カレントアウェアネス-E
No.294 2015.12.10
E1746
議会調査サービスのためのガイドライン
Inter-Parliamentary Union (IPU) and the International Federation of Library Associations and Institutions (IFLA). Guidelines for parliamentary research services. 2015, 45p.
“Guidelines for parliamentary research services”(以下ガイドライン)は,議会調査サービスの向上と拡大を考える際に何を考慮すべきか,についての世界の議会事務局の関心の高まりに応えるため,2015年8月,IFLA(国際図書館連盟)議会のための図書館・調査サービス分科会が,IPU(列国議会同盟)と共同で刊行したものである。
ガイドラインは10章から成る。前半は総論となっており,1章ではサービスを設ける意義,2章では実施主体,3章では政治的中立性を備えたサービスの設計方法等が説明されている。後半では各論として,サービスの具体的な内容(4章),運営方法(5章),品質管理(6章)のほか,外部機関との協力(7章),議会への報告(8章),サービスの拡張(9章),その他(10章)と,サービスの実務に基づく様々な知見が示されている。末尾には附属資料として,本文で紹介される「サービス憲章」及び提供するサービスの品質管理のためのチェックリストの作成例が掲載されている。
なお,本ガイドラインは,民主的に発展段階にある国・地域を主な対象としている。そのため,サービスの設計についての記述が厚いが,分科会メンバーの長年の経験に基づく様々な知見が随所に盛り込まれており,既にサービスを行っている機関やその職員にとっても示唆に富む内容となっている。
以下,ガイドラインの要旨を紹介する。
◯なぜ議会調査サービスか
議会調査サービスを設ける究極の理由は,日々あらゆる分野にわたって立法活動を行う議員に対し,不偏不党のバランスがとれた情報を適時適切に提供することにある。幅広い政策課題への取組が求められる議員にとって,「信頼のおける情報」の入手が課題の一つとなるが,求める分野について公平な立場から分析した情報を見つけることは容易でない場合もあるからである。
◯どのようにサービスを向上,拡大させるか
議会調査サービスは,その国・地域の文化や伝統により徐々に形成されるものであり,決まった「作り方」はない。しかし,一般的に共通して見られるステップを,これからサービスを展開させようと考えている担当者向けに挙げると,第一に職務範囲の明確化,第二に運営方法の決定,第三に外部機関との協力,の順序となるだろう。また,この3ステップに加えて,サービスの透明性を担保するための議会への活動報告も重要となる。
(1)職務範囲の明確化
まず必要となるのは,組織としての目標を設定し,誰に,どのようなサービスを提供するかを明らかにすることである。実績ある多くの機関では,議員及び公の議論に対する情報提供を目標に,与野党の議員,公認を受けた政党団体,委員会等の議会の内部機関に対して,現に直面している課題の争点や政策の影響を政治的に中立な立場から分析・説明した資料を提供する,といったことを明確にしている。このように職務範囲を明確にすることで,サービスを提供する機関の政治的中立性が守られるだけでなく,サービスへの過剰な期待を減らすこともできる。
(2)運営方法の決定
次に,(1)で明確にした職務範囲をサービス憲章のような形で定める。これには,サービスの内容や範囲について議員の誤解を減らすだけでなく,すべての要望に応えるだけの資源がない場合に何を優先するかを決める拠り所としての意味もある。この憲章は内部文書にとどまる場合もあるが,サービスの透明性向上やサービスへの過剰な期待を減らすために議員と共有されたり,公式文書として外部に公開されたりする場合もある。
また,提供する資料等の成果物の品質管理のために,内部マニュアルやチェックリストを作成する。サービスの信用は,軽微なミスで失われてしまうため,資料が事実に基づいているか,出典は適切か,バランスがとれているかといった点について,職員が確認できるようにするのである。
なお,サービスの範囲と質は,根本的にはその機関がもつリソースによって決定される。したがって,時代に即した蔵書の構築やデジタル環境の整備が欠かせないだけでなく,有能な人材の育成・確保も重要な業務の一つとなる。サービスを一層向上させるには,サービス自体に対する外部からの認知度を高めつつ,議員にとってどのようなサービスが価値あるものかということについて組織内で理解を深めるために,成果物及びサービス自体を評価することが有効である。
(3)外部機関との協力
一機関が実際に有している資料だけで対応しきれないという事態は,サービスの規模を問わず生じる。そのような場合,外部の資料に当たるため,行政機関や学術機関を含む議会内外の様々な機関と協力し,職員の個人的なネットワークもできる限り活用する。また,同様の調査を行っている他機関との成功事例の共有や,外部の多様な知見の集積と統合も有益である。こうした外部機関との協力関係の構築は,サービスの本質的な向上につながり,議員の立法活動の一助となるだろう。
(4)議会への活動報告
公的資金や外部からの寄付金によって運営されることが多い議会調査サービスは,資金の使途等について,一般社会や議会の監督機関に対して説明責任を負う。議会への活動報告の機会は,政治的中立性と議会を支援するという役割の透明性をアピールする場にもなり,議員からの信頼を得る上でも重要である。
調査及び立法考査局政治議会課・和田絢子
Ref:
http://www.ifla.org/node/9758
http://www.ifla.org/publications/node/9759
http://www.ifla.org/files/assets/services-for-parliaments/publications/guidelines-for-parliamentary-research-services-en.pdf