カレントアウェアネス
No.212 1997.04.20
CA1123
イリノイ州の共同蔵書構築
出版物が急増・多様化している現在,複数の図書館が協力して,資源の共有を図ることが必要とされている。その有効な手段の一つとして,共同蔵書構築がある。自分のところで,あれもこれもと買い揃えるのではなく,足りない資料を余所のところで分担してもらうという,この効率的な方法は,非常に魅力的だ。ところが,この共同蔵書構築の計画は,多くの図書館があこがれるわりに,成功例が少ない。本稿では,その数少ない成功例の一つ,イリノイ州の共同蔵書構築について,紹介したい。
現在,イリノイ州には,Illinetという,公共・学術・学校・専門図書館からなるネットワークがあり,2,700以上の参加館と15の地域システムで構成されている。このネットワークを通じて,遠隔地の利用者も自由に書誌情報を得ることができ,実際の資料もすぐに借りることができる。すなわち,イリノイ州は,堅固な情報及び物理的流通基盤を有し,図書館間で緊密な相互協力を行っているのである。では,どのようにして,これらが可能になったのか,イリノイ州における図書館協力の歴史を概観してみよう。
1960年代,イリノイ州の地域図書館システムが構築された時,イリノイ州立図書館は初期の共同蔵書構築計画の第一歩を,指定地域の参加館の協力を得て踏み出した。1977年には,州全体の共同蔵書構築に対する基本見解が打ち出された。そこでは,図書館の相互協力によって,利用者に有効に資料を提供することが提唱されていた。それから数年を経た80年代,この見解をもとに,イリノイ州は独自の資源共有ネットワークを構築した。このネットワークは,現在の共同蔵書構築の重要な基盤となっている。そしてネットワークが軌道に乗った後は,情報ネットワークの構築から共同蔵書構築へと課題が変化・発展していった。
その中で最初に生じたのが,「どこの図書館が何を所有しているか」「自分たちの図書館の長所短所は何なのか」という蔵書評価の問題だった。これは最初イリノイバレー図書館システムという地域システムで検討が行われ,最終的に,評価のためのマニュアルが作成された。
次に,Research Libraries Group(RLG)の蔵書概要評価方法をベースとしたIllionois Collection Analyses Matrix(ICAM)が1984年に開発され,オンライン貸出システムLibrary Computer System(LCS)に参加していた学術図書館で実施された。ICAMは蔵書の量的・質的な評価をするために利用された。その後,ICAMを地域システムレベルに適合するように修正し,Western Library Network(WLN)が開発した蔵書評価リストをベースとしてイリノイ州独自の蔵書評価方法を作り,それを基に資源共有ネットワークを構築した。
ではここで,その両者,すなわち,イリノイ州独自のネットワークと蔵書評価方法について,少し詳しく見てみよう。
まず,資源共有のためのネットワークについて述べる。このネットワークは,オンライン総合目録であるIllinet Online(IO)とLCS,および,州内の資料配達サービスであるIntersystems Library Deliverry Service(ILDS) から成り立っている。LCSは,当初,15の学術図書館のためのオンライン貸出システムとして出発したが,相互貸借協定が整備されるとともに,図書館間貸出もサポートするようになった。州全体を対象とするOPACであるIOは,OCLCのデータテープを利用して構築され,1989年に稼動して以来,今日では,州全体の800以上の図書館が参加し,850万件のレコードを保有しているほか,2,500館以上の図書館が回線接続して利用している。続いてILDSであるが,これは州全体を網羅する資料の配達サービスである。今日では,この配達サービスは週末を除き,24時間体制で運行されており,資料の申込から,短くて45分,長くて一週間以内に実際の資料を手にすることができる。
次に,蔵書評価の方法について述べる。この蔵書評価は,主題分類やその図書館の活動範囲,蔵書構成,全体的な蔵書の特徴,蔵書レベル,対象利用者,特記事項等にわたって評価を行うものであり,利用者サービスを考慮に入れつつ,蔵書レベルを簡易なコードによって表示するという点に特徴がある。この蔵書レベルの評価とは,使用言語レベルと収集レベルから構成されており,その資料の使用言語を示すアルファベットと,収集レベルを示す次のようなコードを用いて,結果が表示される――0:収集しない・1:最小限レベル・2:基礎的情報レベル・3:学習レベル・4:調査研究レベル・5:包括レベル。こうして,イリノイ州全体の各図書館の蔵書データが収集分析され,その結果に基づいて,共同蔵書構築の計画が立てられていったのである。
ところで,これらの図書館レベルの行動の一方で,もう一つ,行政レベルで重要な動きがあったことを述べておく。それは,以上のような共同蔵書構築を可能にした多額の助成金である。
70年代から80年代初期にかけて,州全体で共同蔵書構築管理委員会(Cooperative Collection Management Coordinating Committee: CCMCC)が作られ,1986年以降,このCCMCCが,これまで行われてきた共同蔵書構築計画の成果を統合,さらに州内で進行中の図書館協力計画を全般的に監督するようになった。また,その時から,高等教育協力法(Higher Education Cooperation Act: HECA)の関連で,300万ドル近い助成金が,共同蔵書構築のために支給された。この予算の多くがIBIS(Illinois Bibliographic Information Systems)と呼ばれるIOの記事索引サブシステムの構築に費やされたのである。また,マイクロ資料のコレクション構築,特定の主題のコレクション,ビデオテープのコレクション,州内でも希少で利用の不便な資料の購入等にあてられた。続いて1994年,CCMCCはさらに助成金を受け,その助成金で,次の二つの目標を実現した。一つは各館の蔵書データの分析を組織化し,共同蔵書構築をさらに展開してゆくこと。もう一つはIBISをサポートし,州内のすべての図書館がその利益を得ることを可能にすることである。こうして,イリノイ州の共同蔵書構築は,予算面から行政サイドのサポートを受け,発展を続けている。
現在,イリノイ州の図書館とその利用者は,共同蔵書構築の恩恵を様々な形で享受している。たとえば,どんな小さな公共図書館でも,州全体の膨大な蔵書データを検索し,ILDSを通じて直ちに資料を配送してもらうことができるし,イリノイ州立大学のような大きな図書館でも,紛失した資料や自館では利用不可能な資料を,このネットワークを通じて借りることができる。イリノイ州における共同蔵書構築をベースとした図書館間の相互協力体制は,まさに大小問わず,この州のすべての図書館に利益をもたらしていると言えるのである。
このように,イリノイ州の成功例を見てゆくと,何よりも重要な要因として,共同蔵書構築の費用を,州が助成金として全面的に担っているということがあげられる。必要なネットワークも複雑な蔵書評価も,その運用と蔵書評価の結果必要とされる資料の購入なしには実効性をもたない。州全体を単位として,これらの動きに実用性を与えるには,莫大な予算とその効率的な配分・運用が必要なのである。その点から言っても,このイリノイ州の成功例は,実に示唆に富んでいる。
伊藤 直美(いとうなおみ)
Ref: Chipman, Nancy Shlaes. Cooperative collection management succeeds in Illinois. Resource Sharing & Information Networks 12(1)49-53,1996
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中野捷三 RLGコンスペクタス−共同蔵書構築の思想と表現 現代の図書館27 (4) 235-239,1989
中島薫 「共同蔵書構築」のための蔵書評価 −コンスペクタスを中心に 国立国会図書館月報(409)29-31,1995