E1736 – 「神奈川県行政資料アーカイブ」の構築

カレントアウェアネス-E

No.293 2015.11.26

 

 E1736

「神奈川県行政資料アーカイブ」の構築

 

◯はじめに
 設置母体である地方公共団体が作成する行政資料を収集することは,公立図書館の任務の一つと考えられるが,ペーパーレス化が進む中,電子媒体の地方行政資料を系統的・網羅的に収集し,保存することは多くの公立図書館の課題となっている。神奈川県立図書館(以下当館)はその課題に取組むため,2015年4月に,神奈川県政策局情報公開課県政情報センター(以下県政情報センター)及び神奈川県立公文書館(以下公文書館)と連携して「神奈川県行政資料アーカイブ」(以下アーカイブ)を設置し,10月1日にウェブサイトを一般公開した。本稿では公開に至るまでの経緯などについて紹介する。

◯公開までの経緯
 近年,大学図書館においては「機関リポジトリ」が一般的になっているが,公立図書館において,設置母体である地方公共団体が作成する行政資料を系統的に保存・提供する例は多くはないだろう。神奈川県の電子媒体の行政資料は,当館が重点的に収集している「神奈川資料」(神奈川県の郷土資料及び行政資料)の重要な部分だと考えている。これらの行政資料を電子ファイルのまま収集するために,機関リポジトリ機能をもつソフトウェアを導入することが,数年前から館内の共通認識となっていた。そして,2015年4月のコンピュータシステム更新の際の仕様に組み込み,予算を計上することなく,新規事業として実施することを目指していた。

 具体的な検討は2014年3月頃から開始したが,4月頃には,県政情報センターから,県庁の政策局で課題となっている,電子化された行政資料の収集・提供という課題を解決するにあたり,当館と連携したいとの申し入れがあった。県政情報センターには電子ファイルを管理・保存し,インターネットから提供するシステムを持っていないためである。これを契機に,本事業は,県の行政資料を保存・提供する機能を持った公文書館を加えた3機関による連携事業とすることとした。

 当館は2015年4月に「運用指針」を施行し,同時期に県政情報センターは「県政情報センター等における情報提供等にかかる事務処理要領」を改訂した。この要領では,年報や統計書等の行政資料で紙媒体を廃止しホームページで提供することとしたものについては,原則として当館が運営するアーカイブに登録すること,神奈川県庁の各部署は行政資料の電子ファイルを県政情報センターに送付すること,県政情報センターは送付された電子ファイルを当館及び公文書館に送付すること,などを定めている。電子ファイルの送付に際しては登録申請書の添付を求めており,その記載内容が電子ファイル登録時のメタデータとなる。

 2015年8月の電子ファイルの登録開始に合わせ,当館・県政情報センター・公文書館のそれぞれの役割を明確化した覚書を締結した。この覚書において,県政情報センターの役割は県庁の各部署からアーカイブに登録する電子ファイルの収集,それらの当館及び公文書館への送付と庁内各部署との連絡調整であり,公文書館の役割は電子ファイルを公文書として保管し,当館サーバ内の電子ファイルが災害や機器の故障等で消失した場合には当館に電子ファイルを送信してアーカイブに再登録すること,当館の役割は館内のサーバに置かれたアーカイブに電子ファイルを登録し県民の利用に供すること,と定めている。

◯ソフトウェアについて
 当初は機関リポジトリとして導入されているソフトウェアを候補としていたが,行政の積極的な情報の公開や,行政への市民参加を促進するオープンガバメント推進の動向も踏まえ,CKAN(Comprehensive Knowledge Archive Network)を採用した。CKANは,Open Knowledge Foundationによって開発され,オープンソースとして提供されているソフトウェアで,政府系サイトのData.gov(米国),data.gov.uk(英国),DATA.GO.JP(日本)をはじめ,オープンデータ公開を進める様々な機関で採用されている。

 オープンデータとは,2次利用が可能で,機械判読しやすい形式のデータとされる。そうしたデータを検索しやすくするため,CKANは登録されているコンテンツをライセンスやファイル形式などで絞り込む機能をもっている。

 なお,現在登録しているコンテンツは,クリエイティブ・コモンズ・ライセンスによって利用条件を示した,PDF形式の行政資料が大半となっている。今後,継続的に保存・提供することと,情報の利活用を促進する観点から,機械判読性の高い,CSV形式などのデータを増やしていくことが課題である。

◯おわりに
 インターネット上に掲載された電子ファイルを収集し,提供している例はあるが,神奈川県のように,図書館と首長部局とが連携し,行政資料の作成部署から系統的に収集してアーカイブを行っている例は現時点ではほとんどないのではないだろうか。当館にとっては,紙媒体の行政資料の収集実績のある県政情報センターと連携することにより収集するタイトルが増えることが期待でき,独自サーバを持っていない県政情報センターや公文書館にとっては,電子ファイル及びメタデータの登録をデータの扱いに慣れた図書館職員に任せることができる,というWin-Winの事業であると考えられる。

 本事業はまだスタートしたばかりであり,アーカイブ公開時に登録が済んでいたのは80タイトル,約600ファイルである。紙媒体とホームページ上での両方を提供している行政資料に範囲を広げ,「ホームページから提供されている年報や統計書等の行政資料すべてを収集,保存,提供すること」を目標に,今後も3機関が連携し協力していくことになるだろう。

神奈川県立図書館・石原眞理,森谷芳浩

Ref:
http://www.klnet.pref.kanagawa.jp/data_catalog/
http://www.pref.kanagawa.jp/prs/p955304.html
http://www.mext.go.jp/a_menu/01_l/08052911/1282451.htm
http://datameti.go.jp
http://www.data.go.jp