カレントアウェアネス
No.207 1996.11.20
CA1095
ロシア連邦の納本法
1994年暮れ,ロシア連邦の納本法が議会での採択(11月),大統領の署名(12月)を経て発効した。1991年からの作成作業が完成をみたもので,これまで政令等の形であったものが初めて1つの法律としてまとめあげられた。内容的にはこれまでの制度の基本的なところを受け継ぐと同時に,1981年のユネスコの納本法についての勧告に呼応するものとなっている。
条文は全4章,24条から成り,次のように構成されている。
第1章(総則=第1条〜第5条):目的,納本対象となる資料の種類など
第2章(文献生産者の義務と権利=第6条〜第16条):資料の種類ごとの無償納本及び有償納本の義務,納本先など
第3章(納本受入れ機関の義務=第17条〜第22条):資料の種類ごとの受入れ機関,書誌作成や保存・利用に関する義務など
第4章(終章=第23条,第24条):義務違反に対する責任など
世界の文化財の一部でもある国の図書館情報資源を網羅的に収集し,保存するとともに,その目録・書誌を作成し,一般の利用を保証していく,そのための基礎としての納本制度であることが明記されている。以下に主な点,特徴的なことなどを挙げてみる。
納本対象資料 いわゆる通常出版物(楽譜,地図等も含む)の他,視覚障害者向け資料,官庁資料,視聴覚資料(映画,ビデオ作品等),電子出版物(コンピュータプログラム,データベースも含む),非刊行文献(学位論文,調査報告書等)といった資料がかなり具体的に挙げられている。もちろん,個人的・部内限定的資料は対象外であるし,アルヒーフについては別の法律の定めによるとしている。
納本資料受入れ機関 多数の受入れ機関があり,資料の種類による分担がある。一般の出版物は,まずロシア書籍院へ納本され,そこからロシア国立図書館(モスクワ,サンクト・ペテルブルグ),科学アカデミー図書館,同シベリア支部図書館等へ送付される。この送付先のリストが別に定められることになっていて,納本資料の全てを送る(完全セット)ところと,一部を除いて送る(不完全セット)ところとがある。送付先が多いため,例えばロシア語の図書は無償納本だけでも16部(他に有償納本,地方納本がある)が義務付けられている。また視覚障害者向け資料はロシア国立盲人図書館に,官庁資料は連邦議会図書館に,特許資料は全ロシア特許技術図書館等に,規格資料は…,視聴覚資料は…,電子出版は…,非刊行資料は…というように多くの受入れ機関が指定されている。
無償納本と有償納本 ロシアの納本制度の特徴として,中央配給機関を通じての有償納本の存在がある。これは国内の多数の学術図書館等が迅速・確実に資料を確保するための,旧ソ連時代からの名残とも言える制度である。具体的な納本部数や送付方法は政令等で定めることとなっている。将来的にはなくなる方向と思われる。
連邦納本と地方納本 連邦レベルの納本の他に共和国や州などの地方レベルの納本についても規定があり,細かな点については各政府・自治体で定めることとなっている。
CIS諸国との交換 CIS(独立国家共同体)を構成する他の国々に対して,協定等に基づく交換等の形で国内出版物を送付し,単一の情報空間を維持・発展させる(第8条)としている。これは宣言的性格を有する条文で,実際には各国と協定を結ぶことが先決であることは言うまでもない。
その他 既に述べた受入れ機関のリストや各種資料それぞれの送付方法など,いくつかの具体的な点については別に政令等の形で定められることとなっている。
小林 一春(こばやしかずはる)
Ref: Federal'nyj zakon ob objazatel'nom e kzempljare dokumentov. Biblioteka 1995 (3) 49-56, 1995
Dzigo, A.A.Zakon 《ob objazatel'nom ekzempljare dokumentov》-v dejstvii. Bibliotekovedenie 1995 (2) 3-10, 1995
Lunn, Jean. Guidelines for legal deposit legislation. UNESCO. 1981, 33p.