる。将来OS環境が変わってもどうにか対応できるのではないかと思う。振り返ってみると,ここまでくるのに本当に多くの人達に時間と知識,情報を提供していただいた。

私がメルボルン大学図書館で日本語デジタル資料へのアクセスに本格的に関心を持ち始めたのは1992年のはじめ頃である。日本語資料に係わる図書館業務は,当初収集整理,維持が主であったが,日本語学習者の数が増加し,日本研究が盛んになった80年代後半からは,レファレンス業務の必要性が増してきた。しかし,資料の絶対数が少ないことに加えて書誌索引類も不足しており,ニーズが従来の資料では賄いきれなくなってきていた。日本での電子出版の状況を知るにつけ,利用の可能性を考えてはいたが,ハーバード法律図書館のハリソン(Scott E.Harrison)の記事から判断して需要はあっても予算と技術面で日本のCD-ROMを購入するのは難しいと判断していた。しかし日本研究のコールドレーク初代教授がデジタル資料の導入に積極的であり,学部と図書館の協力,万博基金の援助により1993年にJ-BISC,HIASK,雑誌記事索引CD-ROM版の購入が決まった。

さて,残るは技術面で試験用にJ-BISCを丸善から拝借しDOS/Vを使い,システム・サポートのストロング技師がこちらのコンピュータに実験的にインストールすることから始めた。本当は,日本からコンピュータ本体も購入しようかと計画したが,ハードのサポート問題もありこちらの機械を利用することにした。海外製のコンピュータでも日本語処理を可能にしてくれる基本ソフト, DOS/Vの存在も,こちらの機械に決めた大きな原因である。ソフトをインストールする時,当たり前のことだが日本語ソフトはメッセージが日本語である。そこで,コンピュータの仕組みに詳しいメルボルン大学で研究中の大阪大学の永瀬医師とDOS/VやNECのコンピュータに詳しいビクトリア大学の田家講師にも助けていただく事にした。国立国会図書館のCD-ROMはDOSベース,HIASKはWindowsベースだったので,すべてがうまく動くまで何度も何度も両方のディスクのインストールを繰り返した。プリンタの接続にも苦労した。それでも実際にこの3つのCD-ROMを使ってみると,その便利さにこれまでの苦労が報われた気がした。J-BISCは図書の収集,目録業務の時間を短縮したし, HIASK,雑誌記事索引の便利さはいうまでもない。

オーストラリアの大学のコンピュータ化が急速に促進された1995年に私はモナシュ大学図書館に移籍した。インターネット閲覧ソフトもモザイクからネットスケープに変わり,図書館ではインターネットの重要性が強調されるようになっていた。日本語デジタル情報のアクセスが問題になったが,私のコンピュータを日本語専用にしてしまうと,英語のプログラムが使えず業務に負担がでてくる。メルボルン大学での経験から,ネットワークにつながれたコンピュータに日本語と英語の二つのDOSを入れるのは余り良い選択ではないことがわかっていた。この頃にはすでにいくつかの日本語のためのソフトが出まわっていて、その中でもWin/Vというソフトウェアが値段も適切であり,英語版ウィンドウズのレベルで日本語に環境を変えるということを聞いていた。幸い,世界標準の汎用文字コード体系であるユニコードの作成に携わっているコンピュータとロボット工学のジム・ブリーン教授の知己を得,日本のコンピュータにくわしいカナダからの大学院留学生レスリー・タクと知り合うことで,日本語情報のアクセスに必要な情報が掲載されている英語のコンピュータ雑誌Computing Japanの存在を教えてもらった。その結果この時点ではWin/Vが一番いい選択であるということを確信した。

Win/VとWordがシステムサポートのフロッドリック技師によって私のPCにインストールされ,必要な時にはネットスケープ上で日本語検索ができるようになり,インターネット上で資料の利用が可能になった。電子メールもネットスケープを使って最初は送信だけだったが,最近では日本語でメールの受信もできるようになった。利用者PCにもWin/Vをインストールし,9月にはもう1台のPCに日本語版Windows95を導入した。利用者はこれまで,インターネットで日本語が読みたければShodouka(http://www.lfw.org/shodouka/)を経由しなければならなかったが,これで直接日本語サイトにアクセスできるようになった。

モナシュ大学図書館:坂口 英子(さかぐちえいこ)

Ref: Harrison, S.E. Accessing Japanese databases on personal computers in the United States. CEAL Bull (94) 11-20, 1991
Nishimoto, Naoki. Using Japanese applications on English Windows: Win/V. Comput Jpn 1 (5) 41, 63 1994