CA1491 – 英国CILIPの活動-LAとIISの統合- / 須賀千絵

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カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1491

 

英国CILIPの活動 ―LAとIISの統合―

 

 2002年4月に,英国図書館協会(Library Association:LA)が英国情報専門家協会(Institute of Information Scientists:IIS)と統合し, 英国の図書館情報分野の専門職団体として,新たに,「図書館・情報専門家協会(Chartered Institute of Library and Information Professionals: CILIP)」が誕生してから,約一年が経過した。CILIPのウェブサイトの情報をもとに,初年度の活動を振り返る (統合の経緯についてはCA1279参照)。

 CILIPは,正会員(Member)と特別会員(Fellow)から成るチャーター会員(Chartered Member),チャーター会員以外の専門職や図書館情報学専攻の院生などが対象のアソシエイト会員, 非専門職を対象とした一般会員(Affiliate),その他の個人を対象としたサポート会員, 機関会員などから構成された団体である。チャーター会員は,チャーター会員とアソシエイト会員の投票により,一定の条件を満たし,会員候補として登録したアソシエイト会員のなかから選ばれる。現在の会員は約30,000名で,その大半は旧LAの会員である。統合時に,IISの会員数は,LAの会員数の一割程度で,しかも両者に重複する会員も多かった。

 この一年間,CILIPは,専門職を代表した立場での意見の表明や広報活動(Advocacy),専門職の養成および再教育の支援,出版などの各種関連事業を軸に,活発な活動を行ってきた。2002年には,国際図書館連盟(IFLA)の大会が英国スコットランドのグラスゴーで開催されたため,CILIPはそのホスト役も務めた。広報活動の分野では, 2002年7月に,『知識経済におけるCILIPの役割(CILIP in the Knowledge Economy)』を発表し,現在出現しつつある知識ベースの経済において, CILIPが果たすべき役割を示した。このなかで,CILIPは,基準やガイドラインの策定,研究の推進,人材育成などを通して,知識経済に関わっていくことを述べている。

 このほか,2002年10月に,『小学校の図書館のガイドライン(Primary School Library Guidelines)』,および今後の児童サービスのあり方をまとめた『スタート・ウィズ・ザ・チャイルド(Start with the ChildE019参照)』,2003年2月に,図書館における安全管理のガイドラインである『子どもにとって安全な場所であるために(A Safe Place for Children)』など,児童を対象とした図書館サービスに関連したガイドラインや将来のビジョンを相次いで発表した。これらの文書は,すべてCILIPのウェブサイト上で公開されている。

 CILIPは,図書館・情報政策に関し,政府に対して,しばしば個別に公式見解を発表している。しかし,現在,特に公共図書館政策をめぐって,CILIPは政府と鋭く対立しており,両者の関係は望ましいものであるとは言いがたい。図書館軽視の観のある包括的業績評価制度(Comprehensive Performance Assessment:CPA 各種公共サービスや財政面の評価を総合して,自治体の経営能力を評価するための枠組み)の導入や厳しい状態の続く図書館予算の問題などが,両者の対立の原因になっている。

 専門職の育成と再教育の分野では,LAの業務を引き継いで,図書館情報学分野の公認大学院の認定,各種の研修会の開催などを行っている。このほかに,児童サービスおよび学校図書館,16歳(義務教育修了年)以降の生涯学習,情報および知識マネジメント,図書館における労働問題などの分野において専門のアドバイザーを配置して,会員の個別相談などに対処している。

 また,CILIPでは,「専門職の倫理綱領 (CILIP’s Code of Professional Ethics)」 の制定や,資格のあり方の見直しにも着手している。倫理綱領の制定は,LAの綱領をもとに進められており,2003年4月には,その草案がCILIPのウェブサイトに公表された。同時に,資格のあり方を見直すためのプロジェクトも進められており,2005年3月までに,「資格の新しい枠組み(The New Framework of Qualification)」が構築される見込みである。LAとIISの統合を反映して,多様な背景を持つ人材に対応できるような枠組みをつくることをめざしている。2003年4月には,CILIPのウェブサイトに,「情報専門家(information professional)」になるには多様なルートがありうることを発表して,学部卒業後,CILIP公認の情報学分野の大学院修士課程に進むという伝統的なルートのほかに,図書館で準専門職を経験してから公認大学院に進むルート,他分野の大学院の修士・博士課程から直接専門職をめざすルートを紹介している。

 CILIPが展開している事業には,LAの出版部を引き継いだファセット出版(Facet Publishing),図書館情報学分野の求人・求職の紹介や斡旋を行うインフォマッチ(INFOmatch)などがある。後者もLAの同名の事業を引き継いだものである。また機関誌として『アップデイト(Update)』(月刊)を刊行するとともに,ウェブサイトの充実にも力を入れている。

 CILIPには,現在,27の分科会(Special Interests Group)が設置されている。IISの分科会を引き継いで,特許・商標分科会(Patent and Trade Mark Group),英国オンライン端末利用者分科会(UK Online User Group: UKOLUG)が設置されたが,残りの大半は,LAの分科会を引き継いだものである。2003年4月には,新たに,図書館情報学研究分科会(Library and Information Research Group)が設置された。この分科会は,1977年以降,主に図書館情報学の実務に結びついた研究を支援してきた同名の団体を母体としている。

 現在のところ,CILIPの活動の多くは,LAの活動を引き継いだ形で展開されており,LAの影響が色濃く残っているようである。しかしサザンプトン大学(University of Southampton)の学術支援サービス部長からCILIPの初代会長となったシーラ・コラール(Sheila Corrall)は,専門家の多様なニーズを考慮して,分科会や全国にある支部の再編を予定していることを明らかにしている。従って,今後,活動内容が少しずつ変化していく可能性も考えられる。コラールは,次年度以降の課題として,会員のための魅力的で充実したウェブサイトの構築,チャーター会員になるためのルートの多様化を反映した,資格の新しい枠組みの構築,情報の連続体(information continuum),すなわち様々な情報が互いに関連し合いながら存在する世界における専門家およびCILIPの位置づけの見直しを挙げた。LAとIISの統合は,図書館を中心に活躍する伝統的な「情報専門家」と主に電子情報を扱う新しいタイプの「情報専門家」が一体になることによって,多様な情報関連分野において,強大な発言力を得ることがねらいであった。今後の活動を通して,このねらいが実現することが期待される。

慶應義塾大学文学部非常勤:須賀 千絵(すがちえ)

 

Ref.

Chartered Institute of Library and Information Professionals (CILIP). (online), available from < http://www.cilip.org.uk/ >, (accessed 2003-04-10).

CILIP year one: Plenty of progress but more tasks ahead. (online), available from < http://www.cilip.org.uk/news/2003/010403.html >, (accessed 2003-04-10).

 


須賀千絵. 英国CILIPの活動 ―LAとIISの統合―. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.2-3.
http://current.ndl.go.jp/ca1491