E2577 – 議会図書館のためのガイドライン(第3版)

カレントアウェアネス-E

No.452 2023.02.16

 

 E2577

議会図書館のためのガイドライン(第3版)

調査及び立法考査局議会官庁資料課・齋藤千尋(さいとうちひろ)

 

  2022年7月21日,列国議会同盟(IPU)と国際図書館連盟(IFLA)議会のための図書館・調査サービス分科会(PARL)は,『議会図書館のためのガイドライン(第3版)』を共同で刊行した。本ガイドラインは,1993年に第1版,2009年に第2版が公開された『立法補佐図書館(Legislative Libraries)のためのガイドライン』のタイトル変更を経た最新版である。以下,概要を紹介する。

●目的

  IFLA PARLは,議会に情報や知識を提供するための基準や優良事例を作り出し,広めることを目標の一つに掲げる。本ガイドラインは,議会図書館の設立や発展に取り組む人々を対象に,民主的な議会と国会議員が効果的に活動するためには議会図書館による図書館サービスと調査サービスが不可欠であるという前提を踏まえ,どのようにサービスを形作り発展させるか,適切な水準を設定するための手引きとして刊行された。

●更新の背景

  第2版は,特に情報通信技術(ICT)の発展に対応する形で更新された。国会議員の仕事の方法が大きく変化したことに伴い,議会図書館によるサポート方法も変容したことを反映した。サービスのマーケティング,利用者の図書館利用スキル向上支援,市民や学生向けの情報提供等の幅広いトピックに関する追記が行われた。

  第2版以降もICTは発展を続けた。議員や市民が容易に入手できる情報量が増大する中,信頼性が高く,不偏不党で,政府から独立した情報を得ることの重要性は増した。第3版に向けて見直し作業が進む中,COVID-19による世界規模の危機が発生すると,強い外出・行動制限の下で議会図書館も影響を受け,閉館中でもサービスを継続するため,技術革新と,急速かつ断絶的でさえある激しい変化を強いられた。並行して,SDGs,特にSDG16(平和と公正をすべての人に)によって議会の透明性や市民との関わりを重視する傾向が強まり,議会図書館や調査サービスに期待される役割が増したこともあって,新版の必要性はさらに高まった。

●構成

  本ガイドラインは全18章から成る。まず,議会図書館の役割,環境やサービスの変化,本ガイドラインの目的を確認し(1・2章),主な利用者である議会関係者の特徴を分析する(3章)。次に,議会図書館の一般的なサービス内容や品質・評価(4~10章),職員・ICT・財務等の運営に関わる事項(11~13章)をまとめる。議会図書館と調査サービスの関係を考察し(14章),国際連携(15章),市民・学校向けサービス(16章),議会資料アーカイブ(17章)も紹介する。

●第3版の特色:COVID-19とICT

  本稿では,第3版の最大の特徴であるCOVID-19の影響とICTの利活用に言及しておきたい。

  第3版は,COVID-19に起因する急激な変化に焦点を当てる。リモートアクセスできる資料・情報へのニーズがかつてなく高まったことで,議会図書館のデジタルシフトが促されたのは重大な変化であったとする。特に,サービスの提供方法は加速度的に変わり,情報や成果物等を議会関係者にオンラインで提供するようになっていくであろうと予測する。また,各国の議会図書館がリモート勤務を導入し,オンラインとオフラインの勤務環境が混在するようになった結果,職員に関する課題が顕在化したという。例えば,対面勤務で共有してきた知識・理解が維持されなくなり,リモート勤務によって労働の品質や生産性の共有基準が保たれなくなることや,リモート勤務を行う職員と,彼らのケアを行う人事管理者に対する心身両面のサポートが不足することへの懸念である。これらの課題にも対処が求められている(2・11・12章)。

  ICTに関する記述は大幅に更新され充実した。議会図書館においてICT利活用を進める際に検討すべき課題は多岐にわたり,例えば,議会関係者に提供するリモートでのサービスへのサポートやセキュリティ,障害発生時のサービス維持,デジタルコンテンツの整理・管理等を挙げる。加えて,議会内外との双方向的コミュニケーション,ボーンデジタル資料を考慮したアーカイブの構築方針,議会全体でのシステムの相互運用性等も,議会図書館の戦略的計画に盛り込む必要があるとする。さらに,議会に関するデータの公開や議会資料のアーカイブは,議会の透明性を高め,市民の理解と立法過程への参画を促進する意義があると強調する。また,ソーシャルメディアについては,市民が議会に関与しやすくなるツールであり,メリットとデメリットを踏まえて明確なポリシーと手順を定め,活用することを推奨する(12・17章)。

●おわりに

  第1版から30年が経過し,ICTの発展に加え,パンデミックが議会図書館のサービス方法,利用態様に大きな影響を与えている。他方で,議会関係者のニーズを把握し,信頼性が高く偏りのない情報を政府とは異なる立場から提供するという,議会図書館の根本的な役割は不変であることも,本ガイドラインは改めて確認する。議会図書館がこうした役割を果たしながら今後の展開を探求する上で,本ガイドラインが広く参照されることを期待したい。

Ref:
“Now available: Guidelines for Parliamentary Libraries, 3rd edition”. IFLA. 2022-07-21.
https://www.ifla.org/news/guidelines-for-parliamentary-libraries-3rd-edition/
IFLA Section on Library and Research Services for Parliaments Section et al. Guidelines for Parliamentary Libraries. 3rd ed. IFLA, 2022, 97p.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/2000
IFLA Library and Research Services for Parliaments Section et al. Guidelines for Legislative Libraries. 2nd, completely updated and enlarged ed. De Gruyter Saur, 2009, 135p., (IFLA Publications, 140).
https://repository.ifla.org/handle/123456789/979
IFLA Library and Research Services for Parliaments Section et al. Guidelines for parliamentary research services. IPU. 2015, 45p.
https://repository.ifla.org/handle/123456789/1177
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https://current.ndl.go.jp/e1746