カレントアウェアネス
No.146 1991.10.20
CA768
CD-ROMとオンライン−どちらが低コスト?−
CD-ROMとオンラインのコストを扱った文献は多い。が,経営上どちらが低コストかの判断基準をわかり易く示してくれるものはないようである。以下に紹介するのは,全費用を固定費と変動費に二分し,簡単化したモデルケースを考えることによって,この点を明確にしようとしている研究の例である。
ここで固定費とは,検索時間等に左右されない費用のことで,コンピュータ,プリンタ,モデム等の機器代,CD-ROMデータベースの購入代金,オンラインのパスワード割当て料,マニュアル代,研修費,机等の備品代,機器のメンテナンス代等が含まれる。一方変動費とは,検索時間や出力量に伴って変化する費用のことで,接続料,通信料,表示料,オフライン・プリント料金,インク代・紙代等の消耗品費,電気代を含むのはもちろん,重要な要素として,検索業務(利用者援助も含む)に対する労働コストが考慮されている。そして変動費については,比較が容易なように,機器操作1時間当りの費用に換算する。
以下に4つのモデルケースを考えるが,使用するデータベースはERICとし,複数のデータベースを使用する場合でも,それぞれの費用はERICと同程度と仮定する。
- 1台のワークステーションまたは端末でERICを使用する場合。CD-ROM,オンライン各々の費用構成の試算は次のとおり。
固定費 | 変動費(1時間当り) | |
CD-ROM | $6692 | $6.62 |
オンライン | $3570 | $148.23 |
- 1台のワークステーションまたは端末で複数のデータベースを使用する場合。ここでは追加分について考える。
固定費 | 変動費(1時間当り) | |
CD-ROM | $847 | − |
オンライン | − | $148.23 |
- 初めにオンラインを導入し,後でCD-ROMへの切換えを考える場合。
固定費 | 変動費(1時間当り) | |
CD-ROM | $4742 | $6.62 |
オンライン | − | $148.23 |
- 4. 2台のワークステーションまたは端末で複数のデータベースを使用する場合。どのデータベースの使用時間も22時間以下なら2台ともオンライン,1つ22時間以上のものがあれば,1台はCD-ROM用ということがまず言える。後者の場合,さらに6時間以上の使用が見込めるデータベースがあれば,これはCD-ROMがいいということもわかる。
実際には,データベースの費用は,CD-ROM,オンライン共にかなりの幅があり,ケースバイケースの計算が必要になる。一般的に言うならば,利用者のニーズが専門化していて,特定のデータベースを集中的に使うような場合はCD-ROMが有利で,逆に利用者のニーズが幅広く,多くのデータベースを短時間ずつ使用するような場合はオンラインが適当ということになろう。
CD-ROMの費用は事実上固定費だけと言える位なので,導入する図書館としては,できるだけ多く利用されるように配慮したいところである。一方オンラインは変動費がとても高いので,むしろ利用を制限する必要も考えられる。それには,使用料を取るか,または直接使用させずに代行検索をすることが考えられよう。検索技術の向上を計ることも有効である。いずれにせよ,オンラインの変動費は予測がつきにくい上に,上がる傾向にあるらしい。一方でCD-ROMの固定費は下がる傾向にあるようなので,将来的にはCD-ROMの方がより多く図書館で使われることになりそうである。
単純化したモデルを用いているが,この研究の結論は常識的で分かりやすい。ただ,さらにいろいろなケースについて具体的に計算してみると,面白いかも知れない。どちらが低コストかの分れ目となる使用時間が,本研究で出てきたものとかけ離れている,などということもあるかも知れないし……。
小林一春(こばやしかずはる)
Ref: Erkkila, John E. CD-ROM vs. online : implications for management from the cost side. Can. Libr. J 47 (6) 421-428, 1990