E2347 – マンガ『夜明けの図書館』完結記念インタビュー

カレントアウェアネス-E

No.407 2021.01.28

 

 E2347

マンガ『夜明けの図書館』完結記念インタビュー

協力:『夜明けの図書館』作者・埜納タオ(ののうたお)
監修者・吉田倫子(よしだみちこ)
編集・聞き手:関西館図書館協力課調査情報係

 

   2010年11月に連載を開始した『夜明けの図書館』が,2020年11月に完結を迎えた。公共図書館でのレファレンスサービスをテーマとしたマンガであり,「暁月市立図書館」の新米司書「葵ひなこ」を主人公とし,利用者の様々な疑問・ニーズを出発点に「本と人」「人と人」をつなげていく様子が描かれている。また,同作品は,2020年の第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門で,審査委員会推薦作品の一つに選出された。10年にわたる連載は完結したが,2021年1月30日に加西市立図書館(兵庫県)でのトークライブイベント,2021年2月17日には第7巻(最終巻)刊行を予定している。完結を記念して,作者の埜納タオさん,監修者として司書の立場から協力した吉田倫子さんにお話をうかがった。

――完結を迎えてのお気持ちはいかがでしょうか?

埜納:
   長い間描いていたので,寂しくなるのかな,と思っていました。でも,実際は「無事に終えられて良かった」という清々しい気持ちです。描き始めたときは,10年も続くとは思っていなかったので,自分でも驚いています。この作品に出会えてよかったですし,人生が豊かになったと思っています。発表の場を与えてくださった双葉社と,応援してくださった読者の皆さんに心から感謝しています。

吉田:
   とにかく埜納さんと編集さんに10年間お疲れ様でした,という気持ちです。図書館の現在,そして今後のあり得る未来も含めた「嘘ではない」姿を伝え続けていただけて感謝しています。私自身は「伴走者」や「エンベディッド・ライブラリアン」(CA1751参照)のような形で作品に関わっていたのですが,終わってみれば実は『夜明けの図書館』という作品こそが,司書としての私を励まし続けてくれた「伴走者」であったと今は思います。

――どのお話が特に印象に残っていますか?

埜納:
   第3巻収録の第9話「はじめてのレファレンス」です。担当編集さんから,「ひなこのバックボーンを掘り下げてみませんか?」と提案をもらい描いたお話です。星を探しに行くシーンが描いていて楽しかったのと,「“知りたい”って思いは 明日自分がどうなりたいかに繋がってる」というセリフが,特に気に入っています。

吉田:
   第5巻収録の,多文化・多言語サービスを扱った「みんなのダイバーシティ」(第19・20話)です。この作品では「本当に本で自分のルーツに誇りを持てるんだろうか」と疑問を持った経験を素材として提供し,後編では「ヒューマンライブラリー」を紹介しました。作品では,アイデンティティーに悩むハイチと日本のダブルの少年が,「生きている本」として自分の話をして他者に受け入れられることが解決につながるのではなく,「読者」として他者の話を聞き,多様な存在に触れることで自分を受け入れていく……という描かれ方で,埜納さんの作家としてのお力に深く感銘を受けたことが印象に残っています。

――どのように物語を作っていたのか,また,連載中にどのような変化があったのか教えてください。

埜納:
   最初は,利用者のキャラクターや背景を考え,その人の悩みや図書館で何を探そうとするかを決めて,それに対応するレファレンスの方法を決めていく,という作り方でした。中盤以降は,色々な図書館サービスを知ったので,そこから出発し,キャラクターを設定するようになりました。様々な図書館サービスを描くことで,読者に図書館の多様な側面を知って関心を持ってほしい,図書館を好きになってほしいと思っていました。正直なところ「ライトな図書館マンガ」としてスタートしたのですが,巻数を重ねるごとに,協力者の吉田さんのお力添えもあり,図書館の現場での対応や取組などのリアリティさが加わりました。感想も一般の方に加え,図書館関係者からも届くようになり,私自身手ごたえを感じていました。

   その他の変化としては,最初はレファレンスのテクニックや参考図書の種類等に意識が向いていましたが,だんだん,雇用形態に関心を持つようになったり,図書館ごとの違いに気付くようになったり……。また,各地の図書館への取材を通して,正規・非正規に関わらず熱意のある職員さんがいる図書館は,面白いイベントをやっていたり,利用者との会話があったりと,フロアに活気を感じるという共通点に気づきました。

吉田:
   実は以前から,図書館のリアルが描かれたマンガが欲しい,無いなら作りたいと思っていたので,『カレントアウェアネス-E』の記事(E1252参照)で埜納さんが協力者を探していると目にした時,迷わず自分からアプローチしました。第2巻の途中から協力者として関わっています。最初は質問に答えてレファレンステクニックの説明などを行っていましたが,途中からプロットの段階からアドバイスするようになり,関わり方も深くなっていきました。医療健康情報サービスなど自分の経験を提供するだけでなく,レファレンス協同データベースなどの図書館ネタを提供したり,関連する人や機関などを紹介したり,作品のネタと明かさずにFacebookで図書館関係者から情報を募ったこともあります。守ろうと考えていたのは,作品について最後に決めるのは作者と編集者であり,私は物語が「嘘」になりそうだと思ったときだけ軌道修正する「伴走者」に徹する,という一線です。後半へのターニングポイントになったのは第16話「すべての人にすべての本を」のディスレクシアの少年が主人公の回です。実際の公共図書館ではあまり浸透していないサービスを描いていいか埜納さんが悩まれていたので「物語だからこそ,こうあって欲しい未来,<図書館の夜明け>を描けるのでは?」と声をかけました。時間をかけて信頼関係を構築し,最後には埜納さん・編集者さんとチームになって「明日の図書館」を夢見るようにまでなりました。幸せな10年間でした。

――お二人にとっての「理想の図書館」(E1788参照)はどのようなものでしょうか?

埜納:
   誰にとっても身近で,温かい場所。実際の現場では,「そこまでの対応は難しい」という部分はあるとは思っていますが……。そうあってほしい,(フィクションなので)夢や希望を与えられるようにとマンガに描きました。あと,魅力的な資料が保存・整理され,いつでも探せるようになっている,基本的なことをしっかりとしている図書館がかっこいいと思います。ただ,それを維持するだけでも大変で,職員・システムが重要だと感じます。現代人は日々何かを調べるために検索を行っていますが,「調べ方」は生き方に関わっているような気がしていて,簡単に手に入る情報とは別に,自力で深く,体系的に調べたいという要望がこれから増えるかもしれないと考えています。その要望に応えられる,いつでも頼ることができる,専門性を持った職員さんが途切れることなく育成されていく。そういった図書館であってほしいです。

吉田:
   結局行きつくところはいつもランガナタンの「図書館学の五法則」(E1611参照)なのですが,求めるものも最適なものも人によって違うので,一人一人に寄り添って最適な資料との出会いをお手伝いできたらいいと思っています。ただ,唯一無二の理想があるというよりは,それは「あなたの中にある」というか,一人一人違うのかな,と。お互いの「図書館はこうあるべき」を押し付け合うのではなく,関わる人それぞれの「こうだったらいいな」を出し合って一緒に編み上げて作られ続ける「成長する有機体」が理想なのかなあ。

――最後に記事の読者に向けてお願いします。

吉田:
   図書館が行っているサービスの結果を,私たちはほとんど見ることはできません。けれどこの作品はその先を想像で物語にして,絵に描いて見せてくれる,稀有な作品だと思います。埜納さんが気に入っていると挙げられた第9話の「“知りたい”って思いは 明日自分がどうなりたいかに繋がってる」というセリフが私も本当に好きで,この作品はその人が先に進める,人生を豊かにできるものを図書館は提供できる,という可能性を描いてくれているし,主人公の利用者に向き合う懸命さは,司書としての初心に立ち返らせてくれます。多くの人に知ってほしいし,最後まで読んでほしい作品です。

埜納:
   実は,『夜明けの図書館』連載中,どういった話題があるのかや,イベントについての情報収集のため「カレントアウェアネス・ポータル」の記事を読んでいました。第1巻刊行後のインタビュー(E1252参照)でも,たくさんの方に知ってもらえたので感謝しています。これまで知らなかった方も,今回の記事を読んで「こんな作品があるんだ」とか,「続いていたんだ」とか,関心を持っていただけたらぜひ手に取ってもらえると嬉しいです。連載は終わってしまいましたが,感想もいただけるとありがたいです!

Ref:
“作家トークライブイベント・埜納(ののう)タオさん講演会”. 加西市. 2020-12-28.
http://www.city.kasai.hyogo.jp/04sise/11osir/osir2012/osir201228a.htm
大反響のレファレンス図書館マンガ!「夜明けの図書館」埜納タオ.
http://www.futabasha.com/yoake/
“第23回 マンガ部門 審査委員会推薦作品 夜明けの図書館”. 文化庁メディア芸術祭.
https://j-mediaarts.jp/award/single/yoake-no-toshokan-library-at-dawn/
小原亜実子. “「生きている本」から学ぶヒューマンライブラリー”. 図書館雑誌. 2016, 110(7), p. 420-421.
マンガ『夜明けの図書館』の作者・埜納タオさんインタビュー. カレントアウェアネス-E. 2011, (207), E1252.
https://current.ndl.go.jp/e1252
関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局. 第12回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2016, (301), E1788.
https://current.ndl.go.jp/e1788
吉植庄栄. 時代は変わり順序も変わる:『図書館学の五法則』再解釈の試み. カレントアウェアネス-E. 2014, (267), E1611.
https://current.ndl.go.jp/e1611
鎌田均. 「エンベディッド・ライブラリアン」:図書館サービスモデルの米国における動向. カレントアウェアネス. 2011, (309), CA1751, p. 6-9.
https://doi.org/10.11501/3192164