CA767 – 電子出版に進出したマイクロソフト社 / 森田倫子

カレントアウェアネス
No.146 1991.10.20


CA767

電子出版に進出したマイクロソフト社

パソコン用ソフトウェアの市場で抜きん出た実力を持つマイクロソフト社は,CD-ROMの出版に積極的に乗り出した。同社は電子出版物の製作に用いられるテクニカルツールの開発会社であると同時に,電子出版物の出版社となったわけである。この立場を利用して電子出版業界の独占をはかるのではと,同社の動向に業界も米国商務省も神経をとがらせている。

同社は1987年からCD-ROMを出版していたが,今年3月には,レファレンスブックの出版で知られる英国のDorling Kindersley社の株を26%取得した。協同してレファレンスブック等をCD化するためである。これは電子出版権の市場を高騰させた。加えて,既にDorling Kindersley社のメディカルガイドの米国での版権を得ていたランダムハウス社との間で,それの電子出版権をどちらが有するかで論争となった。

CD-ROMをパソコンで使えるようにするマイクロソフト社のソフトは広く受け入れられている。また同社はmultimedia computingのための工業規格を確立しようとしている。これが認められると,同社はさらに有利となろう。

しかしこの業界に競争がないわけではない。ソニーは今年4月に電子出版のための会社を設立し,低価格で簡便なCD-ROMプレイヤーの開発とそれで使用するCDの開発を効果的に行っている。タイム・ワーナー社は最近,音・静止画・文字の入った湾岸戦争のCDを発表した。同社は,エンタテイメント業界はこうしたマルチメディア型CDの製作に向いているのだと,自信を表明している。

CD-ROMの出版には,出版社・新聞社,電子機器メーカー,エンタテイメント産業,さらに強力なソフトウェアハウスまで参入して混戦模様である。しかしフェアな競争が行われれば,それぞれの本来の業種の特徴を生かしたすぐれたCDが製作されていくだろう。ユーザーとして興味が持たれるところである。

森田倫子(もりたのりこ)

Ref : New York Times 1991. 7. 2