CA1493 – カナダの政府情報管理政策と現状 / 野澤明日香

PDFファイルはこちら

カレントアウェアネス
No.276 2003.06.20

 

CA1493

 

カナダの政府情報管理政策と現状

 

 カナダにおける政府情報管理の指針となるものに「政府所有情報に関する管理政策(Policy on the Management of Government Information Holdings: MGIH)」がある。MGIHは政府情報を網羅的にかつ整合性を持って取扱う目的で1987年に策定された(1994年に改定)。具体的にこの政策が目指すものは,有益な政策決定を行うための資料提供の手段を確保し,情報が最大限有効に活用されるよう,管理し,また不必要な情報を排除することで国民への負担を減少させることである。この政策の対象者は各政府機関をはじめ付属する図書館である。これらの機関は各機関で計画・発行した情報について,その形態や媒体に関わらず,収集から保管に至るまでの全工程に責任を持たねばならない。

 この政策が各機関において機能しているかどうかは,国家財政委員会事務局(Treasury Board Secretariat)が各省庁の内部報告書を通して監査している。またカナダ国立公文書館(National Archives of Canada)は国家財政委員会事務局の代理としてこの政策に対する評価責任を負い,かつ公文書館で保有する資料に関する問題点等について報告することが義務づけられている。各政府機関においても情報収集に際しての固有の問題点等について報告することが認められており,カナダ国立図書館(National Library of Canada: NLC)も出版物について同様に報告することが規定されている。

 このMGIHの認知度および達成度を把握する目的で2002年,NLCによる調査が行われた。同様の調査は1999年にも行われているが,電子情報等紙媒体にとどまらない情報が近年増大し,その収集の実態を把握する必要性から,今回再調査が行われた。この調査を通して政府情報の形態,管理部門,公開方法および問題点が明らかになった。

 調査は2002年3月14日〜4月26日の間に行われ,調査票はカナダ国内の省庁や政府機関に設立されている連邦図書館の評議会(Council of Federal Libraries)の委員に配布された。回答は68機関中52機関(76%),190人中97人(51%)から得られた。そのうち68%の機関が出版物を管理する部門を持ち,さらに半数は付属する図書館がその役割を担っていると回答している。また大多数の官庁出版物はインターネットを通して,あるいは付属図書館並びにNLCへの寄託によって国民に提供されている。しかしながら,大部分の機関は,出版物の目録情報をNLCの全国総合目録データベースAMICUSに掲載するための手続きをとっておらず,また全ての出版物をNLCに寄託しているわけではないと回答している。ここで留意すべき点は,電子形態で発行された出版物について長期的なアクセスを保証し,かつ付属の図書館やNLCに寄託をしている機関は半数にとどまり,大多数の機関では長期間に及ぶアクセスを想定していない点である。電子形態の政府情報の保存と長期的なアクセスの保証という問題にはNLCが対応しているが(CA1198CA1332参照),NLCへの寄託が回答数の半数にとどまり,また各付属の図書館間に連携がない点や官庁出版物の出版方法や目録作業に一貫性がない点は,情報収集・管理の網羅性が保たれないという問題点を浮き彫りにしている。

 NLCが行ったこの調査のもう1つの目的は,MGIHを遂行していくうえで,NLCが提供できる援助,およびNLCに期待されている役割の把握が挙げられる。1999年の調査結果では,資料の取扱いや保存方法についての助言に期待が寄せられており,官庁出版物の副本利用や対付属図書館サービス,および目録情報の提供については期待されていなかった。そこで今回の調査では特に後者のサービスの利用を問う項を加えた結果,40%の回答者が目録情報の問い合わせをしたことが分かった。こうしたNLCのサービスを受けた大多数が満足,もしくは大変満足したと回答しており,NLCが果たしている役割の大きさを示している。

 NLCが政府情報の収集・管理において担う役割は,先ごろ策定された新しい政府情報に関する政策「政府情報管理政策(Management of Government Information (MGI) Policy)」の中に明示されている。MGIはMGIHと比較して政府情報の定義,目的,政策内容をより詳しく説明しているほか,NLCに期待される役割についても国立図書館法を明示し,それに基づいてより厳密に規定している。さらにNLCは国家財政委員会事務局との協力のもと,調査を行う責務があることも明記されており,NLCの果たすべき役割がより明確になっている点に今後の期待がかかる。

書誌部外国図書・特別資料課:野澤 明日香(のざわあすか)

 

Ref.

National Library of Canada. “Executive summary-Management of government Publication Survey”. (online), available from < http://www.nlc-bnc.ca/8/4/r4-401-e.html >, (accessed 2003-03-13).

Treasury Board of Canada. “Policy on the Management of Government Information”. (online), < http://www.tbs-sct.gc.ca/pubs_pol/ciopubs/tb_gih/mgih-grdg_e.asp >, (accessed 2003 -05-30).

 


野澤明日香. カナダの政府情報管理政策と現状. カレントアウェアネス. 2003, (276), p.5-6.
http://current.ndl.go.jp/ca1493