CA1564 – Googleが図書館に与えるインパクト / 兼宗進

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カレントアウェアネス
No.285 2005.09.20

 

CA1564

 

Googleが図書館に与えるインパクト

 

1. Googleの新サービス

 Googleは1990年代後半に新しいインターネット検索の世界を切り拓いた。Googleは彼らの任務を「世界中の情報を組織化し,それを普遍的にアクセス可能にして役立てること」と定義しており,その後も情報検索の分野で新しいサービスを展開し続けている。

 Googleにおけるサービス拡大の方向性は,大量の索引から高速に検索する技術を背景に,適切な資料を優先して提示するランキング技術と個人に適した情報を提示するパーソナライズ技術を利用することにある。提供する情報は,ウェブページの他に,ニュース,地図,書籍,論文,店舗,交通など多岐にわたっている。

 以下では,最初に図書館に関連が深いサービスである学術文献検索(Google Scholar)と書籍全文検索(Google Print)を概観し,続いてGoogle Printに関するいくつかの図書館との協力体制を見る。そして,図書館に与える影響について考察する。

 

2. Google Scholar

 Googleは2004年11月にGoogle Scholarのベータ版をリリースした(E273参照)。Google Scholarは学術文献に特化した検索エンジンであり,さまざまな分野の査読論文,学位論文,書籍,プレプリント,抄録,技術報告を検索することができる。

 検索結果は,記事の本文,著者,出版社,掲載ジャーナル,引用数などによりランキングされ,重要度の高い順に表示される。情報源のデータベースとしては,ACM, IEEEなどの学協会,ブラックウェル,シュプリンガーなどの出版社,PubMedなどの索引が採用されている。

 一般に,文献には最終版のほかに,プレプリントや改訂版など複数の版が存在する。Google Scholarではそれらを同一の文献としてグループ化し,有料サイトで提供されることが多い最終版を代表作として提示しつつ,無料で提供される版については全文をリンクする。

 Google Scholarを使うことで,利用者にとっては複数の電子ジャーナルサイトを検索して回る手間の軽減が期待できる。また,図書館はOpenURLを利用することで,契約しているジャーナル(オンライン,冊子)をGoogle Scholar上でハイライト表示できる(E321参照)。書誌検索に加えて組織ごとに別の本文へのアクセスを実現することで,文献検索のポータルとしての地位が期待される。

 

3. Google Print

 Google Printは,書籍に特化した検索エンジンである。本文を含めた検索を行い,検索結果として本文のページを表示する。対象となる資料は出版社が許可した資料を中心とする。著作権が切れている出版物はすべてのページを表示できるが,著作権が切れていない出版物は検索語の含まれる前後数ページのみが表示される。

 このサービスでは著作権の切れていない資料も対象にする。Googleは出版社に対して「検索によって書籍が目に触れる頻度を上げることで売り上げを伸ばす」ことをPRして個別に協力を取り付けている。ユーザーは本文の数ページを閲覧した後で,必要に応じて書店へのリンクをたどり,資料を購入することができる。

 

4. 図書館資料電子化プロジェクト

 Google Printで扱う資料は出版社が許可したものを中心としているが,図書館と協調するプロジェクトも開始されている(E285参照)。このプロジェクトには,ハーバード大学,スタンフォード大学,ミシガン大学,オックスフォード大学,ニューヨーク公共図書館が参加しており,これらの図書館の蔵書の一部をGoogle Printで電子化して公開する。図書館は資料を提供し,資料のデジタルデータを受け取る。

 著作権の切れた書籍だけでなく,著作権保護期間中の資料もスキャンして検索できるようにすることに対しては,批判の声が出ている(E340参照)。Googleは本文の一部しか表示しないようにするため問題ないと説明しているが,一時的な作業の中断を余儀なくされるなど議論はまだ続きそうである。

 

5. 図書館への影響と求められる変化

 Googleのサービスの拡大は,図書館にどのような影響をもたらすのだろうか。利用者は,以前からGoogleなどの検索エンジンを活用して資料を検索してきた。しかし,Google ScholarやGoogle Printの普及により,今後はオンラインで資料を入手する割合が増えることが予想される。

 Google Scholarを使うことで,従来は個別に検索する必要があった異なるジャーナルサイト(商用,学会,オープンアクセスなど)を一箇所で検索できるようになった。文献検索の入口としての利用により,利用者は図書館のサイトを経由することなく文献を検索できる。今後,図書館はサイトライセンスを提供するだけの役割になる可能性がある。

 また,Google Printを使うことで,多くの図書館の蔵書数より大きいコレクションから資料を検索できるようになるとともに,実際にそれらの中身を(限定された数ページであれ)オンラインで閲覧できるようになった。今後,利用者はオンラインで資料を検索して内容を確認し,ローカルの図書館に所蔵されている場合には閲覧するが,そうでない場合には書店に注文するなど,図書館の利用が限定的になっていく可能性がある。

 このような状況で,図書館は何をすべきだろうか。電子化により「資料を所蔵している」ことの優位性が揺らぐことで,改めて図書館自体の存在意義が問われ始めている。

 Googleの躍進を支える原動力は,「技術」という自分たちの優位性を認識し,それを活用することで「サービスの拡大→人々の幸せ→サービスの拡大→…」という好循環を生んでいることにある。図書館においても,早急に自身の優位性を認識し,新たなサービスを含む好循環を確立することが求められている。

 ひとつの方向性としては,図書館の優位性のひとつである「利用者との直接的なコミュニケーション」を充実させることが考えられる。たとえば,利用者のレベルやニーズに応じたレファレンスサービスを実現することは今後ますます重要になる。また,ブログ,RSS(CA1565参照),アラートなどの最近の技術を利用することで,資料の新着やイベントなど,利用者に伝えたい情報をダイレクトに提供することができる。そして,無線とユビキタス技術を活用することで,図書館という場所に限定されることなく,サービスを提供することが可能になる。

 利用者がオンラインと図書館という複数のサービスを選択的に利用できることは望ましい流れである。図書館においては,今後は資料の提供に加え,資料に含まれる情報を活用し,利用者に即した情報提供を充実させていくことが重要になる。

一橋大学総合情報処理センター:兼宗 進(かねむね すすむ)

 

Ref.

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兼宗 進. Googleが図書館に与えるインパクト. カレントアウェアネス. 2005, (285), p.2-3.
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