カレントアウェアネス-E
No.119 2007.12.12
E727
“Universal Library”を目指して−Million Book Project
米国のカーネギーメロン大学が,浙江大学・インド科学研究所など中国・インドの高等教育機関,エジプトのアレクサンドリア図書館と共同で取り組んでいる書籍デジタル化プロジェクト“Million Book Project”(CA1593参照)がこのほど,150万冊の書籍のデジタル化を終え,ウェブでの無料提供を開始したことを発表した。Million Book Project は,「全ての本をデジタル化し,永久に保存し,全ての人に無料提供すること」を目指す “Universal Library”という壮大なプロジェクトの第一歩目として位置づけられている。なお「Million=100万」と冠しているのは,「100万」冊という冊数が現時点で存在する全ての書籍数の1%に当たるからだという。
今回デジタル化されたコレクションには多くの貴重書,著作権者不明の作品(orphan works)が含まれており,英語と中国語を中心にアラビア語,ヒンディー語,サンスクリット語など20を超える言語の書籍がある。またコレクションのうち少なくとも半数については著作権が切れており,残りの作品は著作権者の許諾の下でデジタル化されているため,現時点ではすべての資料が利用できるわけではないものの,いずれ150万冊すべてが無料で利用可能になる予定であるという。
Million Book Projectはいくつかの組織・企業から資金援助を受けており,その代表的なものとして,米国科学財団(NSF)から装置・設備等のため3,500万ドル(約38億5千万円)の援助を受けている。また米国,中国,インドがそれぞれ1,000万ドル(約1億1千万円)の資金提供を行っているほか,中国とインドはスキャニングに必要な人的資源供給の面でも貢献している。今回のデジタル化作業では,書籍110万冊が中国で,36万冊がインドでスキャニングされた。現在でも,世界中の50のスキャニングセンターで,1日7,000冊の書籍を1,000人が作業してデジタル化しているという。
Million Book Projectが一段落した後も,Universal Libraryの構築を目指すプロジェクトは続行していくが,今後課題となるプロジェクトの「持続可能性」については,米国議会図書館(LC)のデジタル保存事業(CA1502,E525参照)から助成を受ける,OCLC経由でデータを提供し,OCLC参加館から費用を得る,といった可能性を検討するとともに,QuestiaやNetLibraryなどの電子ブックサービスからも持続可能モデルの示唆を得ているということである。もっともUniversal Libraryでは今のところ,商業ベースの手法は持続可能モデルにはつながらないとの見解を示している。
大規模な書籍デジタル化プロジェクトにはよく知られたものとして,GoogleのGoogleブック検索(CA1564,E676参照),マイクロソフトの“Live Search Books”(E403参照),Yahoo!とInternet Archiveが主導する“OpenContent Alliance(OCA)”(E392参照)があるが,カーネギーメロン大学のニュースリリースによると,Million Book Projectは大学が主導するものとして世界最大規模の電子図書館になるということである。大学が主導する大規模プロジェクトであることのほかに,欧米以外の国が積極的に参加している点でも興味深く,今後の動向に引き続き注意していく必要があるだろう。
Ref:
http://www.cmu.edu/news/archive/2007/November/nov27_ulib.shtml
http://tera-3.ul.cs.cmu.edu/
http://www.ul.cs.cmu.edu/html/
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2007/11/28/17660.html
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0711/30/news022.html
CA1502
CA1564
CA1593
E285
E340
E392
E403
E525
E543
E676
E714