CA1332 – カナダの寄託図書館における政府情報電子化への対応 / 大杉弥生

カレントアウェアネス
No.251 2000.07.20


CA1332

カナダの寄託図書館における政府情報電子化への対応

カナダの寄託サービスプログラム(Depository Services Program: DSP)は,連邦政府刊行物を無償で寄託図書館へ納入させ,市民に提供する制度で,1927年に開始された。寄託図書館はカナダ国内に790館,国外に147館あり(2000年6月現在),すべての政府刊行物を受け入れる包括的寄託図書館(以下「包括」)と,選択的に受入れる選択的寄託図書館(以下「選択」)とがある。日本では国立国会図書館が「包括」に指定されている。現在DSPは,政府刊行物の電子化が進むにつれて,それに適応するための改革を必要としている。以下に,DSPの改革に関連する政府のさまざまな取り組みと,寄託図書館の変化の様子を紹介する。

政府の取り組み

1996年,DSP,カナダ国立図書館(National Library of Canada: NLC),関係省庁の代表者等によって電子形態の政府情報の提供に関するプロジェクトチームが設立された。このプロジェクトチームは,寄託図書館のような公共の窓口(access point)を通じて政府情報への幅広いアクセスを保障することを目的に,以下の2つの調査を実施した。

1996年に教育・文化省が実施した政府情報パイロットプロジェクト(Government Information Pilot Project)では,インターネット上の政府情報をノバスコシアの公共図書館で提供し,主に電子形態の政府情報に対する利用者のニーズと反応を調査した。その最終報告では,図書館を政府情報への窓口と位置づけ,電子形態の政府情報の提供方式の標準化,情報技術の導入,利用者教育および図書館員の研修の必要性についての提言がなされた。

2つめの調査は,カナダ統計局とDSPの主催,NLCと寄託図書館の協賛による電子出版パイロット(Electronic Publications Pilot: EPP)実験である。この実験では,1996年9月から1997年9月まで寄託図書館のいくつかの紙媒体の資料について,電子媒体のものにかえ,インターネットを通じて提供してその影響を調べた。この実験からは,電子化に適した刊行物のパターンは判明しなかったが,利用の少ない刊行物を電子化することが最も賢明であるという結論が得られた。1998年6月,カナダ統計局は,紙媒体の資料は図書館間貸出によりNLCとカナダ統計局図書館から入手可能であるとして,利用の少ない資料は電子形態のみの提供に転換するべきであるとの声明を出している。

この他に,電子情報への公共の窓口という公共図書館の新しい役割を促進し,図書館と情報ハイウェイあるいは図書館相互の接続を援助するため,LibraryNet(図書館,自治体,連邦政府,関連企業等の共同出資事業)がカナダ産業省によって1996年に設立され,活動を展開している。

電子形態の政府情報の保存と長期的なアクセスの保証という問題は,NLCが対応している(CA1198参照)。NLCの電子コレクションは現在1,000タイトルを超え,その一部は連邦政府の逐次刊行物とモノグラフである。NLCはその電子コレクションのすべてのタイトルについて目録をとり,さらに,電子的な政府刊行物の保存について,各省庁や国立公文書館と協力体制を築いている。

寄託図書館の対応能力

1998年6月,DSP図書館諮問委員会はDSPの見直しを行い,寄託図書館のモデルの1つとして,電子資料を含めた「包括」寄託図書館であり,かつ地域内の図書館に対して永久的な保存庫と基本的な情報源としての役割を持つ情報資源図書館(Resource Library)という新しい概念を提示した。この新しい役割に対応するための寄託図書館の能力について,2つの調査がDSPの援助によって行われた。

1つは1996年秋にドラン(Elisabeth Dolan)らによって行われた,寄託図書館の電子情報に対する技術的能力とそれに関するサービスについての調査である。この調査によれば,政府刊行物は寄託図書館にとって重要なコレクションであると考えられている。特に大学図書館でその傾向は強い。利用環境については,寄託図書館の大多数がインターネットに接続している。しかし,利用者用端末の設置は利用者1,000人に対し,大学図書館では2台,公共図書館では0.15台しかなく,機器の性能も十分なものではなかった。インターネットへのアクセスは89%の寄託図書館が無料で提供しているが,プリントアウトには65%の図書館が課金している。

また,電子媒体は紙媒体に比べるとあまり利用されていないことがわかった。その理由として,機器の不足,図書館員が利用者を援助する余裕のないこと,利用者の知識不足,図書館による利用促進活動の欠如,利用可能な資料が限られていること,が挙げられた。政府情報の電子化による利用の増減の予測については,回答はほぼ半々に分かれた。
もう1つの調査は,1997年12月から1998年2月にかけて行われたディレヴコ(Juris Dilevko)らの調査である。これは,寄託図書館104館で政府情報に関するレファレンスを依頼し,回答の正確さや,図書館員がどの程度電子情報を利用しているかということを調査したもので(サンプル数488),ドランらの調査結果を裏づける結果となった。

レファレンス質問に対する完璧な正答率は29.3%,部分的に正しい回答を含めても42.2%で,一般にいわれているレファレンスの正答率に比べ低い数値である。無回答や不正解の割合は約38%,レフェラルサービスのみ行った割合が約20%であった。寄託図書館の種類によって正答率に明確な違いがあり,「包括」大学図書館は正答率が高く,「包括」公共図書館が続く。「選択」は大学・公共ともに正答率は低かった。

また,回答に使われた情報源の多数が紙媒体の資料であり,Web上の情報源の利用は少なかった。Web上の情報を使う場合でも,議会かDSPのサイトで利用可能な情報に頼る場合が多く,インターネット上で行政が提供している広範な情報についての図書館員の知識が限られていることがわかる。質問内容でも,政府の行政部門に関する質問よりも立法部門に関する質問のほうが正答率が明らかに高い。また,事実調査よりも文献検索のほうが正答率が高い。

これからの寄託図書館の役割

政府情報の電子化に伴い,政府情報へのアクセスを保障する責任は,寄託図書館から政府へと移行しつつある。また,政府情報がインターネット上で提供されることにより,情報へのアクセスという意味では,コンピュータを所有し,インターネットにアクセスできる個人と寄託図書館との格差はなくなるであろう。とはいえ,アクセスできる人のすべてが専門的な政府情報の検索に熟練しているわけではない。そこに寄託図書館が政府情報と国民との仲介者として果たすべき役割があるのだが,現状の寄託図書館はその役割を十分に果たしているとはいえない。DSPは今後,電子的な政府情報の提供に関するプログラムのみならず,レファレンスサービスの充実に向けた図書館員の研修プログラムを実施していく必要があるだろう。

大杉 弥生(おおすぎやよい)

Ref: Brodie, Nancy. Renewing the Depository Services Program. Nat Libr News 30 (9) 9-11, 1998
Brodie, Nancy. Electoric dissemination of government information. Nat Libr News 30 (10) 4-7, 1998
Monty, Vivienne. Proposal for a Revised Model Depository System. 1998. 22p
Dolan, Elizabeth and Vaughan, Liwen. Electronic Access to Canadian Federal Government Information: How prepared are the Depository Libraries?[http://dsp-psd.pwgsc.gc.ca/Rapports/DV/main.html](last access 2000.6.1)
Dilevko, Juris and Dolan, Elizabeth. Government Documents Reference Service in Canada: Implications for Electronic Access. [http://dsp-psd.pwgsc.gc.ca/Rapports/Dilevko_Dolan/dilevko-e.html](last access 2000.6.1)