E1737 – 日欧のオープンサイエンスに関する国際シンポジウム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.293 2015.11.26

 

 E1737

日欧のオープンサイエンスに関する国際シンポジウム<報告>

 

 2015年10月13日と14日,神戸大学百年記念館にて,EUに関する教育・学術研究,情報発信を行う関西の大学コンソーシアムであるEUインスティテュート関西(EUIJ関西)主催の国際シンポジウム「HORIZON2020によるオープンアクセス政策とオープンサイエンスの国際的課題―学術研究における日欧の共通課題と大学図書館の役割―」が開催された。

 1日目は,駐日EU代表部のウールガー(Lee Woolgar)氏,OpenAIREのカステリ(Donatella Castelli)氏,ミーニョ大学図書館ロドリゲス(Eloy Rodrigues)氏による発表ののち,パネルディスカッションが行われた。

 ウールガー氏からは,第7次研究開発枠組み(FP7)に次ぐ欧州委員会(EC)の研究助成プログラムHorizon2020(H2020)の,オープンサイエンス(以下OS)ポリシーの概要とその成立過程について報告があった。本ポリシーでは,助成対象である研究論文のオープンアクセス(OA)義務化とともに,特定分野での研究データの管理・公開の試行プロジェクト実施が定められている。背景には,官民の別や国境をこえた欧州単一の研究領域である“ERA”(Europe Research Area)と呼ばれる構想があり,その実現のため,既存のデータ管理システムを統合した研究基盤“European Open Science Cloud”の整備が検討され始めている。

 カステリ氏は,H2020によるOA義務化をサポートするOpenAIREについて報告した。OpenAIREは,機関リポジトリ(以下IR)等から収集したメタデータをもとに,研究における(1)プロジェクト管理,(2)成果の保存・流通促進,(3)OAの順守状況の監視および評価という一連の活動を支える,欧州単一の研究情報管理システムの構築を目指している。運営においては,研究者やその業績等のデータベースであるCRIS,データリポジトリ等の多様なシステムとの連携のため各種ガイドラインが策定されるなど,既存のインフラの活用が重視されている。さらに各国配置のヘルプデスクNOADs(National Open Access Desks)が,各国・各機関のOA推進におけるECの方針への準拠をサポートしている。

 ロドリゲス氏からは,特に若手研究者が研究ワークフローにOSの実践を組み込むことを目的とした研修推進プロジェクトFOSTERについて報告があった。本プロジェクトは,ERAに含まれる各研究機関がセルフアーカイブ支援を行う能力を向上させることを意図し,対面研修を実施する他,研修教材を一元管理するFOSTER Portalを運営している。教材は,独自開発の分類体系“Open Science Taxonomy”から検索できるほか,利用対象者や学習レベルの情報が明示されているため利用しやすい。その他,研修の対象や目的・手法を明確にし,企画立案を容易にする“Toolkit for Training”や,教材作成のためのオンライン講座も紹介された。

 パネルディスカッションでは,OSの進展による社会へのインパクトが論点となり,研究活動の活性化,教育への寄与,政策決定者による研究成果の活用,産業のイノベーション等の効果が確認された。

 2日目には,まず,大学評価・学位授与機構の土屋俊氏から,ともすればそのプラス面ばかりがクローズアップされる「オープンサイエンス」という概念そのものについて,コストの効率化の面や,シチズンサイエンスへの期待の面など,多角的な側面から捉え直しをする講演があった。例えば,OS以前からシチズンサイエンスの成功例は多数あったということが,映画にもなったロレンツォのオイルなどの例を紹介しながら示された。

 続いて,内閣府の「国際的動向を踏まえたオープンサイエンスに関する検討会」の委員でもあった,文部科学省科学技術学術政策研究所科学技術動向研究センターの林和弘氏からは,科学技術基本計画によるOSの推進など,政策面ではどのようにOSが捉えられているのかの報告があった(CA1851参照)。

 京都大学附属図書館の引原隆士氏からは,2015年4月に承認・公開された京都大学のOAポリシーの内容と承認までの経緯(E1686参照)が紹介された。

 千葉大学附属図書館の杉田茂樹氏の講演では,日本のIRの活動について,国立情報学研究所(NII)が果たす役割,日本の国立大学における人事異動の間隔との兼合いの中で担当者にどのように専門性を身に付けさせるかという問題,紀要の登録が比較的多いというIRへの登録コンテンツの割合などから見た,日本のIRの特徴が報告された。

 国内のIR等最新事例報告では,京都大学附属図書館の鈴木秀樹氏から京都大学のIR「KURENAI」の取組の紹介,機関リポジトリ推進委員会から博士論文オープン化に関する調査について調査結果の概要(E1707参照)が紹介された。

 文部科学省の菅原光氏からは,科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会の審議状況と,2015年9月に取りまとめられた,同委員会による「学術情報のオープン化の推進について」(中間まとめ)の内容を踏まえた上で,大学等に期待される取組についての報告があった。

 パネルディスカッションでは,ロドリゲス氏からの,ミーニョ大学でのリポジトリに関する取組の紹介や,カステリ氏からの,日本のOAに対する印象などを中心に,活発な議論が交わされた。パネルディスカッションの最後には,再度ロドリゲス氏が登壇し,世界中のOAに関する組織を繋ぎ,OAを推進する組織であるオープンアクセスリポジトリ連合(COAR;E992E1666参照)についての紹介があった。

 最後に,神戸大学附属図書館長野海正俊氏及びEUIJ関西代表井上典之氏から挨拶があり,シンポジウムは閉幕した。

神戸大学附属図書館・下村昌也,花﨑佳代子

Ref:
http://lib.kobe-u.ac.jp/www/html/events/euoa.html
http://ec.europa.eu/programmes/horizon2020/
http://ec.europa.eu/research/era/index_en.htm
http://ec.europa.eu/research/participants/portal/desktop/en/opportunities/h2020/topics/2054-infradev-04-2016.html
http://ec.europa.eu/transparency/regexpert/index.cfm?do=groupDetail.groupDetail&groupID=3353
https://www.openaire.eu/
https://guidelines.openaire.eu/
https://www.openaire.eu/noads/
http://www.fosteropenscience.eu/
https://www.fosteropenscience.eu/project/index.php?option=com_content&view=article&id=46&Itemid=282
http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/bulletin/index.php?page=article&storyid=1677&ml_lang=ja
http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/main5_a4.htm
http://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kihon5/chukan/index.html
http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/036/houkoku/1362564.htm
https://www.coar-repositories.org/
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/kernel/seika/JTITLE=8D918DDB83568393837C835783458380+3A+HORIZON2020+82C982E682E98349815B83768393.html
E1686
E1707
E992
E1666
E1725
CA1851