E2349 – 専門図書館と公共図書館の連携はなぜ進まないのか<報告>

カレントアウェアネス-E

No.407 2021.01.28

 

 E2349

専門図書館と公共図書館の連携はなぜ進まないのか<報告>

ビジネス支援図書館推進協議会/目黒区立八雲中央図書館・椛本世志美(かばもとよしみ)

 

●はじめに

   2020年11月2日,第9回情報ナビゲーター交流会(以下「交流会」)が開催された。全国の公共図書館員と主に都市部の専門図書館員の館種を超えた交流を目的とした同会(E2244参照)は,ビジネス支援図書館推進協議会および一般財団法人機械振興協会経済研究所が主催し,文部科学省および専門図書館協議会の後援を受け,新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響によりオンラインで行われた第22回図書館総合展のイベントのひとつとして実施された。「専門図書館と公共図書館の連携はなぜ進まないのか」をテーマとした交流会は,5つのプレゼンテーション,プレゼンターによるパネルディスカッションで構成され,全国から述べ96人(登壇者,スタッフ含む)の参加者があった。5つのプレゼンテーションは以下の通りである。

  • ビジネス支援図書館推進協議会とは
  • 竹内利明氏(ビジネス支援図書館推進協議会会長)
  • ウェブサイトは閲覧室:渋沢栄一記念財団情報資源センターのサービス拠点
  • 茂原暢氏(渋沢栄一記念財団情報資源センター長)
  • アジア経済研究所図書館について
  • 二階宏之氏(アジア経済研究所学術情報センター主査)
  • 旅の図書館:観光分野におけるビジネス支援と地域活性化
  • 大隈一志氏(旅の図書館副館長)
  • ターニングポイントに立つ:10年目のBICライブラリ
  • 結城智里氏(機械振興協会経済研究所情報創発部部長)

   プレゼンテーションの資料・動画は,ビジネス支援図書館推進協議会のウェブサイトで公開されているので,詳細についてはそちらを参照されたい。

●パネルディスカッション

   専門図書館からの4人のプレゼンターがパネラーとなり,元鳥取県立図書館の小林隆志氏が鳥取県からリモートで参加して進行を務めた。小林氏からは,冒頭,例年はリアルに集まり名刺交換を行って人的ネットワークを作るというコンセプトで開催してきたが,今回は,遠隔地からも参加できるということをプラスに捉えてオンラインでの開催となった,との挨拶があった。続くディスカッションは,本交流会のテーマを命題に進められた。以下,プレゼンテーションの内容も含めてパネルディスカッションで紹介された各館での連携事例や課題を紹介する。

   デジタル化には経費が掛かるのではないか,という小林氏からの問いかけに対し,茂原氏からは,長い時間をかけて年単位で取り組んでいること,また,閲覧室がないがゆえに,デジタルアーカイブとリモートサービスに注力しており,連携の一環としてジャパンサーチ(E2317参照)と同センターが運営する「会社名・団体名変遷図」との連携事例が紹介された。

   二階氏からは,同館も所属する1994年1月に設立された千葉市図書館情報ネットワーク協議会が紹介されたが,館種の異なる図書館(2020年12月現在22館)が20年以上も活動を続けていることは珍しいという。専門図書館,公共図書館ともにWin-Winの関係となるシステマチックな連携の構築が課題である,と発言があった。

   大隈氏からは,交流会に参加した直後には多くの公共図書館職員の見学者があったものの交流は長続きせず,その中では組織としての連携が実現できた例として,愛知県図書館との企画展示「とっておきの旅の本」が紹介された。これまでの専門図書館同士の横の連携に加え,すそ野を広げる意味において,公共図書館を窓口にする必要性を感じているが,一過性の人とのつながりで満足するだけでなく,図書館同士の組織としての連携が必要であるという発言があった。そして,コロナ禍以降の観光業に関する同館の調査員を活用したレファレンスなど,組織同士の連携による高度なレファレンスが増えている,との発言があった。

   結城氏からは,起業家の支援を行うという同館の設立目的達成のため,個人利用者に利用を直接呼びかける,専門図書館としての知名度を上げるという努力は続けるものの,市民にとって身近な公共図書館との連携により,利用者を専門図書館へ案内する,というビジネス支援のモデルチェンジを行ったことが紹介された。また,同館が所在する東京都港区の専門図書館の連携をあげ,専門図書館同士のつながりがあると,利用者への資料提供を補完できるという事例も紹介された。

   公共図書館の視点として,小林氏からは,ビジネス支援サービスを始めた当初とはレファレンスの質も変わってきていると指摘があった。より深く専門的な資料や情報を求められるようになったため,公共図書館の資料だけではカバーできない,課題解決につながる資料や情報提供のためには専門図書館との連携はこれまで以上に必須と考える,と発言があった。

●最後に

   筆者は公共図書館に勤務しているため,資料の専門性,研究者による調査など専門図書館との連携の利点はわかりやすい。特に、大隅氏、二階氏の発言にあったように,司書だけでなく,専門図書館の親組織に所属する研究者の協力による調査には,公共図書館では歯が立たない専門性があり,非常に有用であると感じている。今回,専門図書館の視点で公共図書館との連携に関する話を聞くことができたのは有意義であった。ディスカッションの中でも,覚書締結だけで満足してしまう,人とのつながりだけで終わってしまうことを危惧する発言があり,組織としての連携の必要性を感じている。一方では,専門図書館の職員を個人として知っていると声をかけやすい,交流会は開催が目的ではなく,その先の人的ネットワークや組織の連携が目的である,という小林氏の発言もその通りである。筆者の勤務する図書館では,交流会の直前に,渋沢栄一記念財団情報資源センターが運営している「渋沢社史データベース」を利用した事例やアジアのある都市の戦時中の地図を調べるという事例もあり,茂原氏,二階氏に両館種が連携・協力できる事例として情報提供を行ったが,仮に2氏を知らなかったら情報提供をしただろうか。交流会をきっかけとした人的交流がこうした日頃の情報交換を生み、やがて組織としての連携につながることを願っている。

   本交流会に参加し,人的ネットワークがないところには組織の連携は継続しないことを学んだ。ビジネス支援図書館推進協議会理事長の常世田良氏による「図書館は人である」という冒頭の挨拶と「図書館の本質が連携を必要とする」という大隈氏の発言を最後に紹介して本稿を締めくくりたい。

Ref.
“第9回 情報ナビゲーター交流会開催報告”. ビジネス支援図書館推進協議会. 2020-12-10.
http://www.business-library.jp/2020/12/10/9infonavi/
“第22回図書館総合展ビジネス支援図書館推進協議会提供セミナー開催報告及び4セミナー動画公開”. ビジネス支援図書館推進協議会. 2020-12-27.
http://www.business-library.jp/2020/12/01/22toshosogo/
ビジネス支援図書館推進協議会
http://www.business-library.jp/
“連携機関”. ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/organization?from=0
“「渋沢栄一関連会社名・団体名変遷図」と連携しました!”. ジャパンサーチ.
https://jpsearch.go.jp/news/20201117
千葉市図書館情報ネットワーク協議会.
http://ccal.jp/app-def/S-102/ccal/
“展示『とっておきの旅の本』を開催中です。”. 愛知県図書館. 2019-10-16.
https://www.aichi-pref-library.jp/index.php?key=bbefkffzb-219#_219
小林隆志. 情報ナビゲーター交流会:第8回開催までの歩み. カレントアウェアネス-E. 2020, (388), E2244.
https://current.ndl.go.jp/e2244
電子情報部電子情報企画課次世代システム開発研究室. ジャパンサーチ正式版の機能紹介. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2317.
https://current.ndl.go.jp/e2317