CA1114 – ロシア連邦の図書館法 / 酒井剛

カレントアウェアネス
No.211 1997.03.20


CA1114

ロシア連邦の図書館法

本誌にロシア連邦の納本法が紹介された(CA1095参照)のに続いて,今回はロシア連邦の図書館法(原文に忠実な訳は「図書館事業に関する連邦法」である。以下「法」と略す)の概要を報告する。法は1994年11月に議会で採択,12月に大統領の署名を経て発効した。

条文は全8章,28条から成り,次のように構成されている。

第1章(総則=第1条〜第4条):用語定義,法の適用範囲,図書館の種類など
第2章(国民の権利=第5条〜第10条):図書館サービス・図書館活動に対する権利,利用者の権利・責任,図書館創立者についてなど
第3章(図書館の義務と権利=第11条〜第13条):図書館の地位・義務・権利
第4章(国家の義務=第14条,第15条):図書館事業に関する国家の政策・義務
第5章(国民文化遺産の保存と利用=第16条〜第18条):文化遺産としての蔵書・図書館,国立図書館
第6章(図書館間相互協力=第19条〜第21条):図書館サービスの調整・協力,中央図書館,他の情報機関
第7章(経営管理=第22条〜第26条):図書館の設立・再編・閉鎖,図書館の資産,図書館発展のための基金,図書館職員の労働
第8章(終章=第27条,第28条):法の発効など

ソビエト連邦時代の法からの変化を一言で述べると,図書館事業における一党独裁を撤廃し,かつて中央に集中していた権利を国民,地方,各図書館等に分散する内容になった。

以下に特徴のうち三点のみを挙げる。

一つ目は,国民の権利についてである。ソ連時代の法では,国民は,マルクス・レーニン主義やソ連共産党の宣伝に対する教化の対象であった。それに対してロシア連邦の法は,無条件で,個人が図書館のあらゆる情報を自由に選択し利用することを保障している。さらに,図書館サービスにおいて,国民の権利は国家や他の機関の権利に対して優先される(第5条第3項)。国民は,利用者団体の活動への参加(第6条第2項)を通じて,民主主義的に図書館事業や運営に関与できる。また同様に,図書館職員も,図書館サービスの発展や図書館職員の権利保護等のために,団体や組合を設立すること(第6条第3項)を通じて関与できる。

二つ目は,図書館の統合化についてである。これまであらゆる図書館の活動は,地域ごとに,同じ収集・整理等の方針に統合されネットワークを編成していた。しかし,今後は各図書館が統合化の方針に従うか否かを自主的に決定できる(第1条)ようになった。

三つ目は,国家の役割についてである。国家は,図書館の蔵書編成・図書館サービス等のための条件を整備するが,図書館の専門的活動には干渉しない(第14条)ことが規定されている。

法は全体として宣言的な性格が強く,たとえば蔵書や図書館ネットワークの最低基準等の具体的な規範が欠如している。今後早急に,法の下に直接の規範となる法令を策定し,さらに,法の内容を実際に行う仕組みを作っていかなければならない。地方では,立法に際して,法に反しない範囲内で,できるだけ各々の区域の事情に沿うように考慮することが必要となる。

酒井 剛(さかいたけし)

Ref:Federal'nyi zakon o bibliotechnom dele. Biblioteka, 1995 (3) 41-48, 1995
Fenelonov, E. A. Ne upustit' vozmozhnosti. Biblioteka, 1995 (6) 2-6, 1995
Shabdurasulov, I. V. Zhuravl' v nebe ili sinitsa v ruke? Biblioteka, 1995 (9) 2-5, 1995
Grikhanov, IU. Zashchitit' prava lichnosti. Biblioteka, 1995 (9) 6-8, 1995
Bubekina, N. et al. Oboznachit' pravovoe pole. Biblioteka, 1995 (11) 2-5, 1995
小野沢永秀,ソ連における図書館法の系譜とその社会的背景:図書館の統一システム組織化の指向と民衆との関係を中心として,図書館学会年報35 (4) 176-183, 1989