CA1999 – 利用者カードをめぐる最近の動向 – 公共図書館を中心とした – / 和知 剛

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カレントアウェアネス
No.348 2021年06月20日

 

CA1999

 

利用者カードをめぐる最近の動向 – 公共図書館を中心とした –

郡山女子大学短期大学部:和知   剛(わちつよし)

 

はじめに

 図書館、特に公共図書館における「蔵書の館外貸出」(以下「貸出サービス」)は、『中小都市における公共図書館の運営』(『中小レポート』、1963年)を転回点とする図書館サービス観の転換により、ユニバーサルサービス(電気、ガス、水道、郵便、福祉などの、誰もが等しく受益できる公共サービス)のひとつとしての、公共図書館の根幹をなす「資料の提供」を達成するための基幹業務として捉えることができる。表現を変えれば、どこの公共図書館に出向いても同じ図書館サービスが受けられる、その図書館サービスの基本と位置づけられているのが「貸出サービス」であると言っていいだろう。

 貸出サービスのためのガジェット(小道具)として利用されているのが、いわゆる「利用者カード」「貸出カード」「ライブラリーカード」などと呼ばれるカードである(本稿では個別の名称を紹介する場合以外は「利用者カード」に統一する)(1)。利用者カードは利用者のプライバシーを保護する観点から、機械化(電算化)以前はニューアーク式カード(2)からブラウン式/逆ブラウン式カード(3)への転換が図られ、機械化以降はプラスチックのカードにバーコードを印刷したものから始まり、磁気カードを経て現在では借りている資料のタイトルと返却日が印字されるリライトカード(4)やICカードが導入されつつあるようだ。

 公共図書館の利用にはさまざまな態様があるが、恒常的に貸出サービスを利用する市民は、その公共図書館に利用者登録を行ったのちに貸出サービスを利用しはじめるのが一般的と考えられる。利用者登録の際に、公共図書館より市民に交付されるものが「利用者カード」であり、このカードを利用して公共図書館は貸出サービスを運用しているわけである。

 この「利用者カード」に関して昨今、さまざまな工夫が施されるようになっている。その工夫には大きく分けて

  • 1)公共図書館の利用を促すためデザインを工夫する
  • 2)公共図書館・利用者双方の「管理」を簡便化するため情報通信技術(ICT)の先端技術を応用する

という2つの流れがあるように見受けられる。

 

デザインを工夫した利用者カード

 まずは1)について。先に述べたように、公共図書館の貸出サービスは、どこの公共図書館においても同様にサービスを受けることのできる基幹業務である。どこでも同様に受けることのできるサービスを、いかに差別化(隣の自治体の公共図書館と我が自治体の図書館はちょっと違う、という意味で)するかという試みのひとつとして、利用者カードのデザインに工夫をこらす事例があると考えられる。

 これは先年、筆者が「読書通帳」について『カレントアウェアネス』に記事を書いた際(CA1841参照)の現地調査において、読書通帳の「記念品的な効果」について伺ったのと軌を一にしていると考えられる。つまり、公共図書館を利用したことに対するスーヴェニール(記念品)としての意味合いを利用者カードに持たせている、と考えてよいのではないか。どこの公共図書館でも同様に受けられるサービスを、そこの公共図書館でのみ受けることができるサービスとして印象づけ、公共図書館の利用を促すガジェットとして利用者カードを活用する、というアイデアであろう。以前より住民から公募(5)する、地元のキャラクターをあしらう(6)、さらには利用者ごとのオリジナルなデザインのカードを作成できる(7)などの利用者カードのデザインが試みられているが、最近では縁のある漫画家などを起用した、よりインパクトのあるデザインも登場している。

 小野市立図書館(兵庫県)の、公共図書館に勤める新米司書を主人公としたマンガ『夜明けの図書館』(E1252E2347参照)起用(2015年)(8)にはなるほどと思ったが、佐賀県立図書館が「こどもの読書週間」イベント(9)の開催にあわせ2019年に制作した「漫☆画太郎カード」(10)には、破天荒なギャグマンガに『マカロニほうれん荘』(1977年「週刊少年チャンピオン」連載開始)以来それなりの体験がある筆者でも驚かされた。『カレントアウェアネス-E』が「漫☆画太郎カード」を企画した図書館員の寄稿を掲載している(E2157参照)が、「公共図書館が一般に抱かれる静謐なイメージからかけ離れていればいるほど,受け手が感じるギャップも大きくなろうというもの。今回の“画太郎企画”の成功は,公共図書館がもつ属性をある意味で逆手にとった結果と言えるだろう」という企画者の意図は充分に達成されていると見る。

 

ICTを活用した利用者カード

 2)では、ICTを活用することによって公共図書館における利用者管理や、利用者による利用者カードの管理(紛失を防ぐ、など)を簡便化することが目的であると考えられる。この流れでは、「利用者カード」が別の媒体に統合されたり、異なる個人認証方式に置き換えられたりする事例が現れる。大学図書館では早くから磁気カードやICカードの技術を利用した学生証・教職員身分証明書との一体化がすすんでいるが、公共図書館においても他の媒体との一体化が行われている事例を見ることができる。

 他の媒体と統合される事例としてはFeliCa(11)の機能を用いたスマートフォン(スマホ)との一体化、やはりFeliCaに対応しているICカードとの一体化、総務省が普及を図るマイナンバーカード(マイキープラットフォーム)(12)や、指定管理者として公共図書館の運営に参画するカルチュア・コンビニエンス・クラブおよびその子会社によるTカード(13)との一体化の例が見られる。スマホとの一体化では広島県立図書館(14)や岐阜市立図書館(15)の事例がある。FeliCa対応では袖ヶ浦市立図書館(千葉県)(16)、多摩市立図書館(東京都)(17)などで実現している。マイナンバーカードとTカードにはそれぞれのカードが、利用者カードとして運用されている公共図書館が一覧化されたウェブページがある(18)(19)

 なお、他の媒体との一体化による利用者カードの運用については、FeliCa対応の利用者カードを導入している公共図書館ではウェブページに運用に関する説明を掲載している例がある(20)。また、マイナンバーカードとTカードについては主に個人情報保護の観点からさまざまな問題点が指摘されており(21)(22)、公共図書館に対する信頼感を醸成している「図書館の自由に関する宣言」(23)を尊重する公共図書館としては、利用者カードとしての導入・運用には、現状では慎重な対応が必要だろう。

 異なる個人認証方式に置き換えられる事例としては「静脈認証」(24)が挙げられる。静脈認証は生体認証(バイオメトリクス認証)のひとつで、2006年に那珂市立図書館(茨城県)(25)で手のひら静脈認証が導入されて以後、管見の限りでは導入事例を見なかったが、2021年になって恵庭市立図書館恵庭分館(北海道)(26)で導入されている。

 ICTにおける先端技術を応用することにより、ICT分野で言われる「ガジェット」としての意味合いがより深まることになるが、結果として公共図書館が発行する利用者カードが、単体としては消滅してしまうところが興味深い。

 

終わりに

 以上、これまで述べてきたように、最近の利用者カードの様相にはふたつの潮流があると考えられる。同じ利用者カードというガジェットを扱っていながら、片方は手元に残るスーヴェニール的な扱いを、他方は手元から現物が姿を消すという、相反する様相を示しているところが面白い。今後、電子書籍が公共図書館に浸透してもすべての紙製の書籍が電子書籍に置き換わることはないだろうし、電子書籍の導入後もなお「貸出」が公共図書館の業務として必要である限り、利用者登録は必須であり続けるだろうから、利用者カードも利用者管理(貸出を通じた蔵書管理も含めて)のガジェットとして生き延びるのは間違いないと思われる。これからスーヴェニール的な意味合いが強まるか、(ICT分野における)ガジェットとして他のガジェットに組み込まれていくのか、興趣が尽きないところである。

 

(1) Jcrossに利用者カードのコレクションがある。
“図書館の利用者カード – コレクション”. Jcross.
https://www.jcross.com/collection/cat-4/, (参照 2021-04-03).

(2) 「20世紀初頭,米国のニューアーク公共図書館長デイナが考案したとされている,ブックカードを用いた貸出方式.ブックカードに記録が残る問題から,次第に他の方式に代替されていった.」(“ニューアーク式貸出法”. 図書館情報学用語辞典. 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会, 第5版, 丸善, 2020, p. 193.)とされるが、現在でも使用している学校図書館があると仄聞する。

(3) 「1895年にブラウン(N. E. Browne 1860- ?)が考案した公共図書館向きの貸出方式.日本では1960年代以降多くの公共図書館で採用された.この方式は利用者の記入が不要で,返却後は貸出記録が残らないのが利点である.」(“ブラウン式貸出法”. 図書館情報学用語辞典. 日本図書館情報学会用語辞典編集委員会, 第5版, 丸善, 2020, p. 219.).

(4) “リライトカード”. 日本ブッカー.
https://www.booker.co.jp/products/detail.php?product_id=20227, (参照 2021-04-03).
“富山市立図書館 図書利用カード – 図書館の利用者カード”. Jcross.
https://www.jcross.com/collection/cat-4/d5h1g1c2i2-01.html, (参照 2021-04-03).

(5) “図書館の利用者カードのデザインが新しくなります”. 小田原市. 2020-10-28.
https://www.city.odawara.kanagawa.jp/public-i/facilities/library/liblaryinfo/childweek-h27-summer-copy.html, (参照 2021-04-03).

(6) “利用案内”. 浜松市立図書館.
https://www.lib-city-hamamatsu.jp/guide/guide.html,(参照 2021-04-03).

(7) “世界にひとつの”図書館カード”を作ろう!:利用カードがプラスチック製に変わります”. 県立長野図書館.
https://www.knowledge.pref.nagano.lg.jp/static/osirase_190903/, (参照 2021-04-23).

(8) “新規カードのお知らせ”. 小野市立図書館. 2015-07-09.
https://www.lics-saas.nexs-service.jp/ono/use/card_new.html, (参照 2021-04-03).

(9) “県立図書館で「こどもの読書週間」のイベントを開催します~期間限定特典!! カードのデザインを選んで利用者登録ができます~”. 佐賀県. 2019-04-19.
https://web.archive.org/web/20190419090609/https://www.pref.saga.lg.jp/kiji00368213/index.html, (参照 2021-04-06).

(10) 「くすクスくん」と衝撃コラボ 漫☆画太郎さんの利用者カード配布 27日から県立図書館. 佐賀新聞. 2019-04-25. p. 16.
漫☆画太郎さんカードに行列 県立図書館利用者に限定配布. 佐賀新聞. 2019-04-29. p. 20.

(11) “FeliCaって何?”. ソニー株式会社.
https://www.sony.co.jp/Products/felica/about/, (参照 2021-04-03).

(12) マイナンバーカード総合サイト.
https://www.kojinbango-card.go.jp/, (参照 2021-04-03).
“マイキープラットフォーム構想の概要”. 自治体ポイントナビ.
https://www.point-navi.soumu.go.jp/point-mykey,(参照 2021-04-03).
(公的個人認証サービス等を活用したICT利活用ワーキンググループ(第5回)配布資料)【資料5-2】 マイキープラットフォーム構築に向けた準備状況. 総務省.
https://www.soumu.go.jp/main_content/000448274.pdf, (参照 2021-04-03).

(13) “Tポイント・Tカード初めてガイド”. Tサイト[Tポイント/Tカード].
https://tsite.jp/r/guide/web/index3.html, (参照 2021-04-03).

(14) “図書館情報提供システムを更新しました!”. 広島県立図書館.
http://www2.hplibra.pref.hiroshima.jp/?page_id=1249, (参照 2021-04-06).

(15)“図書館システムが新しくなりました。”. 岐阜市立図書館. 2020-01-27.
https://g-mediacosmos.jp/lib/information/2020/01/post-751.html, (参照 2021-04-06).
なお本文では触れなかったが、FeliCaを用いるのではなくアプリケーションソフト(アプリ)をダウンロードするタイプの、利用者カードとスマホとの一体化も登場しており、徐々に普及していくものと思われる。
図書館カード、スマホで代用 三谷産業など. 日本経済新聞. 2019-09-12.
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49746720S9A910C1LB0000/, (参照 2021-04-03).
“e-Lism 図書館向けスマホアプリ|自治体向けソリューション”. 三谷コンピュータ株式会社.
https://www.mtn.co.jp/03-sol-government/18/d00000000.html, (参照 2021-04-03).

(16) “お手持ちのSuicaなどのICカードやおサイフケータイ、マイナンバーカードを2枚目の図書館利用券として登録できます”. 袖ケ浦市立図書館.
https://sodelib.jp/guide/other/felica/, (参照 2021-04-03).

(17) “FeliCa(フェリカ)が利用者カードの代わりに利用できます”. 多摩市立図書館.
https://www.library.tama.tokyo.jp/info?2&pid=1226, (参照 2021-04-03).

(18) “マイナンバーカードを図書館利用カードとしてご利用できる図書館一覧”. 自治体ポイントナビ.
https://www.point-navi.soumu.go.jp/point-navi/library/, (参照 2021-04-03).

(19) “Tカードで本の貸出ができる Tカードが使える図書館”. Tサイト[Tポイント/Tカード].
https://tsite.jp/pc/r/service/library/index.pl, (参照 2021-04-03).

(20) 袖ヶ浦市立図書館のウェブサイトでは、「図書館システムで登録するデータは、FeliCa(フェリカ)やマイナンバーカードのICチップの固有番号のみです。図書館システムからFeliCa(フェリカ)やマイナンバーカードへの書き込みは一切しません。なお、マイナンバーカードのICチップの固有番号と「個人番号」は別のものです。」とある。
“お手持ちのSuicaなどのICカードやおサイフケータイ、マイナンバーカードを2枚目の図書館利用券として登録できます”. 袖ケ浦市立図書館.
https://sodelib.jp/guide/other/felica/, (参照 2021-04-03).

(21) “マイナンバーカードの図書館利用について”. 日本図書館協会図書館の自由委員会.
http://www.jla.or.jp/committees/jiyu/tabid/626/Default.aspx#myno, (参照 2021-04-03).

(22) Tカード情報令状なく提供 規約明記せず、会員6千万人超. 日本経済新聞. 2019-01-20.
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO40243650Q9A120C1CC1000/, (参照 2021-04-03).
Tカード情報、12月から緩和 捜査当局要請で令状不要に 武雄市図書館に問い合わせ. 佐賀新聞. 2019-01-22. p. 24.

(23) “図書館の自由に関する宣言”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/library/gudeline/tabid/232/Default.aspx, (参照 2021-04-03).

(24) “生体認証 静脈認証とは?基本情報を解説”. 日立ソリューションズ.
https://www.hitachi-solutions.co.jp/johmon/sp/what/what.html, (参照 2021-04-03).

(25) “那珂市立図書館様 カードレスでいつでも気軽に立ち寄れる図書館を目指して”. 富士通フロンテック.
https://www.fujitsu.com/jp/group/frontech/about/resources/case-studies/nakacity/, (参照 2021-04-03).

(26) “恵庭分館のリニューアルについて”. 恵庭市立図書館. 2021-02-28.
https://eniwa-library.jp/archives/2984/, (参照 2021-04-03).

 

[受理:2021-05-12]

 


和知剛. 利用者カードをめぐる最近の動向 – 公共図書館を中心とした -. カレントアウェアネス. 2021, (348), CA1999, p. 13-15
https://current.ndl.go.jp/ca1999
DOI:
https://doi.org/10.11501/11688291

Wachi Tsuyoshi
Recent Trends in Library Cards—Focusing on Public Libraries