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カレントアウェアネス
No.285 2005.09.20
CA1565
RSSの発展と図書館サービスへの応用
1. はじめに
近年,XML,メタデータ,リンキング,RSSなど,ウェブ情報提供技術の進化は目ざましく,これらの技術を用いたサービスも,Google・Yahoo!検索,ブログ,コンテンツマネージメントシステム(CMS),ソーシャルネットワーキングシステム(SNS),XMLウェブサービス,セマンティックウェブ等々枚挙に暇がない。中でも,いま最も脚光を浴びているのはRSSである。
RSSとは,ブログなどウェブサイトにて時々刻々更新される情報を自動的に収集し,新着情報としてユーザーへ配信&通知するしくみである。このしくみを利用するためには,コンテンツを配信する側がRDF(後述)と呼ばれるフォーマットで記述された文書ファイル(RSSフィード)を用意しておく必要がある。また,受け手であるユーザーはRSSリーダーと呼ばれるソフトウェアやRSS対応のブラウザを導入する必要がある。RSSの最大のメリットは,ユーザー自身でサイトをチェックすることなく自動的に更新された情報を知らせてくれることである。この通知方法もさまざまな形態のものがあり,例えばメールをしている最中でも更新情報があるとポップアップで知らせてくれたり,デスクトップ上にテロップとして更新情報が流れてきたりと自分のネットスタイルに合わせた形で情報収集ができる。
RSS自体は1999年から存在しており,それほど新しい技術ではないが,ブロードバンドの普及とブログの発展に後押しされて,最近ようやくユーザーに受け入れられるようになった。しかしながら,『インターネット白書2005』の最新調査結果によると,ブログの認知率は91.5%,利用率は18.4%であるのに対し,RSSリーダーの認知率は43.1%,利用率に至っては9.5%と1割にも満たない。
RSSは,単にブログサイトの更新通知だけに使われる技術ではなく,ニュースサイトや電子商取引サイト,ウェブ広告,マーケティングツールなど様々なコンテンツを配信する新しい仕組みとしての側面が強くなってきており,将来性は無限大である。RSSは今や電子メール,ウェブに続く第三のインターネットメディアとして注目されている。
図書館においても,ブログやRSSを取り入れたページが増え始めている(E194参照)。アイスランド大学図書館長であるクライド(Laurel A.Clyde)教授の2004年度調査によると,米国,カナダ,英国の図書館でブログを立ち上げている55館の内訳は,公共図書館25,大学図書館21,専門・研究図書館5,連合図書館2,国立図書館1,教育委員会図書室1となっている。また,ブログ開設の目的は,「ニュースや利用者へのお知らせの配信」が過半数を占め,以下「お薦め情報のリンク提供」,「書籍情報およびレビュー」と続く。日本でも,一橋大学附属図書館,農林水産研究情報センター,図書館流通センター(TRC),国立国会図書館などが実験を含めてRSSを用いて新着情報などをHP上に公開している。
RSSは,図書館のお知らせや新着資料案内を始めとしたノーティフィケーション(通知)サービスに今や必要不可欠な技術となりつつある。Google世代のユーザーは,提供される情報に正確さ以上に鮮度を求めている。いつまでも更新されないページは淘汰されていく時代である。もはや,RSSの存在を無視していられない時期に来ているとさえ感じる。2005年はまさに「RSS元年」であると言っても過言ではない。
そこで本論では,RSSのメタデータとしての可能性と図書館サービスへの応用を中心に進めていくこととする。
2. 図書館におけるRSSの位置づけ
GoogleやYahoo!は,我々に計り知れない恩恵を与えた。今や,何か調べたいと思ったときは,まずGoogleやYahoo!を引く,ということが一般的になった。図書館で提供するウェブ情報検索サービスも,従来のOPAC検索サービスからGoogleやYahoo!などの汎用的な検索サービスを意識し始めている。しかし,Googleの基本は「検索キーワードを含むページを返す」ことであり,「ページの持つ意味(セマンティック)」を考慮していないため,使い勝手が悪い部分や検索結果の品質に限界がある。
図書館は今や,「Googleライク(手軽で簡単・便利)なサービスへと向かうべきか?」それとも,「図書館の伝統的(目録や主題をベースとしたセマンティック)なサービスを追求していくのか?」の選択に迫られている。この一見相反する方向性の橋渡し役となるのがRSSではないだろうか。GoogleやブログといったカジュアルなツールとOPAC/Z39.50横断検索,機関リポジトリ,学術ポータルといった学術情報サービスはいかに連携して行くべきか。一部のセマンティックウェブ(CA1534,E339参照)の研究者は,ブログツールやRSSがセマンティックウェブのプラットフォームになり得ると考えている。RSSもセマンティックウェブもXML(正確には「RDFスキーマ」)をベースとして拡張・応用していくことにより,連携が可能になる。ページの意味を機械的に付与する作業は,ある程度RSSに任せることができる。また,図書館のメタデータであるMARCもXMLとの相互変換(クロスウォーク)が可能である(CA1552参照)。但し,これらの作業はすべて機械処理で行えるものではなく,人手をかけて補完する必要がある。それは,例えば図書館のカタロガー(目録担当者)が書誌ユーティリティからコピーした書誌データにLCSHなどの件名標目をこつこつと付与していくのと同じように,地味だが利用者に洗練された情報を提供するには非常に重要な作業である。図書館員としての存在意義がそこにある。
3. RSSの歴史とバージョンの違い
RSSの原型はMCF(Meta Content Framework)までさかのぼる。MCFを開発したグーハ(Ramanathan V. Guha)氏は,1997年にアップル社からNetscape社に移り,XMLの開発者であるブレイ(Tim Bray)氏とともに,MCFをXMLベースに書き直した,とされている。これがRDF(Resource Description Framework)の原型である。RDFは,特定のアプリケーションや知識領域を前提とせずに,相互運用可能な形で「リソースを記述する」ための標準的なメカニズム(枠組み)を提供する試みである。1999年3月,Netscape社は“My Netscape Network”と呼ばれるポータルサービスを始め,そこにRDF構文を用いたRSSを使った。これが世界で最初のRSSである。
RSSには大きく3つのバージョンがある。0.9xとこれを改良した2.0,そして1.0である。それぞれのバージョンに互換性は少なく,名称も0.9xは“Rich Site Summary”,1.0は“RDF Site Summary”,2.0は“Really Simple Syndication”とされている。日本では,RDFを採用するRSS1.0が主流となっている。RSS1.0グループはメタデータの可能性を追求しており,究極の目標はセマンティックウェブである,とされている。一方,RSS2.0グループはRSSの普及やコンテンツ配信の機能を重視しているものと思われる。
4. 学術コミュニティへの応用
大学図書館を取り巻くコミュニティは実に多岐に渡っている。研究者,学会,出版社,代理店,コンソーシアム,アグリゲータ,システムベンダー,協力会社,派遣会社などがある。これらのコミュニティについて,図書館を中心として最新情報の共有や情報発信ができたらどれ程有益だろうか。コミュニティ毎に持っているブログやナレッジベースの中から公開できる情報をRSSなどのメタデータを使ってハーベスト(自動収集)できれば,相互にとって幸せなモデルが実現するであろう。例えば,電子ジャーナルのタイトル情報は,提供元の吸収・合併や契約更改などにより頻繁に変更される。これらの更新情報をリアルタイムに捉えることができれば,リンク切れや遅延などなく利用者に円滑にサービスを提供できる。
平成16年6月から平成17年3月にかけて,国立情報学研究所(NII)と主要な国立大学が参加して,メタデータ・データベース共同構築事業である「学術機関リポジトリ構築ソフトウェア実装実験プロジェクト」(E323参照)が実施された。当プロジェクトで,実験評価に利用されたツールの1つに,MITとHewlett-Packard社が共同開発した機関リポジトリツールDSpace(CA1527参照)がある。DSpaceはメタデータにDublinCoreを採用している。図書館におけるDublinCoreの評価は必ずしも高いとは言えないが,研究者や学会などのコミュニティにおいて,研究成果などを簡単に入力でき,情報発信できるしくみがあれば,大学の研究支援基盤の強化にもつながる。
RSS1.0では,基本的なサマリー提供機能をコアなRSSとして定義し,より高度な機能は,XMLの名前空間を利用したモジュールとして追加できるようになっている。様々なモジュールを使うことができるが,一般的によく使われているのは「DublinCoreモジュール」と「Syndicationモジュール」の2つである。DublinCoreモジュールは,
RSSはテキスト情報だけでなく,音声や画像,動画などのマルチメディアにも対応できる。そのため,E−ラーニングコンテンツなどと連携させることも可能となる。また,学内のイントラネットやグループウェアをRSSに対応させて戦略的な情報共有ツールとすることも可能である。
5. 各社のRSS対応状況
RSSはOSやブラウザを始めとして,様々なアプリケーションに搭載されていくことが予測される。マイクロソフトは,次期バージョンのInternet Explorer(IE7)と来年登場予定のWindows Vistaに,RSSサポート機能を組み込むことを明らかにした。
マイクロソフトのシャレー(Gary Schare:Windows部門戦略製品管理ディレクター)氏は,「われわれは,RSSが今後のインターネットの鍵を握る技術になると確信している。そのため,Windows VistaではOS全体にRSSを統合していく」と語った。 同社はまず,IE7にRSSサポート機能を追加し,ブックマークを選ぶのと同じような手軽さでRSSフィードを購読できるようにしていく。こうした機能はすでにFirefoxには搭載されており,またアップル・コンピュータもMac OS X 10.4“Tiger”のブラウザSafariでRSSをサポートした。なお,メールソフトでも,Thunderbird などのRSSリーダーの機能を備えているものやBecky!などの専用プラグインの導入により対応可能なものがいくつかある。
6. おわりに
RSSは,「プッシュ型」の電子メールほど押し付けがましくなく,「プル型」のウェブほど疎遠でない。また,メールマガジンはユーザー登録しないと利用できず,ISPなどのスパムメールブロックの影響を受けるが,RSSはスパムフリーである。さらに,RSSはオプトイン/オプトアウト(読みたいものを読み,読みたくないものを排除する)が容易であり,自ら選択したRSSフィードからしか情報を得ないため,受け手主導のパーソナライゼーションが簡単に実現できる。
RSSはセマンティックウェブへの応用により,図書館の伝統的な役割である「洗練された情報の提供」をも実現可能とする。
以上のように,RSS は柔軟性に富み,様々な可能性を持った技術であるが,われわれが目指すべきゴールではなく,あくまで「新たな時代の入り口」に過ぎない。
慶應義塾大学メディアセンター本部:田邊 稔(たなべ みのる)
Ref.
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田邊 稔. RSSの発展と図書館サービスへの応用. カレントアウェアネス. 2005, (285), p.4-6.
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