カレントアウェアネス
No.207 1996.11.20
CA1094
BLR & DDからBLRICへ
1974年に設立された英国図書館研究開発部(British Library Research and Development Department: BLR & DD)が,今春英国図書館研究イノベーションセンター(British Library Research and Innovation Centre: BLRIC)と改称し,大幅な組織改編を行った。
今回の改編の背景には,次の2点が考えられる。1)図書館情報委員会(Library and Information Commission: LIC,用語解説T19参照)の発足により,BLR & DDによる「開発」の重要性が減少したこと。2)予算の実質減が続いていること。
1)については,以下のとおりである。BLR&DDは,英国の科学技術振興政策の一環として設立された科学技術情報局を前身とすることもあり,発足以来英国全体の図書館情報サービスの向上を主な目的として,研究戦略の開発から助成までを一貫して行ってきた。しかし,昨年度LICが英国の図書館政策を策定する機関として文化財省の下に発足したのに伴い,研究戦略の策定もLICに置かれる小委員会に任されることになった。BLR & DDでは5年単位の戦略計画を立てていたが,現在はとりあえず今年度限りのBLRICとしての研究計画を立て,LICの戦略計画が示されるのを待っている状態である。
2)については,以前から問題になっていたところでもあり,1992年にも機構改革を行うなど(CA897参照),BLR & DDでも努力を積み重ねてきた。しかし,実質的な予算減は更に継続している。1996-97年度の予算は143万4千ポンドで,1995-96年度予算からは名目的にも13%減であった。この状況下で研究助成金を確保するため,組織のための予算を削ることとなり,1)で述べた変化にも伴い,この度さらに大幅な組織改編が行われた。
BLR & DDは開発課,研究助成課,情報政策課,相談業務・国際室の3課1室から成っていたが,今回の業務自体の変化により,研究・相談業務を担当する部門と,センターの経営や財務に携わる支援部門に大きく2分された。前者は2人のアシスタント・ディレクターが,それぞれ政策・計画と相談業務を含む奨励・開発を担当し,政策・計画担当のもとに実際に研究助成を担当するリサーチ・アナリストが置かれる。これにより,1995-96年度には23人(他に外部の出資に対し雇用された2.5人(常勤換算))いた職員が,1996-97年度には17人,1997-98年度には16人に削減されることになっている。
今回新たに置かれたリサーチ・アナリストは,この3月に決まった1996-97年度研究計画に定められた7つの重点領域をそれぞれ一人で担当するもので,その領域に関する管理を行う。また,重点領域以外に割り当てられた分野(公共図書館,出版など)における開発状況のモニターも行うことになる。
研究成果の発表・普及もBLRICの重要な役割である。いままで研究成果はBLR & DDが直接出版してきたが,1989-90年度から,Bowker-Saur社と一部の刊行物について出版契約を結ぶなど,出版分野での経済性向上に努めてきた。BLRICは,BLのWWWサーバであるPortico上での研究成果の発表を予定しており,助成対象者及び商業出版社が出版する以外は,冊子形態での研究成果の公刊は行わない。直接の出版物収入は失うが,出版にかかるコストも軽減されるという財政面での理由のほか,より迅速に研究成果を伝達するという役割も期待されているものと思われる。
BLRICの活動に関しても,Portico上のページで詳細に紹介されており,詳しい研究助成内容等について参照することができる。
川西 晶大(かわにしあきひろ)
Ref: Research Bulletin (14), 1996
http://portico.bl.uk/ric/
R & DD Report 1990/92 BLR & DD, 1992
柳与志夫 図書館情報学の発展における全国的研究開発助成機関の役割 図書館学会年報42 (1) 49-56, 1996