カレントアウェアネス-E

No.294 2015.12.10

 E1747

NDL，図書館総合展で2014年度調査研究関連のフォーラムを開催

　2015年11月12日，国立国会図書館（NDL）は，第17回図書館総合展において，フォーラム「人は図書館をどのように思っているのかを知るために―「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査」の概要と利活用」を開催した。当日は，定員を大幅に上回る128名の参加があった。

　このフォーラムは，2014年度にNDLが行った「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査」の広報と調査結果の利活用に向けた提案を行うために開催した。この調査は，図書館利用者だけでなく，図書館を利用していない潜在的な利用者も含めて，図書館が果たすべき役割についてのニーズや図書館利用を含めた広い意味での情報行動の傾向を把握し，図書館政策立案者，各図書館，図書館情報学研究者等へ，今後の図書館のサービスや在り方の検討に資する基礎的な情報を提供することを目的としたものである。

　フォーラムでは，まず，関西館図書館協力課長の大柴忠彦から，本調査の目的を紹介するとともに，調査の広報と調査結果の更なる利活用促進のために本フォーラムの開催に至ったことを説明した。

　次に，関西館図書館協力課副主査の高城雅恵から，調査方法，回答者の属性，情報行動の傾向・公共図書館の利用実態・公共図書館への意識といった調査結果概要について，集計レポートに基づき報告を行った。具体的には，本調査はオンライン調査であること，データの偏りをできるだけなくすために総務省の住民基本台帳に基づき居住地・年齢・性別で回答者数を割り当てていること，回答者の職業・世帯年収・最終学歴等の状況，インターネットやテレビ・新聞等のメディア情報取得行動，公共図書館の利用頻度や目的，公共図書館へ期待する役割や重視されているサービス等である。調査結果（回答データ）や調査票，集計表，集計レポートは，「カレントアウェアネス・ポータル」から公開しているので参照されたい。

　続いて，関西館図書館協力課非常勤調査員で同志社大学助教の佐藤翔から，調査結果の利活用へ向けての提案を行った。利活用事例紹介では，まず佐藤自身の研究として，子の有無と図書館利用・情報行動と図書館への認識についての分析結果を紹介した。これまでの分析から，同居する子を持つ親は図書館をよく利用するものの，多くは子の付添いで，自身のための利用になっていないこと等が示されている。次に社会階層と図書館利用について，本調査のデータを用いて検証した野口康人氏らの学会発表を紹介した。野口氏らの発表では，経済資本，文化資本，社会関係資本を多く持つ人ほど図書館利用の割合が高いこと等が示されている。さらに本フォーラムで初めて発表する内容として，同志社大学の学生によるグループワークの成果を2件，紹介した。図書館利用と地域差について研究するグループでは，図書館利用と都市規模等のデータを分析している。同グループの分析から，大都市居住者の方が図書館利用者の割合が少ないこと，その要因は自身の居住地域の図書館の所在地を知らないためであること等が示されている。また，「孤独な人」の情報行動を研究するグループでは，過去1年以内に友人・知人・家族と一度も会話をしていないとした回答者を「孤独な人」と定義し，その情報行動を詳細に分析している。これまでの分析から，「孤独な人」は他の回答者に比べ，あらゆる情報行動に消極的であることがわかっている。これらの分析は本調査が集計前の回答データを公開していることで実現できたものであり，その他にも多様な活用可能性がありうることを最後に述べた。

　以上を踏まえ，質疑応答では，毎日新聞社の読書調査や東京大学の情報行動調査など，他の類似調査結果との整合性を確認した方がよいとの指摘や，公開している回答データ・調査票の利用条件等について質問があった。回答データは，当館が行った調査結果を利用している旨を明記していただければ利用申請は不要である。調査票は，個別の質問項目については自由に利用していただけるが，調査票全体について利用される場合は当館の転載依頼フォームから申込みいただきたい。

　フォーラム後には，自分でもデータ分析をしてみたいという感想や相談が複数寄せられた。調査結果の利活用事例は，さらなる利活用のヒントとなるよう「カレントアウェアネス・ポータル」で集積・共有している。調査結果に興味を持たれた方や実際に分析を行われた方は，ぜひ関西館図書館協力課調査情報係までご一報いただけると幸いである。

同志社大学・佐藤翔
関西館図書館協力課・高城雅恵
関西館図書館協力課・大柴忠彦

Ref:
http://current.ndl.go.jp/FY2014_research
http://current.ndl.go.jp/node/28249
http://current.ndl.go.jp/node/28543
http://current.ndl.go.jp/research
http://current.ndl.go.jp/about
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9373202_po_geppo1506.pdf?contentNo=1
E1667