カレントアウェアネス
No.216 1997.08.20
CA1140
ALA倫理綱領の改定
話題としてはやや古いのだが,アメリカ図書館協会(ALA)の重要な文書ではあるので,簡単に紹介しておきたい。
ALAの倫理綱領が改定され,1995年6月の評議会において採択された。
ALAの倫理綱領は1938年に制定されて以来,これまで1975年と1981年に改定されてきた。1981年の綱領は「職業倫理に関する声明(Statement on Professional Ethics)」の中に「図書館員の倫理綱領(Librarians' Code of Ethics)」として6カ条にまとめられていた。
倫理綱領はこれまで幾度となく厳しい批判を受けてきた。1981年の綱領も例外ではなく,本誌でも紹介した(CA761参照)フィンクの批判の他にも,School Library Journal誌の論説欄などは,1990年に1年間に渡って批判的な記事を連載した。恐らくはこういった批判に応える形で,ALAの職業倫理に関する委員会は1991年から改訂作業を進めていた。
新しい綱領は前文と8カ条からなる本文で構成され,1981年綱領と比べて以下のような特徴を持っている。1)対象が図書館で働く非専門職の人々,図書館理事会のメンバー,図書館以外の情報サービスに従事する人にまで拡張された。2)その結果,表題から「図書館員の(librarians')」とか「[専門]職業の(professional)」といった語が消えて,ただの「ALA倫理綱領」となった。委員会案では「ALA職業倫理綱領」とあったのを,最後の評議会で「職業(professional)」という語が削除されたものである。さらに,3)本文の主語も,これまでの‘librarians’から‘we’に変わった。このように,図書館専門職のための綱領であることを止めた点が,今回の改定の最大の特色である。
その他にも,次のような特徴がある。まず前文では倫理綱領の意義と性格を示し,綱領は意思決定の際の一般的な指針を与えるだけで,具体的な状況での行動の仕方を規定するものではないことを述べている。本文では,「コレクション」「資料」が「資源resouces」に変わり,「貸出」「図書館奉仕」が「アクセス」に変わるなど,時代に合わせて用語に若干の変更はみられるが,第1条から第3条までは1981年綱領と基本的に同一である。第4条は知的財産権の尊重で,新設された。第5条,第6条,第7条はそれぞれ旧第4条,第6条,第5条に対応しているが,内容はかなり修正されている。第8条は新設で,自己および相互の研鑽による向上を求めている。
採択されてからまだ間もないせいか,新綱領について書いているものは少ない。しかし,筆者が見た2論文では,評価は厳しいものであった。ジプコウィッツは新綱領が「がっかりさせる(disapointing)」ものであると述べ,ALAが図書館関係者の団体で,専門職団体でないからこのような実効性の薄い綱領になるのではないかと推測している。また,マーコは,1981年綱領に対応する部分は,1981年綱領に対する批判がそのままあてはまるし,新設された第4条と第8条は倫理ではないと述べている。
わが国でもこれから翻訳や検討が行われるだろうから,新綱領の性格などについてはそうした検討の結果を待ちたい。しかし,こうした批判以外にあまり活発な議論が見られないのは,気になる点である。
田村 俊作(たむらしゅんさく)
Ref: Zipkowitz, F. Professional Ethics in Librarianship. McFarland, 1996. 16lp
Marco, G. A. Ethics for librarians. J Librariansh Inf Sci 28 (1) 33-38, 1996
Am Libr 26 (7) 676, 1995
Interface 17 (4) 4, 6, 1995