カレントアウェアネス
No.243 1999.11.20
CA1284
BNF・この1年−ストライキのその後−
フランス国立図書館(BNF)のトルビアック新館全面開館から,この10月で1年がたった。斬新な設計の建物と,コンピュータシステムによる全館の統御とを誇る近代的な大図書館となるはずだったが,まさにこの二者があだとなり,開館直後から問題が続発して職員のストライキを引き起こすに至った(CA1225,CA1233参照)。館内ではさまざまな面での改善が行われてはいるものの,会計検査院による問題点の指摘,システム納入業者との確執など新たな困難も続いている。ここでは,入手し得た資料をもとに,この1年の主な動きをまとめてみたい。
システムの不安定さは年が明けても続き,頻繁に問題を起こして職員にも利用者にも多大なストレスを与えていた。そんな中,1月24日に起きた傷害事件が,はからずも事態の異常さを示すことになってしまった。待ち時間の長さに怒った利用者十数人が通路に殺到,女性警備員を転倒させたというものである。職員によると,利用者からの言葉や身体による暴力,利用者同士の口論などは恒常的に起こっており,このような職場環境の悪化を招いた指導部の対応に抗議して,2月12日に再びストライキが行われた。
3月1日には,図書館検査官(BNFの監督省庁でもある文化通信省に属する)ポワロ(Albert Poirot)氏による報告書が出された。これは,館側のワーキンググループとともに洗い出した館の問題点・改善すべき点を項目ごとにまとめた大部のもので(BNF職員組合のサイトに全文が載っている),施設の欠陥のようなハード面から組織や職員研修についてのようなソフト面まで,内容は細かく多岐にわたる。Livres Hebdo誌に載った抜粋を見ると,比較的大きな規模での憂慮すべき点として,収集予算の減額(前年度比27%減),新規受入資料の目録作成の遅れなどがあげられている。いずれにせよBNF側にとっては痛いところをつかれるものであったはずだが,これを受けた文化通信相は3月16日にアングレミー(Jean-Pierre Angremy)館長宛に公開書簡を送り,特に重点を置くべきいくつかの項目を指示し,早急に対応計画を作成するよう要求している。
3月末には,情報システムの「改良」版が始動したが,システムの全体的な改善には程遠いものだった。掛け合わせ検索が可能になったものの,安定性に欠ける・資料に添付してあるバーコードが誤っていると,その資料に全くアクセスできない・閲覧席の予約システムに柔軟性がない・画面が頻繁に固まってしまい,そのたびに立ち上げ,入力をし直さなければならない・利用者カードがうまく機能せず,入退室時にトラブルになる,などである。このような問題が利用者サービスにどれほどの混乱を引き起こすかは想像に難くない。
システムに関する問題はそれにとどまらず,納入業者Cap Gemini社との関係にも及んでいる。4月の報道によれば,議会はBNFの財政問題についての調査委員会を設置した。これは,3月のポワロ報告(前述)と,業者の納品の遅れ・費用の超過を指摘する会計検査院の報告(1月20日)を受けたものである。また,職員組合の1つは4月に文書を発表し,Cap Gemini社と館側の契約に絡む問題点を糾弾している。問題とされているのは,納入が予定より22か月遅れになったのに対して業者へのペナルティーがなかったこと,実際に納入された端末の価格が他社と比べて高かったこと,情報関連予算の2億フラン以上の超過などである。
Cap Gemini社の側では,納入の遅延に関してはBNFのスタッフにも責任があるし,問題を大きくしたのは職員の研修不足などBNF側の運営体制にあるとして反論している。この時点(4月)ですでに,訴訟に持ち込まれる可能性もささやかれていたが,7月21日,BNFがCap Gemini社との契約関係を解消するとの発表を行った。現在問題になっているシステムは目録検索などに関わるもの(V1)であるが,未完成の状態である。しかもこれは全館的に見るとシステムの一部でしかなく,さらに複雑なV2,V3(納本,収集,目録,製本,保存に関わる)システムの開発が今後予定されていた。契約解消に伴う法定の猶予期間もあり,新たな業者と契約を結ぶには6〜8か月必要(7月時点)と見られ,その間のシステムの維持も課題である。
施設の不具合や欠陥に関しては,具体的な改修箇所があげられ,すでに実施されたものもある。BNFには完成までに大金がかかっているばかりか,年間の維持費だけでも何十億フランにのぼり,改善の必要性は誰もが認めるところではあっても予算をどう確保するかが懸案になっていた。詳細は不明だが,9月の報道では99年末までに一連の改善のために2,000万フランがあてられることになったとのことである。館への案内標識の充実,エントランスの扉の付け替え,書庫の扉の改造,職員の休憩所の設置,空調の改善,書庫への太陽光の導入,などが利用者及び職員のための改善事項としてあげられているが,最も費用を要するのはシステムに関するものである。
このように,BNFにとっては全面開館したものの,波乱の1年であった。このような状況は図書館関係者などにとっても世界的に強い関心をひくであろうが,フランス国内では一般の新聞などのメディアにも取り上げられている。Le Debat誌6月号では,仕事でBNFを利用する研究者たちの否定的な証言を集めて特集している。同誌編集長はLivres Hebdo誌上で「BNFは国家の恥」「国内外の研究者に取り返しのつかない損害を与えた」と述べ,2号あとにBNF館長が反論を載せているほどである。メディアにのることで多くの情報が得られるのは歓迎すべきことだが,さまざまな糾弾や揶揄や懐疑が飛びかう一方で,日々現場で問題に直面している職員がいる。「全く新しい大図書館」(ミッテラン元大統領)という器の中に組み込まれながら,その器の不具合と,目の前の利用者に対するサービスなどの本質的には変わらない図書館の役割との間で業務を遂行する彼らの姿は,我々にも無関係ではないだろう。
永野 祐子(ながのゆうこ)
Bibliotheque nationale de France.
Ministere de la Culture et de la Communication.
Le Figaro 1999. 4. 27
Le Parisien 1999. 7. 26; 1999. 9. 9
Livres Hebdo (325) 1999. 2. 19; (331) 1999. 4. 2; (339) 1999. 5. 28; (341) 1999. 6. 11
Trajectoire 1999. 5