CA761 – 図書館員は新たな倫理綱領を必要としている / 山崎治

カレントアウェアネス
No.145 1991.09.20


CA761

図書館員は新たな倫理綱領を必要としている

リー・W・フィンクス(Lee W. Finks)は,現在の図書館員の倫理綱領には何かが欠けていると考えている。フィンクスは,倫理綱領とは,単に正直かつ公平であれと記せば済むものではなく,職業集団としての理想と責任を体現し,実務者の道しるべとなるべきものであると考え,その点で,現在のアメリカ図書館協会(ALA)の倫理綱領は,的はずれなものとなっていると主張している。

ALAは過去に3回(1938年,1975年,1981年)倫理綱領を採択しているが,それらは,これまで厳しい批判を受けてきた。1938年綱領について,ローステイン(Samuel Rothstein)は,間が抜け,陳腐で,修辞上の体裁を整えたものにすぎないと非難し,デ・ウイーゼ(L.C. De Weese)は,倫理綱領と言うよりは,平凡な管理方針であると批判した。また,1961年には,社会学者のグード(William Goode)が,道徳的切迫感の欠如を改めて指摘した。

このような否定的な評価は,1981年綱領に対しても下されている。1983年に,ラニアー(Don Lanier)とボイス(Dan Boice)は,1975年と1981年の改訂を経た後でさえ,ALAの倫理綱領は,他の職業の倫理綱領に比べて優れた点が見出せないと述べた。さらに,ハウプトマン(Robert Hauptman)は1988年の著書の中で,1981年綱領を有用でも実施可能でもないものと捉え,「情報サービスが急速に発展し,新たに多くの倫理的問題が発生している今日においては,明確に定義された綱領が必要となっている」と述べた。

ベッカー(Johan Bekker)は,1975年綱領を現存する最悪の職業倫理綱領であると厳しく批判し,1976年に,他の職業の倫理綱領を参考にして,独自のガイドラインを提案した。フィンクスは,ベッカーの業績を,図書館員の倫理に関する慎重で学問的で信頼性のある説明として,他の追随を許さないほど優れたものであると評価している。ベッカーは,図書館員の役割は人類のために記録された情報の価値を極大化することにあると考えた。彼の「図書館員のための職業行動ガイドライン」においては,1)図書館員は,図書館利用者のために最善の職業的判断を下さなければならない,2)図書館員は,図書館及び図書館システムの改善に対し,自身の能力の限り協力しなければならない,3)図書館員は,無能と思われることを避けなければならない,4)図書館員は,常に模範的かつ自身の職業の名誉となるように行動しなければならない,5)図書館員は,自身の職業上の義務と衝突する危険を最小化するため,自身の勤務時間外の行動を規制しなければならない,6)図書館員は,自身の職業における違法行為を防止することに協力しなければならない,7)図書館員は,学問が存在し得る条件−調査,思想,表現の自由−を作り出し,維持していくことに協力しなければならない,という以上7項目の下に,より具体的な行動指針が示されている。

例えば,最初の項目については,i)要求に応じるだけでなく,要求を予測しようと試みなければならない,ii)要求されるものだけでなく,必要とされるものを提供しなければならない,iii)関係当局に開示することが明らかに公共の利益となる場合を除き,内々のコミュニケーションを通して得られた情報を他に漏らしてはならない,という指針が記されている。

フィンクスは,ほとんどの図書館員が倫理綱領の内容をきちんと認識しておらず,業務上の倫理的指針として利用してもいない現状を変えなければならないと考えており,ALAの職業倫理に関する委員会は,ベッカーのガイドラインを基礎にして,新しい倫理綱領を作成すべきだと主張している。誇りに思え,実務の参考となり,社会一般に公表のできる倫理綱領が求められているのである。

山崎 治(やまざきおさむ)

Ref: Finks, Lee W. Librarianship needs a new code of professional ethics. American Libraries 22 (1) 84-92, 1991
図書館員の問題調査研究委員会編 「図書館員の倫理綱領」解説 日本図書館協会 1981