E2348 – 公民連携ブックストアとの連携協力:大阪市立港図書館の取組

カレントアウェアネス-E

No.407 2021.01.28

 

 E2348

公民連携ブックストアとの連携協力:大阪市立港図書館の取組

大阪市立中央図書館・戸倉信昭(とくらのぶあき)
日本図書館協会認定司書1063号

 

   2020年10月18日,大阪市港区に,ブックストア「KLASI BOOKs(クラシ・ブックス)」がオープンした。地元の公共施設として大阪市立港図書館が連携協力している。本稿では,蔵書約7万冊の小さな港図書館が取り組む公民連携について,大阪市立図書館において地域図書館の統括部署に所属する筆者が,その経過や意義を紹介する。

  「KLASI BOOKs」が所在する築港・天保山エリアは,水族館の海遊館や,天保山マーケットプレースなどを擁し,大阪市を代表する集客スポットである。一方で,来訪者は海遊館周辺の施設に偏っており,エリア内の人口流出,人口減少が顕著であるなど,まち全体としてみると衰退が進んでいる。そこで,公民連携によりにぎわい・魅力を創出し活性化を進めるため,大阪市港区役所は2018年3月,「築港・天保山まちづくり計画」を策定し,区役所と民間のカウンターパートとの間でさまざまな試みを進めている。

  「KLASI BOOKs」は,エリア内の拠点施設として2019年に開業した「KLASI COLLEGE(クラシ・カレッジ)」の中にある。「KLASI COLLEGE」は,住宅・店舗等のリノベーションの総合ショールームを軸に,飲食店,雑貨店やDIY工房も入居する複合施設である。建物は,かつて港湾運送業事務所であった築60年を超えるレトロビルを活用しており,玄関を入るとリノベーションを体感できるショールーム兼カフェが配置され,ほかに内装,家具,キッチン,雑貨などの店舗ブースが並ぶ。ワークショップや地域住民の交流イベントも積極的に開催されている。こうした建物の活用や地域活性化の活動が評価され,日本デザイン振興会が主催する2020年のグッドデザイン賞を受賞した。運営事業者は地元のリノベーション会社「株式会社美想空間」で,2018年に大阪市港区役所と連携協定を締結している。

   この「KLASI COLLEGE」をさらにパワーアップさせる試みとして,ブックストア「KLASI BOOKs」が運営事業者から発案された。と言っても,ブースの一つとして書店が入るのではなく,既存のブースの中に関連する書籍を販売する本棚が設置される,という仕掛けである。例えば,キッチンのブースにはレシピや食文化の本,カフェにはコーヒーの本……セレクトショップのアイテムの一つが本,と言えばイメージしやすいだろうか。「KLASI BOOKs」のスタッフによる本の紹介POPも随所に見られる。

  「KLASI BOOKs」のオープンにあわせて,公民連携という切り口で何かできないだろうか,という話になり,港区役所と運営事業者から語られたのは「図書館の機能は地域を活性化するのにとても重要な役割を果たす」という言葉だった。知識創造型図書館,地域創造図書館を標榜する当館にとって(E1326参照),そのコンセプトを念頭に話を持ち掛けられたこと自体がうれしいことである。

   実際は準備期間も短く,手始めとして,「KLASI COLLEGE」全体の空間デザインやコンセプトに合わせた港図書館所蔵図書を月替わりで展示をすることとした。具体的には,「KLASI BOOKs」担当者がテーマを示し,それに沿った図書館の蔵書を司書がセレクトする。貸出した展示図書は,当面は「KLASI COLLEGE」内での閲覧のみとしている。施設内では親子向けのイベントやワークショップも盛んに行われていて子どもも来場するので,展示図書には絵本などの児童書も含めるようにしている。絵本というアイテム自体が「KLASI COLLEGE」の空間デザインにもマッチするという着想である。

   図書館が関わる意義はいろいろある。まず,地域の図書館にライフスタイルを豊かにするための参考になる図書があることを伝えることができる。また,来場者の多くが子育て世代であり,展示図書の中に絵本をはじめ児童書を含めることで子どもの読書推進につなげることもできる。生活空間を再現したショールーム内への展示により,図書館の本が生活に潤いをもたらすことを来場者にイメージしてもらいたい,という期待もある。

   事業者からこれまでに示されたテーマは「建築」「料理・コーヒー」「インテリア・収納・グリーン」などである。テーマは3か月を1クールとし,本は月に1度入れ替えている。民間店舗内での図書館資料の展示は初めての試みであり,「KLASI BOOKs」担当者と月に1度意見交換を行いながら進めているが,今後はイベントスペースでの絵本展や,ボランティアグループによる絵本読み聞かせ等おたのしみ会の開催も検討している。さらに港図書館でも,「KLASI BOOKs」スタッフがすすめる図書の展示などを開催する予定である。「KLASI COLLEGE」から港図書館につながる,港図書館から「KLASI COLLEGE」につながるといった双方向の連携ができればと考えている。

Ref:
“報道発表資料 港区築港エリアに公民連携ブックストアがオープンします”. 大阪市. 2020-10-13.
https://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/minato/0000515936.html
“【港】港区築港エリアの公民連携ブックストア「KLASI BOOKs」に協力します”. 大阪市立図書館. 2020-10-17.
https://www.oml.city.osaka.lg.jp/index.php?key=jovokm1eq-510
“報道発表資料 「築港・天保山まちづくり計画」を策定しました”. 大阪市. 2018-03-26.
https://www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/minato/0000430689.html
KLASI COLLEGE.
https://www.klasicollege.com/
“報道発表資料 大阪市港区役所は株式会社美想空間と連携協定を締結します”. 大阪市. 2018-11-27.
https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11389901/www.city.osaka.lg.jp/hodoshiryo/minato/0000453067.html
徳森耕太郎. 大阪市立図書館,「知識創造型図書館改革」検証結果を公表. カレントアウェアネス-E. 2012, (220), E1326.
https://current.ndl.go.jp/e1326