CA1149 – GPOの電子情報と寄託図書館 / 後藤悦子

カレントアウェアネス
No.218 1997.10.20


CA1149

GPOの電子情報と寄託図書館

米国には「連邦政府資料寄託図書館(Federal Depository Library)」とよばれる制度があり,全米で約1,400の公立,大学,州立,専門図書館が寄託図書館に指定され,政府印刷局(Government Printing Office:GPO)から政府刊行物を無償で送付されている。これは,全米の市民が政府情報へ無料でアクセスできることを目的としている。寄託図書館のうち53館が地域寄託図書館(Regional Depository Library)に指定され,GPOが寄託用として定めた資料を包括的に収集している。これ以外は寄託用資料の一部を選択して収集している。このため,地域寄託図書館は,各地域の寄託図書館に対し貸出,レファレンスなどのサービスを行っている。

政府情報は毎日膨大に発生するために,1950年代から印刷媒体に替えてマイクロ資料が採用されていたが,「政府印刷局における電子情報アクセス促進法(Government Printing Office Electronic Information Access Enhancement Act of 1993)」(P.L. 103-40)が成立したことにより,一部が電子化されオンラインで提供されるようになった。

GPOのWWWサーバーが1994年6月から提供しているオンライン情報は「GPO Access[http://www.access.gpo.gov/su_docs/]」とよばれる。当初は有料でユーザーも限定されていたが,1995年12月からあらゆるインターネットユーザーに無料で開放されるようになった。GPO Accessでは大統領の行政命令,行政各機関により制定された命令・規則とその案,各種のお知らせ等が載っている官報(Federal Register)や現行総合法令集(U.S.Code),現行行政立法集(Code of Federal Regulations)等の法令資料,上下両議院の議事速記録(Congressional Record),法律案(Congressional Bills),委員会提出資料(Congressional Documents),年次報告書(Congressional Reports)等の議会資料のほか,GPOの主要刊行物などが提供されている。さらに,「政府情報所在案内サービス(Government Information Locator Service)」も提供されている。ユーザーがGPO Accessに入って「Search the Government Information Locator Service(GILS)」サイトを選択し,そこで検索したい政府機関などを選んでキーワードによる検索を行うと,検索結果として欲しい情報の所在,その入手方法に関する情報を得ることができるようになっている。なお,GPO Accessで現在提供されている電子情報は1994年1月以降のものであるが,それ以前のものについても電子化してゆくことが検討されている。

さて,GPOは,寄託図書館制度の中でのGPO Accessへの対応も進めている。GPO Accessの画面に入って「Federal Depository Library Gateways」サイトを選択すると,例えば「New York State Library GPO Access on the Web」などGatewayサービスを行っている寄託図書館のホームページのサイトのリストが表示される。各館はそれぞれGPO Accessへのアクセスをサポートしたり,より使いやすい検索画面を提供するように工夫を凝らしている。1997年8月現在,およそ20館がすでにGatewayサービスを行っているので,この中からユーザーはそれぞれ自分の使いやすいサイトを選ぶことができる。

このように,いつでもどこからでも無料で政府電子情報にアクセスできるようになったが,これを利用するにはコンピュータや閲覧用ソフトなどが必要になる。寄託図書館における政府電子情報へのアクセス環境はどのくらい整備されているのであろうか。地域寄託図書館を対象に1995年3月に行われたアンケート調査の結果がGovernment Information Quarterly誌に掲載されたので,その内容を簡単に紹介する。

アンケートに応じたのは53の地域寄託図書館のうち41館である。41館の電子情報の所蔵・利用状況をみると,フロッピーディスク88%,CD-ROM100%,ビデオディスク7%,インターネット73%となっており,全41館(100%)とも来館者が電子情報を利用できるなんらかの設備があると回答している。来館者がインターネットを利用できる30館(73%)のうち26館は,寄託情報専用の設備があるという。GPO Accessについては31館(78%)が来館利用に供していると答え,このうち10館がGatewayサービスを行っている。このアンケートの結果をみるかぎり,米国の寄託図書館における電子情報へのアクセス環境は着実に整備が進められているといえる。

電子化によってより多くの政府情報を迅速に市民に無料で提供できるようにしようという動きは,市民の「知る権利」の保障を求める声に応えるためにも今後ますます拡大するであろう。その一方で,GPOは電子化に伴って今後は原則として印刷媒体やマイクロ資料の配布を行わない方針を打ち出している。例えば連邦政府出版物の総合目録である『マンスリーカタログ(MOCAT)』はGPO Accessですでに提供されており,CD-ROM版も昨年から刊行されるようになったことから,マイクロフィッシュ版が1995年12月に廃止された。冊子体については索引がタイトル・キーワードだけとなり,書誌事項も大幅に簡略化されてしまった。今後は,例えば著者はわかるけれども正確なタイトルがわからない場合,あるいは詳細な書誌事項を確認したい場合には,電子媒体のMOCATを利用せざるをえなくなったわけである。GPOの政府情報の電子化に対し,寄託図書館は今,新たな対応が求められているのである。

後藤 悦子(ごとうえつこ)

Ref: Ford, S. Public access to electronic federal depository information in regional depository libraries. Gov Inf Q 14 (1) 51-63, 1997
Brace, W. The changing world of government documents. Cathol Libr World 67 (2) 21-28, 1996