カレントアウェアネス
No.198 1996.02.20
CA1050
ノルウェーの国立図書館
オスロの北約千キロ,ほぼ北極圏に位置する人口25,000の小都市モ・イ・ラナに,ノルウェーの新しい国立図書館(国立図書館ラナ支部)が建てられたのは1989年のことである。
そもそもノルウェーではオスロ大学図書館が1811年の創立以来,国立図書館としての中心的役割を果たしてきたが,国立図書館と大学図書館という二重機能の解消については,政府委員会で長年にわたって議論がなされてきた。また,電子出版物を視野に入れた新しい法定納本法を制定する作業が1980年代末からなされ,新しい制度に対応した国立図書館のありかたが検討されることになった。
こうして,1990年前後にノルウェーの国立図書館は根本的改編期を迎えることになる。すなわち上述の国立図書館ラナ支部が設立され(この立地は当地の製鋼所閉鎖に伴う失業対策の色合が濃いという),またオスロ大学図書館も,国立図書館部門と大学図書館部門に分離されることとなった。新法定納本法は1990年7月に発効し(CA1007),オスロ−ラナの2館を軸としつつ,王立大学図書館(オスロ,ベルゲン,トロンハイム,トロムセ)及び公共図書館を結ぶネットワークで国立図書館の使命を遂行する体制で現在に至っている。
そうした中で,170名の職員(1994年時点)により運営されている国立図書館ラナ支部は,主に以下の活動を行っている。
1. 資料の受入れと再分配。ノルウェーの法定納本法は,紙及び紙類似の媒体の資料,マイクロ資料,及び写真につき,7部の納本を義務付けているが,その一式はまずラナ支部で受入れられる。資料はBIBSYSと呼ばれるノルウェー国内の国立・大学図書館間の書誌情報ネットワークに登録されたあとに,1)上記王立大学図書館に各1部ずつ計4部,2)オスロ本部での閲覧業務用に1部,3)ラナ支部での協力貸出し業務用に1部,4)ラナ支部での永久保存用に1部といった具合に再分配される。その他にラナ支部では,公共図書館等でほとんど利用されなくなった資料も受入れている。
2. 非来館型サービス。上記3)で受入れられた資料は公共図書館を通じて遠隔地の利用者の閲覧に供される。また,フィルムや写真をデジタル化することによって,それらの資料を直接利用者に提供できるように作業を進めている。
3. 資料の永久保存。上記4)で受入れられた資料は,隣接する山中に設けられた書庫で保存される。書庫内部の環境は,気温摂氏8度,相対湿度35パーセントに保たれ,千年間(!)の資料保存を念頭に置いているという。同時に保存に最適な媒体への変換作業も行われており,全ての日刊新聞のマイクロ化,及び古い写真資料の耐久的なフィルムへの変換が進められている。
4. 音響映像資料館とメディアラボ。音響映像資料館は,ラジオ・テレビで放送された全ての資料を含む,フィルム,ビデオ,音響資料を保存し,利用可能にする。メディアラボは資料館が受入れた資料を調べ,必要があればそれを修復し,あるいはより耐久性のある媒体へ移し換える。
全国書誌の作成をはじめとするいくつかの機能はオスロに留まっており,2館の分業関係には今だに未確定な部分も残されているが,それだけにこの分散型の国立図書館の今後を注意深く見守ってゆく必要があるものと思われる。
松浦 茂(まつうらしげる)
Ref: Edvardsen, Jonny. The Norwegian National Library: a new department on the polar circle. Scand Publ Libr 27 (3) 24-28, 1994
Navelsaker, Torbjorn. Selection criteria/ Scope for legal deposit of electronic documents. Legal deposit with special reference to the archiving of electronic materials. NORDINFO, 1995
Rugaas, Bendik. Developing a new national library in Norway. Alexandria 2 (1) 41-49, 1990