カレントアウェアネス-E
No.452 2023.02.16
E2578
都道府県立図書館サミット2022<報告>
都道府県立図書館サミット実行委員会・市村晃一郎(いちむらこういちろう)
2022年11月27日から28日にかけて,鳥取県立図書館を会場に,都道府県立図書館サミット2022を開催した。「都道府県立図書館と基礎自治体」及び「これから(未来)の図書館 情報・空間・人」をテーマに,様々な立場・視点からの発表を基に議論を深め,各々が得た学びと気づきを地域に還元することを目的とするもので,2016年(E1828参照)及び2019年(E2199参照)に続く3回目の開催である。
セッション1の基調講演「都道府県立図書館論のこれまでとこれから」では,田村俊作氏(石川県立図書館長)が,市町村立図書館への協力・援助論や機能分担論を背景に都道府県立図書館の活動を固定的に捉える限り,都道府県立図書館の振興は難しいと指摘し,市町村支援を前提にしながらも「もっと自由に」新たなサービスを構築してよいのではと述べた。
基調講演を受けて行われたセッション2のクロストークでは,小林隆志氏(鳥取県立図書館長)が,都道府県立図書館の必要性が市町村立図書館に十分認知されていない実態への危機感を示し,鳥取県のデータベース全県一括契約の事例等を挙げながら,今後はどの図書館も取り残さずいかに全県の図書館力をあげていくかを考え行動することが重要と語った。
セッション3「都道府県立図書館と基礎自治体:都道府県立図書館の役割」では,冒頭に吉本龍司氏(カーリル)から,デジタル社会の中で期待される図書館機能やサービスに関する共通認識と,それを前提とした都道府県立図書館と基礎自治体の役割と連携可能性を考えたいとの課題提起があった。森いづみ氏(県立長野図書館長)からは「県立図書館は地域情報資源のプラットフォーマーになれるか」と題し,県立長野図書館が取り組んできた地域情報資源のプラットフォーム「信州ナレッジスクエア」と2022年度運用を開始した市町村と県による協働電子図書館「デジとしょ信州」を中心とする報告があった。岩崎武史氏(鳥取県立図書館)の「図書館の県域サービスを考える」では,図書館間のネットワークを軸にした鳥取県立図書館の取組が紹介された。
セッション4「図書館事業経営のアライアンス(提携):都道府県立図書館と基礎自治体そして多様なプレイヤー」では,二つの話題提供が行われた。高橋真太郎氏(鳥取県境港市民図書館副館長)は「図書館とまちとのにぎやかな関係」の中で,境港市民図書館の新規開館にあたって鳥取県立図書館から異動して勤務した経験から,都道府県立図書館が市町村立図書館を支援するには俯瞰的視点を持つことや,現場に近づいて解像度を上げ情報源の周囲に広がる人やまちの営み等を多角的に理解する必要があると指摘した。山重壮一氏(高知県立図書館専門企画員)からは,「県市合築図書館の現状・課題・展望」として,オーテピア高知図書館の運営について報告があった。県市併存による意思決定の複雑さや,資料費及び人員の継続性を課題としながらも,課題解決を支援する図書館をコンセプトに,正規職員の司書を各サービスに配置しその専門性を活用するサービスに注目してほしいと述べた。
セッション5「図書館の可能性:空間そして情報・人の融合」では,新静岡県立図書館建築のプロポーザルに参加した2人の建築家,森田祥子氏(MARU。architecture共同主宰)と畝森泰行氏(畝森泰行建築設計事務所)を招き,トークセッション「建築からみる図書館の“空間・場”」が行われ,静岡での事例を元に,入念な研究を踏まえて総合的な図書館設計を行っていることが紹介された。また,図書館のつくられ方や求められる機能が多様化していることから,様々な専門家が集合した良いチームをいかに作り上げるかが重要と指摘するとともに,竣工後の図書館が長く使われ機能していくために建築家や市民が継続して関与していける制度設計が課題だと述べた。フロアトークでは,外部の見方や発案に関心を持って受容し,より図書館を高めようとする意識を持つ図書館員と仕事がしたいという建築家からの発言があった。また,市民や外部の関係者とコミュニケーションを図る上で,図書館が自己について明確に規定・言語化することが不可欠であり,それを図書館以外の人とも共有し,理解しあえるような「共通言語」を模索する必要があることが指摘された。
セッション6「社会的装置としての“図書館”を考え,行動し続けるために」では,はじめに実行委員会内の要覧調査分析プロジェクト「チーム要覧ごらん」による,各図書館の要覧ポスターセッション報告「都道府県立図書館の『情報・空間・人』」が行われた。各館独自の特徴を持って作成・更新されてきた要覧を「秘伝のタレ」になぞらえながら,図書館間の比較検討や共通言語としての活用のためのフォーマットの共通化やオープンデータ化等を提案した。プログラム検討チームによるラップアップでは,都道府県立図書館をテーマとしながらも館種や職種を超えた広がりのある参加者が集ったことを挙げ,それぞれの立場から図書館について考え行動するために,図書館内部にとどまらない社会に向けた「共通言語」を模索する場としてサミットを継続していきたいと総括した。
なお,各セッションの動画及び資料は,併催の「図書館総合展ウェブサイト」で公開されている。本サミットにおける活発な議論等については,ぜひそちらを視聴されたい。
Ref:
“【終了しました】「図書館総合展2022カンファレンス in 鳥取」/(併催)「都道府県立図書館サミット2022」を開催します”. 鳥取県立図書館.
http://www.library.pref.tottori.jp/info/post-241.html
“【動画・資料公開中】2022カンファレンスin鳥取 +都道府県立図書館サミット”. 図書館総合展.
https://www.libraryfair.jp/forum/2022/518
水野翔彦. 都道府県立図書館サミット2016<報告>. カレントアウェアネス-E. 2016, (309), E1828.
https://current.ndl.go.jp/e1828
子安伸枝. 都道府県立図書館サミット2019<報告>. カレントアウェアネス-E. 2019, (380), E2199.
https://current.ndl.go.jp/e2199