E1666 – リポジトリの相互運用性:研究情報とオープンアクセスを繋ぐ

カレントアウェアネス-E

No.279 2015.04.09

 

 E1666

リポジトリの相互運用性:研究情報とオープンアクセスを繋ぐ

 

 オープンアクセスリポジトリ連合(Confederation of Open Access Repositories:COAR;E992参照)は,2015年2月に「COARロードマップ:リポジトリの相互運用性のための将来的な方向性」(COAR Roadmap: Future Directions for Repository Interoperability;以下ロードマップ)を公開した。本稿ではロードマップを中心に,COARをめぐるリポジトリの動向について整理する。

 本ロードマップはCOAR第2ワーキンググループを中心に発足した相互運用性に関するプロジェクト(Interoperability Project)の活動の一環で作成されており,2012年に公開されたレポート「オープンアクセスリポジトリの相互運用性に関する現状」(The Current State of Open Access RepositoryInteroperability;以下レポート)の続編に位置づけられる。2012年レポートでは相互運用性の実現に関係する9領域の抽出と具体的なプロジェクトの調査結果が報告された。今回のロードマップは,相互運用性に関する大きなテーマとそれに含まれる具体的な課題を挙げ,それらの課題解決に向けて優先順位を設定することで,相互運用性実現への道筋をつけようとする目的をもつ。

 テーマは「インパクトと可視性」,「使いやすさ」,「持続性」,「データに関する問題」,「(データの)検証と集約」,「技術的な問題」の6つ,その下に「利用統計の出力」,「長期保存とアーカイブのサポート」,「重複除去」,「リポジトリとその相互運用性に関する構造上の推奨の定義」といった35の課題が挙げられている。ロードマップではこれらの課題に対し最終的に「時期」と「複雑さ」の2つの指標による分類が行われ,以下の9項目が喫緊の課題とされた。

  • 多様な引用フォーマットの出力
  • データ出力機能のサポート
  • ORCID,ResearcherID,AuthorClaimなどの著者識別システムのサポート
  • 個人や機関の出版物一覧といった業績リストの出力
  • 「被引用度数」などの計量書誌学的情報の出力
  • 利用統計の出力
  • MODS,METSなどのメタデータフォーマット追加のサポート
  • DOIの導入など,異なる永続識別子の統合
  • 検索エンジン最適化(SEO)のサポート

 一方,中長期的な課題の中には「オープンアクセスの執行状況の監視」,「研究データの公開」なども含まれており,欧州における動きとの関連を伺わせるものとして興味深い。

 欧州では,欧州委員会による研究開発プログラムが第7次研究開発枠組み(FP7)から後継のHorizon2020(以下H2020)に移行した。H2020は2014年から2020年までの欧州における研究開発・イノベーション支援を行うプログラムで,この助成を受けた研究成果は,論文のみならず,将来的にはデータもオープンアクセスにすることを視野に入れたポリシーを公開している。このH2020が動き始めたことによって,様々なプロジェクト・団体の活動も盛んになっていると考えられる。例えば,COARと同時期に発足したOpenAIREは欧州における公的助成研究成果の可視性向上を実現するプロジェクトであるが,2015年1月にH2020のオープンアクセスポリシーに対応する形でOpenAIRE2020をスタートさせた。

 2012-2015年の戦略計画にあるとおり,COARは発足当時よりオープンアクセスリポジトリ(以下リポジトリ)における相互運用性を定義し推進することを活動の柱のひとつにしている。リポジトリが研究情報のインフラストラクチャの中に明確な立ち位置を獲得するためには,各機関で設置・運用されると同時に,リポジトリ同士のネットワークを形成し,関連する他のシステムとも継ぎ目なくリンクされることが重要であり,これを実現するのが様々なシステム間の相互運用性であるというのが基本的な考えである。そのため,COARは参加機関・団体である各地域のリポジトリコミュニティに加え,欧州の研究情報システムに関するコミュニティEuroCRISや,研究情報の標準化・共有を目指す国際非営利団体CASRAI(Consortia Advancing Standards in Research Administration Information)などとの連携をすすめ,国際的な議論の場を提供しようとしている。H2020も契機となり,現在は研究情報やデータなどを扱うシステムとの相互運用性についても議論の場を形成しやすいタイミングであろう。

 最優先とされた短期的課題については既に取組みが始まっているものも多く,日本国内においてもアクセスログの解析と標準化の検討や,リポジトリのコンテンツへのDOI付与などが始まっている。実際の取組が国際的に発信されれば,有効な議論が形成されると考えられる。

 COARは世界中のリポジトリ間のシステム連携や問題意識の共有を中心に,関連する団体間をつなぐ役割を果たす組織である。相互運用性の具体的な議論を足がかりに,北米SPARCや南米LA Referenciaなど他地域の団体との関係性をも活かしつつ,「オープンアクセス」・「オープンサイエンス」をキーにした大きな学術情報流通の動きの中に,研究情報の管理とオープンアクセスをつなぐツールとしてリポジトリを位置づけていく活動を期待する。

大阪大学附属図書館・土出郁子

Ref:
https://www.coar-repositories.org/files/Roadmap_final_formatted_20150203.pdf
https://www.coar-repositories.org/activities/repository-interoperability/coar-interoperability-project/
http://ec.europa.eu/programmes/horizon2020/
https://www.openaire.eu/news-events/openaire2020-press-release
https://www.coar-repositories.org/about/coar-ev/strategic-plan/
http://www.eurocris.org/
http://casrai.org/
http://ir-suishin.repo.nii.ac.jp/
http://japanlinkcenter.org/top/
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